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CD/DVD DisksNo. 335

#2432 『大友良英 Special Big Band/そらとみらいと』

text by Masahiro Takahasi 高橋正廣

Little Stone Records ¥3000
『そらとみらいと』

第1楽章 レクイエム/Part1 Requiem
1. Scene1 06:02
2. Scene2 10:01

第2楽章 Life/Part2 Life
3. Scene1 05:18
4. Scene2 02:30
5. Scene3 05:28

第3楽章祭りと空と/Part3
6. Festival and Sky 16:18

7. Epilogue 01:21

Recording, Mixing and Mastering at Sony Music Studios, Tokyo July-Oct. 2025
Recording, Mixing and Mastering Emgineer: Koji C Suzuki (Sony Music Solutions, Inc.)
Assistant Engineers: Naoki Kawashima and Kazuki Matsuda (Sony Music Solutions, Inc.)
Recording Coordinator: Moto Uehara



指揮者 佐渡裕に作曲を依頼される

検索サイトWikipediaによると、神奈川県横浜市生まれの大友良英は「1959年〈昭和34年〉8月1日~、日本のギタリスト、ノイズ、フリー・ジャズ、ターンテーブル奏者、前衛音楽、即興音楽、パンク・ロック演奏者、作曲家、テレビ・映画音楽家、プロデューサー」とある。最近はFMのジャズ番組でディスク・ジョッキーも務めている彼の名が一気に広まったのは2013年のNHK朝ドラ「あまちゃん」の音楽を担当したことによる。それまでの大友は大学時代に高柳昌行の生徒兼付き人としてフリー・ジャスに没頭した時代を経てノイズミュージックやパンクといった音楽へシフトしてカルト的な支持を受け、アジアや欧米の音楽シーンへと活躍の場を広げていたものの、大衆的人気・知名度とは無縁だった。1990年代に入り、大友が最初に組織したバンド名は爆心地を意味する「Ground-Zero」であり、これは謂わば鎮魂の代名詞でもある。このバンドは1998年に解散するが、その後の大友の音楽活動にとって重要な意味を持つネーミングとなる。

1995年1月17日、阪神淡路大震災発生。死者・行方不明者6,437名という発生当時、戦後日本における最悪の大災害であった。そして下ること2005年、即興音楽家、兵庫県の知的障がい者、音楽療法士らによる「音遊びの会」結成に大友は参加する。共に即興演奏を行うことにより、新しい音楽表現の地平を開拓しようとワークショップやコンサート、様々なイベントが彼らによって開かれている。このムーヴメントもまた大友に大きな影響を与えている。

2001年3月11日、東日本大震災発生。死者・行方不明者22,332名。戦後未曾有の大震災となった。大友は高校卒業まで福島に居住しており、両親が今なお福島に住んでいることもあって福島は第二の故郷であり、彼は震災後、“プロジェクトFUKUSHIMA”を立上げてその支援・復興に大きな力を注いできた。先に触れた「あまちゃん」のストーリーの背景にも東日本大震災が大きく影を落としていたことは番組を観た視聴者ならご存じのはず。世界的にも著名な指揮者佐渡裕が阪神淡路大震災から30年の節目に当たって大友に作曲を依頼し2025年1月17日に兵庫兵術文化センター管弦楽団によって初演されたのが3つの楽章から成る『そらとみらいと』である。阪神淡路大震災と東日本大震災という二つの大惨事を思うと、佐渡が大友に作曲を依頼したのは偶然ではなく、ある種の必然だったのではないかと筆者は想像する。

ビッグバンド・ヴァージョンの制作

さて『そらとみらいと』はオーケストラ作品にも拘らず即興演奏の要素も入っていて、この作品の初演後、大友はこのビッグバンド・ヴァージョンの制作へと取り掛かり、完成したのが本作品だ。

Part1「Requiem(レクイエム)」、Part2「Life」、Part3「(Festival and Sky(祭りと空と)」で構成されるこのアルバムは全曲大友のコンポジッションでピアニストとしても参加している江藤直子と加藤みちあき、荻原和音の3人がアレンジャーとしてペンを執っている。

