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CD/DVD DisksNo. 336

#2435 『Dorota Piotrowska & Sound Circle/Voices of Human Consciousness』
『ドロタ・ピオトロフスカ&サウンド・サークル/ヴォイシズ・オヴ・ヒューマン・コンシャスネス』

text: Ring Okazaki 岡崎 凛

Inner Circle Music and Teraz Teraz 2026
Personnel:
Greg Osby (グレッグ・オズビー): Alto Saxophone (track 1, 2, 3, 5, 6, 7, 8)
Hildegunn Øiseth(ヒルデグン・オイセス): Trumpet (track 1, 2, 3, 5, 6, 8) , Bukkehorn*(Tracks 4, 7, 9, 10)
Tarek Yamani(タレク・ヤマニ): Piano (tracks 1, 2, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10)
Ameen Saleem (アミン・サリーム): Double Bass
Dorota Piotrowska(ドロタ・ピオトロフスカ): Drums & Percussion
Barbaro Crespo „Machito” (バルバロ・クレスポ、 “マチート”): Congas (track 1, 3, 6, 7, 8) Udu **(track 4)  Voice (track 7)
Special guests:
Sanem Kalfa(サネム・カルファ):Voice (tracks 1, 6, 9, 10)
Marlena Grodzicka Myślak(マルレナ・グロジツカ・ミシュラク): Viola (track 9, 10)
Jakub Myślak (ヤクブ・ミシュラク): Cello (track 9, 10)
Leszek Możdżer (レシェク・モジジェル): Piano (track 4)
*Bukkehorn (ブッケホルン、角笛)、**Udu(ウドゥ、ナイジェリア由来のつぼ型打楽器)

Tunes & composers:
1. Cambria (Greg Osby) 5:59
2. Upon ( Tarek Yamani) 7:23
3. Saba H2O (Tarek Yamani) 7:35
4. Lost & Found (Hildegunn Øiseth) 6:18
5. Psychomachia (Dorota Piotrowska) 6:36
6. Cyrille in Motian (Greg Osby) 6:09
7. Lothlorien (Dorota Piotrowska) 8:08
8. Spark (Kamil Pełka) 7:12
9. Circle I (Dorota Piotrowska) 2:33
10. Circle (Dorota Piotrowska) 4:46

Recorded and mixed by Łukasz Wójcik-Zawierucha at Leszek Możdżer 701 Studio, Wrocław, Poland, October 2025 Mastered by David Darlington
Produced by Dorota Piotrowska
℗ 2026 Dorota Piotrowska-Pełka. © 2026 the respective composers.
Released by Inner Circle Music and Teraz Teraz.
All rights reserved. Unauthorized duplication is a violation of applicable law.
www.dorotapiotrowska.com www.innercirclemusic.com

Dorota Piotrowska & Sound Circle feat. Greg Osby
Dorota Piotrowska & Sound Circle feat. Greg Osby

ポーランド出身、ドロタ・ピオトロフスカの結成したグループ、Sound Circleのデビュー作品『Voices of Human Consciousness』は、国際ジャズ・デーに先立ち、2026年4月25日、ヴロツワフの「Jazz nad Odrą」(ジャズ・ナド・オドロン)フェスティバルにおいて初披露される予定である。
(アルバムが各種音楽サブスクリプションなどで配信されるのは、2026年6月1日とされている)

「ノルウェーのフィヨルドや、アラビアのリズムから、ポーランドの叙情性まで、そしてジャズの伝統に深く根ざしつつも、大胆に既成概念を打ち破るグレッグ・オズビーの楽曲を織り交ぜ、その音楽は多様な音楽の世界を巡る真の旅となる」
(ドロタ・ピオトロフスカのウェブページより、抜粋訳 https://www.dorotapiotrowska.com/soundcircle

本誌に寄せられたピオトロフスカ本人よる説明には
「本アルバムは、アメリカ、ポーランド、レバノン、キューバ、ノルウェー、トルコなど、7つの文化的背景を持つアーティストが集まり、「対話」を音楽的かつ人間的な原理として探求する即興作品で構成されています。収録曲には、ドロタ・ピオトロフスカの作品のほか、グレッグ・オズビー、ヒルデグン・オイセス、タレク・ヤマニによるオリジナル曲が含まれており、アミーン・サリーム、サネム・カルファ、バルバロ・クレスポ、そしてレシェク・モジジェルも参加しています」
とある。彼女の言葉に加えて、本作のために結集した音楽家たちには、自己のスタイルを確立した精鋭が揃っている、と補足しておきたい。Sound Circleの充実したパフォーマンスと、仲間との相互コミュニケーションを瞬時に築く反応の素晴らしさは、特筆に値するが、一方で、いかにもジャズミュージシャンらしいフレキシブルな対応とも感じる。
彼女の言葉は次のように続いている:
「アルバムはポーランドで3日間にわたって、432Hz(注:ピアノのピッチは、国際基準は440Hz〜442Hzが主流なので、432Hzは標準よりかなり低め)のチューニングで録音されました。北欧の音響的な風景、アラブのリズム構造、ポーランド的なリリシズム、そしてアメリカン・ジャズの言語が出会う中で生まれる、即興的な相互作用を収録しています。」


