#2451 『及川陽菜/ Short Songs』
text: Shinobu Yamada 山田詩乃武
Tiny Storage Music TSM-001 ¥3,500(税込)
バンドリーダー・アルトサックス・フルート・作曲・編曲・短歌:及川陽菜
テナーサックス・フルート:Sam Dillon,
バリトンサックス・クラリネット・バスクラリネット:Skyler Hagner,
トランペット:Summer Camargo,
トランペット・フリューゲルホルン・作曲・編曲:Naoya Ogura,
トロンボーン:Altin Sencalar
ピアノ: Ben Rosenblum,
ベース: Marty Kenney,
ドラム: Alon Benjamini,
ボーカル: Mỹ Tâm Huynh
01. Introduction (comp. by Hina Oikawa) 1:21
02. Manhattan (comp. by Hina Oikawa) 4:07
03. Broken Meter (comp. by Naoya Ogura) 5:28
04. 湯葉の国 (Yuba no Kuni) (Hina Oikawa: Lyrics / comp. by Naoya Ogura) 4:39
05. You Are Still Here (comp. by Hina Oikawa) 5:10
06. Beyond the Night, Swallowing the Morning (comp. by Hina Oikawa) 7:33
07. Summer Song (comp. by Dave Brubeck / Arr. by Hina Oikawa) 5:19
08. Short Songs (Comp by Hina Oikawa, Arr by Naoya Ogura) 6:17
09. Thirty-One Syllables (comp. by Hina Oikawa) 5:10
total time 44:19
2025年7月 The Bunker Studio, Brooklyn NYにて録音
アドバイザー:Ryan Keberle
アシスタント・プロデューサー・指揮者:Joseph Herbst
録音:Todd Carder
ミックス&マスタリング:Dave Darlington
写真:平木希奈, 上田康博
デザイナー:伊藤健
ライナーノーツ:村井康司
短歌アドバイザー/特別寄稿:吉川宏志
― 短歌とジャズ 異文化の融合に見る驚きと発見 —
ニューヨーク在住のアルト・サックス奏者、及川陽菜(Oikawa Hina)のデビュー・アルバムは斬新かつ意欲的な取り組みだ。
日本発祥で日本文化の象徴のひとつである「短歌」と米国発祥で米国文化の象徴のひとつである「ジャズ」をラージ・アンサンブルという音楽形式で融合(フュージョン)させている。
私は「和歌とジャズ —百奏一首‐ 」という連載をJazz Tokyoに昨年末から掲載し始め、原稿は既に先月7月、100作出来上がった。すると、Jazz Tokyoの編集長である稲岡邦彌氏から「短歌とジャズを融合させたアルバムが出るので感想を聞かせてほしい」と言われ、このアルバム CD を手渡された。
自宅のシステムでまずは何の先入観を持たずに通して一気に聴いた。正直、ヴォーカルの入った曲には違和感を持ったが、インスト・ナンバーの中で気に入った曲が2曲あった。次にブックレットを読みこんだ後、聴き込んだ。すると、1曲1曲に込められた作者の意図がわかり、曲がいい意味で別ものに変わった。
及川は短歌を詠む。日本に古来、詞文のひとつに和歌があり、明治時代以降の和歌を短歌と呼称している。『万葉集』『古今和歌集』『新古今和歌集』に代表される三大集は「やまと言葉」で詠まれたている古典和歌。短歌はカタカナや漢字、場合によっては外国語も使い語彙の使用は自由だが、ともに5・7・5・7・7の形式に言葉をはめる制約は共通している。
和歌の解釈は、それぞれあって構わない、というのが持論である。三十一文字に流れる一語一語が音となり音楽となる。さらに、和歌は形而上的哲学詩である。日本では美的哲学は和歌の中に秘かに込められ表現とされてきた。言葉そのものが音であり、言葉には霊的な力が宿ると信じられ言霊信仰が生まれた。願いを声に出して実現化を図ることを「言挙げ」という。皇室が催す宮中歌会始における披講は独特な節を付けて詠みあげる。
古典和歌には詞書という「前書き」を付けるものも少なくない。作者の意図が予めわかり和歌の理解が深まる。及川が作曲し奏でる楽曲に自身が詠む短歌を詞書として位置付ければ、リスナーには自ずと曲のイメージが伝わる。本人も「ブックレットで情報を補完してもらえればいい」と言っている。さらに、「サックスを吹き、曲を書き、短歌を詠む。私の中で、その三つは地続きの営みだ」と述べているとおり短歌とジャズという一見、共通点がないアートを融合させることで化学反応が起こり、新たなカルチャーが生まれた。二作目は『百人一首』とジャズの融合を企図しているという。どう料理し、どんな味のジャズが出来上がるのか楽しみである。
最後に、6曲目の<Beyond the Night, Swallowing the Morning>とラスト9曲目<Thirty-One Syllables>の2曲は素直にジャズの楽曲として楽しめた。(2026年8月12日 やまだ・しのぶ 文筆家・歌人)
及川陽菜, 新古今和歌集, 和歌, 短歌, 三十一文字, 万葉集, 古今和歌集, 百人一首