Part1「レクイエム」はその名の通り鎮魂歌。阪神淡路大震災、東日本大震災を始め、2024年の能登半島地震まで多くの自然災害の数多の犠牲者の魂を慰めるために書かれたものだが、大友自身の心の安寧を求める場でもあるのだろう。このパートはScene1とScene2から成っていて、静謐な鈴の音から始まるScene1の死者から生者への囁きのようなイントロ、Scene2ではクラリネットの囁きから次第に荘厳な響きへと昇華していくブラスとそれに纏わる囀りのような音群、それら全てが命の尊厳を謳っている。

筆者にはLifeと題されたPart2のScene1は人が生きることの辛苦や哀しみ、怒りそして喜び、それら全てが混沌の中にあり、人はそれらを引受けて己の生を生きてゆくのだと悟る、そんな印象を綴ったように思えて仕方がない。即興のパートらしくScene2では大友のノイズギターを中心に据えてディープな喧騒の音世界へと突入するのだが、それ少しも濁った世界ではなく、寧ろ爽快な印象すら与えている。続くScene3は高空へと飛翔・拡散していく精神の解放をイメージさせられる。パーカッションと吹奏楽器が一体化して天空へと昇華するのだ。Part3の祭りへの序章とも受け止められよう。

Part3は正に祭囃子から始まる。鉦・太鼓・笛が大地のエナジーを覚醒させて物語の第3章が始まる。それはブラス・リードが加わって大きなうねりとなって、聴く者の、演奏する者の魂を解放してゆく壮大な叙事詩だ。途中幾度も繰り返される祭太鼓や「福島わらじ祭り」の旋律がボレロとなって曲に明るい彩りを鮮明に与えている。Part3の終盤はまさに聴く者に心の平安をもたらしてくれる楽曲であり未来へ開かれた希望の灯火となって人々を照らしているのだ。末尾にひっそりと置かれたEpilogueは実際の祭りの音源なのだろう。(このパートは果して必要だったろうか)

「鎮魂、即興、そして祭り」という東日本大震災後の大友が様々な形で行なってきた活動の根幹ともいえるこのテーマを更に深化させているのは、一つには「福島わらじ祭り」のために作った旋律やリズムが人間にとっての根源的な生命力の発露としての土着的なエナジーを与えているからだろう。ジャズと古典的芸能としての祭囃子がこれほどまでに有機的に相互作用をもたらした作品を筆者は他に知らない。

大友は語っている。『そらとみらいと』は、私にとって震災後の集大成とも言える作品です。と同時に未来に開かれた作品でもあります。作品そのものの作られ方が単に作曲者単独の手によりものではなく、複数の編曲者や指揮者、演奏者と共に作られるように出来ている上に、真ん中にはオーケストラとしては異例の即興パートが入っていて、毎回更新され続けるような構造になっているからです。(中略)私自身もこの先この作品をさまざまな形で更新し続けようと思っています。すでにビッグバンド・ヴァージョンも発表になりましたが、それ以外にも、たとえば展示作品としてであったり、子供が演奏できるバージョンであったりと、未来に向け複数の人たちと共に様々な形で開いていければ、そんな風に考えています。本作はその先駆けとなる作品なのです。」と。

震災の記憶を風化させてはならない

高橋正廣

高橋正廣 Masahiro Takahashi 仙台市出身。1975年東北大学卒業後、トリオ株式会社(現JVCケンウッド)に入社。高校時代にひょんなことから「守安祥太郎 memorial」を入手したことを機にJazzの虜に。以来半世紀以上、アイドルE.Dolphyを始めにジャンルを問わず聴き続けている。現在は10の句会に参加する他、カルチャー・スクールの俳句講師を務めるなど俳句三昧の傍ら、ブログ「泥笛のJazzモノローグ http://blog.livedoor.jp/dolphy_0629/ 」を連日更新することを日課とする日々。

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