ドロタ・ピオトロフスカの率いるグループ、Sound Circleが多国籍バンドだという点で、まず興味が湧いた。異文化交流から生まれる音楽を、どのように掬い上げ、熟成させるか、またコンテンポラリージャズの文脈の中で、どうまとめるのか? そうした点に注目したいと思った。本人の説明にあるように、かなり異質な文化が隣り合わせになっているが、全般に極めて自然な流れのある作品に仕上がっていると感じる。

多国籍の演奏家が集まるインターナショナル・バンドの演奏は、よく耳にしてきたが、Sound Circleには、これまで出会ったことがない壮大さを感じる。例えば、キューバのパーカッショニスト、バルバロ・クレスポによる滋味豊かな歌声を導入部に使い、ヒルデグン・オイセスの北欧の伝統楽器、角笛の音をフィーチャーする7.〈Lothlorien〉*では、荘厳さに包まれ、果てしない時空の広がりを感じる。
また、4.〈Lost & Found〉のグレッグ・オズビーの吹く伸びやかなサックスにも、オイセスの角笛にも、水平線の先を見渡すような景色を想像した。
(*曲名となった「ロスローリエン」とは、J・R・R・トールキンの『指輪物語』などに登場する「エルフ」の国の一つ。)
アラブ音楽風の3.〈Saba H2O〉は、レバノンのピアニスト、タレク・ヤマニの曲であり、アラビア半島由来の音使いとリズムがジャズのグルーヴに程よく溶け込んでいる。
曲の冒頭でアミン・サリームのベースソロが味わい深い8.〈Sparks〉は、1960年代頃のストレートアヘッドなジャズの名曲を連想させる。米国のジャズ歴史へのリスペクトを込めた作品と感じる。

きちんとしたテーマのある「企画書」を備えたアルバムが面白い作品になるとは限らないが、その点で本作は成功しており、「即興作品において、音楽的かつ人間的な対話を探求する」というピオトロフスカの思いは、見事に言葉の通りになり、楽曲は薫り高く、まるで言葉で語り合うかのように、演奏者同士が心を通わせていると感じる。

最近のように、異文化を認めない国家による戦争が激化するのを目の当たりにすると、多国籍の演奏家たちの交流は一段と意義あるものに思えてくる。


Sound Circleのメンバー紹介:
Dorota Piotrowska(ドロタ・ピオトロフスカ、ドラム)
ポーランド出身のジャズ・ドラマーであり、ここに紹介するSound Circleのリーダーである。彼女はヨーロッパとNYCのジャズシーンをつなぐ架け橋のような音楽家であり、豊かな個性の持ち主として知られている。ニューヨークでの8年間の研鑽に加えて、カーネギーホール、リンカーンセンター、ストックホルム・コンセルトハウスなどの著名な会場での演奏経験があり、ジェレミー・ペルト、アンソニー・ウォンジー、The Curtis Brothers、セシリア・ノービー、Sisters in Jazz、ヤン・ルンドグレンといった第一線の音楽家たちと共演し、国際的キャリアを築いてきた。彼女はACTミュージックからリリースされたセシリア・ノービーの『Sisters in Jazz』を含む8枚のアルバムにドラマーとして参加している**。
ピオトロフスカは、ニュースクール・フォー・ジャズ&コンテンポラリー・ミュージックを卒業しており、教育プログラム「ニューヨーク・ジャズ・マスターズ」の創設者であり、芸術監督を務める。
(**Sisters in Jazzはデンマークの歌手セシリア・ノービー(Caecilie Norby)が中心となり、気鋭のヨーロッパ女性ミュージシャンを集めたプロジェクト)

Greg Osby (グレッグ・オズビー、アルトサックス)
グレッグ・オズビーはピオトロフスカと師弟関係にあり、このプロジェクトの中心的人物である。現代ジャズ界で最も影響力のあるサックス奏者の一人であるオズビーは、モダン・ジャズの最前線で40年近く活躍してきた。作曲と即興演奏に対する知的で厳格、さらに先見性のあるアプローチは広く称賛され、リーダーアルバムは25枚以上リリースされている。多くの重要作の中には、JMT/PolyGramからの4枚、ブルーノート・レコードからの15枚が含まれ、驚異的な活躍ぶりである。オズビーは2007年には自身のレーベル「Inner Circle Music」を設立した。彼は批評家からの評価も高く、『ニューヨーク・タイムズ』紙から「同世代で最も革新的な音楽思想家の一人」と評されている。過去の共演者の一例として、ハービー・ハンコック、アンドリュー・ヒル、ジャック・ディジョネット、ジム・ホール、ジェリ・アレン、ディジー・ガレスピーなどが挙げられている。

