#1374 『照内央晴・松本ちはや / 哀しみさえも星となりて』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Bishop Records EXJP021
照内央晴 (p)
松本ちはや (perc)
1. Improvisation I
2. Improvisation II
3. Improvisation III
2016年2月21日 東京渋谷公園通りクラシックス
ここに記録されたパフォーマンスは、3つの即興演奏からなる。聴く者は、サウンドの彩りからさまざまなイメージを幻視しながら、ふたりのパフォーマーの振る舞いに対して、まるで自らが音を発出しているかのような想像をめぐらせることだろう。
「Improvisation I」。ゆったりと鼓を打ち鳴らす時間があり、一方で、照内のピアノは何かの到来を待っているようだ。流れるような松本のパーカッションが自らのリズムを展開し、やがて、模索ののち、照内が自身のタイム感を獲得、低音のフレーズを活かしつつ高音で跳躍する。音と音とが拮抗し、シンクロする。一転、ピアノの内部奏法を含め、ふたりの音は、打からこすれ・しなりへとシフトする。残響だけを増幅させたような感覚は、まるで、黒くだだっ広い天空における響きのようだ。パーカッションが来るべき予兆の音を発し、そののちに、ピアノによる超新星爆発という事件が起きる。そして、マリンバとピアノの弦とによるタイム感の揺らぎがある。
「Improvisation II」。松本のマリンバは遊び、照内のピアノは響きに耽溺する。やがてピアノがフレーズを繰り出し始め、パーカッションも連続的な音の数々を発し、サウンドがふたりの音数で埋め尽くされてゆく。パーカッションの地響きとシンバルワークはドラマチックなほどであり、かたや、ピアノは煌びやかな音を反響させる。そして、演奏は余韻を残して突然のように終わりを迎える。
「Improvisation III」。迷いを表現するかのようなピアノに、松本のパーカッションが楔をさす。そのうちに、散らされたピアノのフラグメンツが集まって、旋律へと成長する。パーカッションは、音叉のうなりのような響きを身にまとって、その周囲を取り巻く策動をみせる。ピアノは和音を試すように執拗にパターンを繰り返し、対して、パーカッションが遊びで挑発するような音を重ねる。このふたりの相互作用によって、音世界のイメージが拡張してゆく。そして、大きなサウンドのうねりがあり、エネルギーが集密されるのだが、やがて、溜め込まれたそのエネルギーが流れ出るにまかせる、美しい時が訪れる。星のおわりは、華々しい超新星爆発であっても、また、静かに白色矮星へと化してゆく姿であっても、そのイメージは強烈なものである。
緊張、響きの美しさ、ユーモア、相互干渉と相互作用、音楽をなんらかの形にして提示せんとする「気」。そういったものが断続的に強く伝わってくる作品である。
(文中敬称略)