#1473 『Rent Romus’ Lords of Outland / In the darkness we speak a sound brightness and life』
Reviewed by 剛田武 Takeshi Goda
CD : Edgetone Records EDT4189
Rent Romus – as, ss, c-melody sax, fl, overtone flutes
Collette McCaslin- tp, ss, no-input analogue pedals
Philip Everett – ds, analogue synth, Xlarinet, lapharp
Ray Schaeffer – electric six-string b, effects
- A pile of dust we emerge
- From a trunk buried in my closet
- See the path before you
- In the darkness we speak a sound brightness and life
- I’m starting to think it’s all in the wrist 05:24
- Rabbit Hole
- A construct is a barrier that everyone forgot
- As water we emerge to the path before us
- Open your hand and walk away
- Interstellar deletion
- Time is short to see the path before me
Recorded at New, Improved Oakland California October 2016
Mixed & Mastered by Ray Scheaffer
Original art by Collette McCaslin
Photo of Rent Romus by Peter B Kaars
more information/booking romus.net
edgetonerecords.com
All compsitions Jazz On the Line Publishing BMI
西海岸の怪異レント・ロムスの“ガイキチ”治外法権ジャズ最新型
前号で紹介したプロジェクト作『Deciduous / Midwestern Edition Vol. 1』に続いてサンフランシスコのサックス奏者レント・ロムスのレギュラー・グループ「Lords of Outland」の最新作がリリースされた。「Outland」とは「外地」であり、中央(Center)に対する「辺境」を意味する。もうひとつのレギュラー・ユニット「Life’s Blood Ensemble(生命の血合奏団)」と並んでロムスの活動の核をなすベースキャンプだから「外基地(ガイキチ)」と呼ぶのがよかろう。「Lord」とは「支配者」だから、このバンドは「外基地君主」の連合体と言える。彼らが支配する領域は無限大の自由が保障される「治外法権」である。ここで言う「法」とは明文化されていない精神的な概念を指すから「Mind」即ち「気(き)」の治外法権が施行されているわけだ。つまりローズ・オブ・アウトランドが志向するのは「ガイキチ君主による“キ”チガイ封建主義」なのである。
ここで想起すべきは(別稿にも書いたが)、ロムスが1991年に設立した自主レーベルEdgetone Recordsの「My music is weirder than yours!(僕の音楽は君の音楽よりもっと奇妙だよ!)」というスローガンである。「Weird」とは「変な/奇妙な」という意味に加えて「 (幽霊など超自然的なものを思わせて)異様な/気味の悪い/この世のものでない」という意味がある。アメリカ人と話していて「That’s weird!」と言われたら、「不思議!」と面白がっているのでなく「気持ち悪っ!」と嫌がられている場合が多い。そんな世間一般ではマイナス・イメージの「Weird」を堂々と誇示するロムスと仲間たちの精神は、常識のOutland(ガイキチ)であり、それこそ「You’re weird!(狂ってる)」と言われるに違いない。
しかし、そんなガイキチ(気狂い)音楽家が奏でるアンサンブルは決して気持ち悪いものではない。どんなに破綻しても歌心を失わないロムスの明るいトーンのサックス、リズムやビートの概念を忘れてメロディ楽器と同列に並ぶフィリップ・エヴァレットのドラム、エレキ特有のファットな音でファンクネスを礼賛するレイ・シェーファーのベース、空間の広がりを拡張するコレット・マッキャスリンのトランペットとサックス、そして各人が民俗楽器やエレクトロニクスを使い分ける多楽器主義が描き出す、妙に人懐っこく単純明快なメロディセンスに満ちたサウンドは、ジャズとその遥か先(Jazz and Far Beyond)に興味を持つ愛好家にとっては越境ジャズの桃源郷である。レーベルのもうひとつのスローガンは「I love classicalnoisejazztronica」というもの。説明するまでもなくトラッド、ブルース、モダンジャズ、フリージャズ、フリーミュージック、現代音楽、民俗音楽、アヴァンポップ、ノイズ、エレクトロニカに至るまであらゆる音楽要素への愛情を籠めて展開される彼らの演奏には、現在のNYやヨーロッパ即興シーンに色濃い過剰なスピード感は希薄である。言ってみれば極めてユルい。その「ユルさ」は決してレイドバックやリラクゼーションとは同質ではない。自分の世界を表現する方法を体得してこそ可能な精神的余裕の有無が問われる世界なのである。
バンドと呼ぶより「共同体」という些か古臭い定義が適切かもしれない。しかしロムスと西海岸の仲間たちが創り出す「緩やかな共同体」は、西部開拓時代やヒッピーコミューンが志向した能天気なユートピア幻想を目指してはいない。ストレンジなエレクトロニクスを散りばめつつ、基本的にアコースティック演奏を中心に、タイトル通り『暗闇の中でサウンドの明るさと人生を語る』ように展開してきた人生譚が、終盤に突如怒濤の電子ノイズの嵐(M-10「Interstellar deletion/星間削除」)に豹変するのが極めて暗示的である。もちろん最後に「Time is short to see the path before me/私の進む道を知るには時間が足りない」と題された救いが用意されているので安心していただきたい。
本作のリリース(12/5)の1週間後にRob Pumpelly (ds), Rent Romus (sax, fl), Eli Wallace (p)のトリオ作『The Expedition』がEdgetone Recordsからリリースされた。この多作主義は一体何を意味するのであろうか。西海岸の怪異(Weirdness)への興味は募る一方である。
(剛田武 2017年12月24日記)