Hildegunn Øiseth(ヒグデン・オイセス、トランペット/角笛)
ノルウェー出身、多くの受賞歴を持つトランペット奏者・作曲家であり、リーダーアルバムも多数リリースしている。かつてはスウェーデンのボーヒュースレン・ビッグ・バンドに長く在籍、その後の南アフリカ、中東などでの世界的な音楽活動を経て、現在はノルウェーが拠点。北欧の伝統楽器ブッケホルン(ヤギの角笛)の演奏者としても名高い。北欧の伝承歌唱音楽「ヨイク」の歌手であるフローデ・フィルハイムの共演者として近年2度来日しており、2019年には東京、奈良、大阪で開催された公演「サーミのうた -ヨイクが響く-」に参加している。

Tarek Yamani(タレク・ヤマニ、ピアノ)
レバノン、ベイルート出身のピアニスト・作曲家、タレク・ヤマニは、独学でジャズピアノを習得したのち、セロニアス・モンク国際ジャズ作曲家賞などを受賞し、2012年にデビューアルバム『Ashur(アッシュール)』をリリースして以来、アラブの伝統音楽とアフリカ系アメリカ人との音楽の融合を追求してきた。3枚目のスタジオ・アルバム『Peninsular (2017)』では、ジャズに四分音とアラビア半島特有のリズムを融合させている。(アルバムタイトルの「Peninsular」はアラビア半島を意味する)

Ameen Saleem (アミン・サリーム、ダブルベース)
1979年ワシントンD.C.生まれ。トランぺッター、ロイ・ハーグローヴの長年の共演者だった彼は、米国ジャズ界の牽引役となるプレイヤーである。彼は、クリス・パーカー・トリオ、ウィナード・ハーパー・セクステット、Farnell Newton–Marcus Reynolds Quintetなど、著名な音楽家たちとの共演歴がある。サリームは2020年の初めに、ジョシュ・エヴァンス(トランペット)、海野雅威(ピアノ)、ジェイソン・ブラウン(ドラム)のカルテットを率いていた。

Barbaro Crespo „Machito” (バルバロ・クレスポ、愛称「マチート」、パーカッション)
1991年生まれ、キューバのハバナ出身で、母国と欧州、アフリカ大陸など世界各地で活躍し、音楽フェスティバル、劇場、テレビ番組、各種イベントに出演し、そのキャリアは15年に及ぶ。2013年からは、キューバで人気の高いルンバ・グループ「Adonis y Osain Del Monte(アドニス・イ・オサイン・デル・モンテ)」で演奏し、2017年~2020年にフランスとキューバ共同でアフロ・ジャズ・プロジェクト「¿Que vola?」を立ち上げた。現在はポーランドを拠点に欧州での活動が多いようだ。

スペシャル・ゲスト:
Sanem Kalfa(サネム・カルファ、ヴォーカル)
トルコ出身のヴォーカリストであり、作曲家、チェリスト。ジャズ、自由即興、ワールド・ミュージックを融合させた情感豊かな音楽で高い評価を得ている。黒海沿岸のトルコ・トラブゾンで生まれ、チェロを学んだ後にヴォーカリストとしての道を進み始めた。オランダでジャズを学び、2010年のシュア・モントルー・ジャズヴォーカル・コンペティションで優勝し、国際的な評価を獲得した。デビューアルバム『Nehir』(2014年)以来、カルファは黒海沿岸の伝統音楽に実験的なサウンドを取り入れ、独自の芸術的表現を確立している。
本作では4曲に参加し、曲によって、ポップで軽やかな味わいを加えたり、声を器楽音のように使ってアンサンブルに溶け込んだり、幽玄な雰囲気を醸し出したりと、アルバムに豊かな表情を加えている。

Leszek Możdżer (レシェック・モジジェル、ピアノ)
独自の音楽言語と芸術性を確立した世界的なポーランドのピアニスト。リーダーおよびサイドマンとして100枚以上のアルバムに参加しており、数々の受賞歴を持ち、ポーランド内外の第一線のジャズ演奏家と共演し、映画や演劇(アカデミー賞受賞作を含む)の分野でも活躍する。ラーシュ・ダニエルソン、ゾーハル・フレスコと長年にわたり人気トリオを組んでいる。本アルバムは、ポーランド、ヴロツワフのLeszek Możdżer 701 Studio で録音されたという。ピアノ調音については誰よりも専門的な知識がある彼のもとで、A=432Hzの調律で、アルバム録音が行われたようだ。
アルバム4曲めの〈Lost & Found〉では、モジジェルの透明感あるピアノの音が、角笛の幽玄な音色をいっそう際立たせていると感じた。

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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