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CD/DVD DisksNo. 335

#2431『Gabriel Vicéns / Niebla』
『ガブリエル・ヴィセンス/ニエビヤ(霧)』

text by Tomoyuki Kubo 久保智之

Clepsydra Records CR 001

  1. El Fin de la Noche…(夜の終わり...) 02:03
  2. Niebla (霧)08:03
  3. Vejigante (ベヒガンテ)08:36
  4. 900-50-80 11:18
  5. …tu anhelo…(...あなたの憧れ...) 02:10
  6. Ramaje (葉むら)14:58
  7. Guaiza (グアイザ)08:57
  8. Stray Dogs (野良犬の群れ)07:28
  9. …y la Lluvia (...そして、雨)02:18

Gabriel Vicéns: guitar
Roman Filiú: alto saxophone
Vitor Gonçalves piano
Rick Rosato: bass
E.J. Strickland: drums
Victor Pablo: percussion

Recorded by Chris Allen at Sear Sound, NYC on May 2025
Assistant Engineer: Maximilian Troppe
Editing Engineer: Danilo Pichardo at Addictive Audio Studio, NYC
Mixed and Mastered by David Darlington at Bass Hit Recording, NYC
Cover artwork: Niebla by Gabriel Vicéns
Photography: Adrien H. Tillmann
Album Design: Shanshan Duan
Produced by Gabriel Vicéns
All compositions by Gabriel Vicéns, Vicens Music (ASCAP)


ニューヨークを拠点に活動するプエルトリコ出身のギタリスト・作曲家、ガブリエル・ヴィセンスによる5枚目のスタジオアルバム『Niebla』。

プエルトリコ音楽の持つ力強いリズムとジャズのモダンな和声、そして「時間」や「空間」という要素を効果的に組み入れた、アヴァンギャルドで実験的とも言えるとても意欲的な作品だ。

・時間軸をデザインする「動」と「静」の対比

音楽は時間の流れの中で表現される芸術だが、本アルバムにおける時間軸の扱いは、きわめて斬新で鮮やかだ。

テンポが速くエネルギーに満ちた「動」の楽曲では、複雑なリズムが躍動し、音が前へ前へと進んでいく。その複雑さは決して難解ではなく、自然と聴き手の身体に入り込み、心地よい高揚感を生む。一方で「静」の楽曲では、ひとつひとつの音が丁寧に置かれていく。音と音のあいだにある余白が、静かな緊張と深い呼吸を感じさせ、聴き手は自然な時間の流れの中へと導かれる。

作品全体の流れにある「動」と「静」のコントラストも素晴らしい。爆発するような熱量を放つ「動」の楽曲から、一転して深い静寂へと至る「静」の楽曲への変化は実に見事だ。この対比が、目の前に広大な空間を感じさせ、聴き手を物語の奥深くへと引き込んでいく。

・複雑なリズムとミニマリズムの共鳴

「動」の楽曲では、変拍子なども効果的に取り入れたプエルトリコ由来の複雑なリズム・アプローチが全体を貫く。複雑なリズムの上でミニマルなテーマが反復され、強烈なグルーヴが生み出される。耳で聴くというより身体が自然に動き出すような、中毒性のあるリズムだ。そのグルーヴの中で、グイグイとドライブする伸びやかなソロが繰り広げられていく。

アルバムタイトル曲 〈Niebla〉

・縦と奥行きの広がりを感じる豊かな空間

このアルバムについてさらに印象的なのは、音がその場に作り出す「空間」そのものの強烈な存在感である。音楽を水平に流れる時間軸としてとらえるなら、本作——特に「静」を重んじた楽曲——には、そこに「縦方向の広がり」や「豊かな奥行き」が加わっている。

そのゆったりとしたリズムは驚くほど有機的だ。ひとつひとつの音は、まるで葉に溜まった雨の雫が重なり、やがて自然にポツリと落ちていくような……そんな、極めて自由度の高い時間の経過が感じられる。

曲の流れの中で、音が目の前で立体的、多次元的に広がっていくさまは、新鮮な体験をもたらしてくれる。『Niebla』は、単に耳で聴くだけの音楽ではない。私たちはただ「聴く」のではなく、ガブリエル・ヴィセンスが音で構築した空間の中に、共に存在しているような気持ちになる。実に心地よく、どこか不思議な感覚を味わわせてくれるとても魅力的な作品だ。

久保智之

久保智之(Tomoyuki Kubo) 東京生まれ  記事執筆実績等  <音楽雑誌>ジャズライフ, ジャズ・ギター・マガジン, ヤング・ギター, ADLIB 等  <ジャズイベント>ブルーノート・ジャズ・フェスティバル  <ライナーノーツ>Pat Metheny 等

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