#1418 2026年7月、タツ青木
Text and photos by Akira Saito 齊藤聡
タツ青木のシカゴにおける活動は、前衛音楽でのベース演奏、伝統邦楽の伝承、映画作り、そしてアジア系アメリカ人たちの表現の組織化など多岐にわたる。たしかにフレッド・アンダーソンやアート・アンサンブル・オブ・シカゴの面々など日本でも人気の高いフリージャズの音楽家たちと長く活動して多数のアルバムを作っているが、日本での知名度はその実績に比して高いとはいえなかった。理由のひとつは日本のシーンにいなかったことだろう。
それがこのところ定期的に日本で演奏を行っており、何人かの表現者との共演を積み重ねることで点が線になり、さらにそれが別の縁を生んで面になっているようにみえる。本稿では、今回の帰国で青木が行ったふたつのライヴについて報告する。(*1)
2026年7月14日(火) ポラリス(南青山)
Otomo Yoshihide 大友良英 (guitar)
Tatsu Aoki タツ青木 (contrabass, shamisen)
シカゴで青木が取り仕切るアジアン・アメリカン・ジャズ・フェスティヴァルでの大友の出演は過去に2回ある。第3回(1998年)にはギターのケヴィン・ドラムと共演、また第7回(2002年)にはアンサンブル・ノーアムネシア(シカゴのグループ)との共演に加えて大友良英ニュー・ジャズ・クインテット(ONJQ)での出演を果たしている。後者の評価は賛否両論であったようだ(*2)。いずれにせよ、それらがシカゴ、アジア系アメリカ人の場である必然性はいまとなっては判断しにくい。そして、青木はそこでフェスティヴァルを監修したものの、ふたりの共演じたいは30年以上前までさかのぼる。
ポラリスが2025年に神田錦町から南青山に移転したことで、響きの特性も変った。奥は吸音材のためややデッド、手前はよりライヴ。大友にとっては既に勝手知ったる場のようで柔軟に位置と方向を定めていく。青木もまた「どのようにでもなる」といった態度。
ファーストセットでは青木はコントラバスを使う。ふたりの間合いには隙間が多く、距離を詰めたり離れたり、あるいは音の圧を高めたり抑えたりと自由度が高い。セカンドセットでは青木の三味線と大友のギターとがくんずほぐれつ、のるかそるか。どちらのおもしろさを取るか、サウンドを体感した者たちの間でも意見が分かれたようにみえた。したがって、次の展開にさらなる期待をしてしまう。それを目撃できるのはシカゴか、あるいは東京か。
2026年7月18日(土) 舟遊びみづは
Hikaru Yamada 山田光 (alto saxophone, misc.)
Tatsu Aoki タツ青木 (contrabass, shamisen)
2024年に「シンプルなフリーを演りたい」との青木の意向で初顔合わせのライヴを行ったとき、とくにサックスの山田光との相性のよさが次につながった。おそらく、それは「シンプルなフリー」であっても全体を俯瞰してサウンドを制御するありようだった。
ふたりは、2025年に「舟遊びみづは」の運航する舟の桟敷でデュオを行い、そのとき録った音をアルバム『舟遊びみづは』としてリリースした。今般のデュオは、同じ船上での「レコ発ライヴ」ということになる。前回と今回のライヴを体感し、アルバムで追体験して伝わってくるおもしろさは、響きの新しさとその動的な変化だ。たしかに、ハコの響きの個性を考慮し、サウンドの特性や音楽家の好みにより演奏場所を選ぶことは頻繁になされている。野外で外部に抜けていくときの解放感も誰もが体験していることだ。だが、水上、しかもクルーズではなく水面にも橋にも至近の空間における響きについて論じられることはほとんどないだろう。
橋の真下など半ば閉じた空間ではくぐもった反響があり、そうでなくても川岸や建物の存在によって音の抜けようや戻りようはずいぶんと異なる。山田のサックスが管の共鳴じたいよりもマージナルな音を重視しているように思えたのは、その意識ゆえのことなのかもしれない。また、青木がエレキベースの持続音を環境変化の共犯者に仕立て上げているようにも思えた。それに加え、風の音、波の音、鳥の声、近くのクルマや人の音も、ハコでの演奏のような「侵入」ではなく、音楽家との「共演」と言ったほうがちかいと言うことができる。
もとより東京は川のまちであり、「舟遊び」が着岸する日本橋はその中心地だったのだ。東京の即興シーンを語るときには、水の存在も視野に入れなければならない。
2025/5/18
2026/7/18
山田光+タツ青木『舟遊びみづは / MIZUHA』(Asian Improv Records)
Hikaru Yamada 山田光 (alto & sopranino sax)
Tatsu Aoki タツ青木 (electric upright bass)
1. Nihonbashi日本橋
2. Edobashi Junction江戸橋ジャンクション
3. Kamejimagawa亀島川
4. Shinkamejimabashi新亀島橋
5. Sumidagawa隅田川
6. Chuou Ohashi中央大橋
7. Eitaibashi永代橋
8. Tsukudajima佃島
9. Toyomibashi 豊海橋
10. Tokyo Skytree 東京スカイツリー
Recorded Live on a Mizuha Riverboat Tour, Tokyo, Japan May 18, 2025
Executive Producer: Miho Sato, Ben Sato
Produced by Mizuha
Recording and Mastering by Hikaru Yamada
Photography Courtesy of Riverboat Mizuha, Additional Photography from Dreamstime
Map Design and Typography by Hiroshi Yasue
Graphic Design by Al Brandtner at Brandtner Design
Production Coordinator: Rika Lin
Special Thanks to Akira Saito
Sponsored in part by AIRMW Arts Initiative Program
All Songs by Hikaru Yamada & Tatsu Aoki, Asian Improv Music Co. (ASCAP)
https://www.asianimprovrecords.com/product-page/air126
(*1)筆者は観ることができなかったが、タツ青木が山下洋輔(ピアノ)、戸松美貴博(踊り)と組んだ「肉態問答トリオ」も今般再演がなされた。やはり昨2025年の録音が『WiFi is a Cat / WiFiは猫である』(Asian Improv Records)としてリリースされている。
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-112681/
https://www.asianimprovrecords.com/product-page/air125
(*2)『Chicago Sun-Times』(2002/10/28)は、ONJQによるエリック・ドルフィーの<Hat and Beard>のデコンストラクションに理解を示さず、大友のフィードバックとSachiko Mの電子音のみを評価している。一方『Chicago Tribune』(2002/10/28)では、大友がノーアムネシアとの共演で音量を抑えることで美しさを生み出したことや、ONJQでの大友のギター、サックスとSachiko Mの繊細なエレクトロニクスとの対比の妙についても絶賛している。
(文中敬称略)
大友良英, 山田光, フリー・インプロヴィゼーション, タツ青木, 舟遊びみづは












