#1485 『James Brandon Lewis & Chad Taylor / Radiant Imprints』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Off- Record Label
2018年3月9日リリース
James Brandon Lewis (tenor saxophone)
Chad Taylor (drums, mbira on tracks 3 & 5)
1. Twenty Four
2. Loved one
3. With Sorrow Lonnie
4. Imprints
5. First Born
6. Radiance
7. Improve I
1983年NY州バッファロー生まれのサックス奏者、ジェームス・ブランドン・ルイス(JBL)は、これまでも堂々としたプレイで、「ジャズ」のメインストリームを歩み続けてきた。『Moments』(2010年)によってCDデビュー。続く『Divine Travels』(2014年)では、NYジャズの先鋭的なピアノレス・サックストリオ。このあたりから、ヒップホップやファンクのビートをサウンドに取り入れはじめた。『Days of Freeman』(2015年)を経て発表した『No Filter』(2017年)は、その大胆なジャンル越境の成果たる快作だ。
そして本盤は、意外にも、ジャズ回帰というべきドラムスとのデュオである。
相方は、1973年アリゾナ州生まれのチャド・テイラー。シカゴ・アンダーグラウンド・デュオ、マタナ・ロバーツやジェフ・パーカーらとの共演などシカゴ人脈との活動でも、また、ヨニ・クレッツマーやジェイミー・ブランチらとのNYでの活動でもいくつもの傑作を残してきた。中でもブランチの『Fly or Die』(2017年)は同年のベストアルバムにリストアップする者が多く、テイラーの活力あるドラミングも明らかにその勢いに貢献していた。
冒頭の「Twenty Four」では、バスドラムを活かした迫力あるテイラーのパルスに対して、JBLのテナーは驚くほどなめらかに、しかも気負いも一瞬の躊躇もなく、淀みのないフレーズを提示する。続く「Loved One」では、低音も交えながら静かに朗々と歌う。これもまたテナーサックスという楽器の魅力だ。テイラーのドラムとシンバルとのコンビネーションは見事である。
3曲目の「With Sorrow Lonnie」と4曲目の「Imprints」は、ジョン・コルトレーンに向けられたJBLの現在の回答であろうか(もちろん、「Lonnie’s Lament」と「Impressions」である)。驚くべきことに、前者では、テイラーは親指ピアノ(mbira、kalimba)によって静かに同じ旋律を繰り返す。アフリカへの意識もあるだろう。静かに漂うように入ってくるJBLは、演奏の7割方が過ぎたころ、自然に衒いなく「Lonnie’s Lament」のテーマを吹く。しかし、ここに現出したハードなセンチメンタリズムは、コルトレーンのものではなく、彼ら独自の世界だと言ってよい。一転してマーチ風でもあるドラムスとともに「Impressions」のテーマから入る「Imprints」では、それまでとのコントラストのためもあろうか、余韻を残す。
「First Born」では、またしてもテイラーが親指ピアノを弾くのだが、先とは違い、あたたかできらびやかなプレイだ。JBLのテナーもまたあたたかであり、ふたたびふたりが合流するときには大きな効果をあげる。「Radiance」では、テイラーの和太鼓のごとき貼皮の長い響きがあり、JBLの野性的で太いテナーは管全体をびりびりと震わせる。ここにきて彼らは、エネルギー・ミュージックのポテンシャルを十分すぎるほどに提示してみせるのだ。そしてアルバムは、複雑なドラムスのビートとテナーのブロウがお互いに楔を刺しては抜くような「Improve I」で締めくくられる。
「ジャズ」は伝統にスパイスを振りかけるだけの音楽でもないし、もちろん、ヤワな音楽でもない。本盤は、「ジャズ」がカッコ付の「ジャズ」であっても、また、デュオというシンプルな形であっても、ここまで野心的で幅広く響くサウンドを創出できるのだという証明である。
(文中敬称略)