#1487 『NAO TAKEUCHI / BALLADS~竹内 直/バラード』
text by Yumi Mochizuki 望月由美
T-TOC RECORDS T-TOC0024 2,778円+税
竹内直 (ts)
市川秀男 (p)
パット・グリン(b)
ジーン・ジャクソン(ds)
01. Dedicated to you(S.Cahn, S.Chaplin)
02. Turn out the stars(B.Evans)
03. I’m glad there is you(Jimmy Dorsey)
04. Lush life (B.Strayhorn)
05. Zingaro (a.k.a.Retrato em branco e preto)(A.C.Jobim)
06. Tchaikovsky cmy#5 2nd (P.I.Tchaikovsky)
07. Lost in the stars (K.Weill)
08. You must believe in spring (A.Bergman, M.Bergman, M.Legrand)
09. The star-crossed lovers (B.Strayhorn)
10. Lotus blossom (B.Strayhorn)
11. You are so beautiful (B.Preston ,B.Fisher, D.Wilson)
プロデューサー:金野 貴明
エンジニア:金野 貴明
録音:2017年6月11日 茨城県常総市ティートックスタジオにて録音
192KHz/32bitハイレゾ録音 UHQCD仕様
<自分はテナー吹きです>と明快に言い切る竹内直(ts)のバラード集である。
コルトレーン(ts,ss 1926~1967, 40歳)は1962年、36歳で『BALLADS』(1962 impulse!)を録音した。
一説によると、当時マウスピースの調子が悪くて激しい曲が吹けない状況のときにプロデユーサーのボブ・シールがスロー・バラードはどうか、と提案し、実現したと云われている。
そして竹内直はコルトレーン没後50年という節目の年に、自分にサックス奏者として生きてゆくことを決心させてくれたコルトレーン、そして音楽家としての生きる道を示してくれたエルヴィン・ジョーンズ(ds,1927~2004 76歳)に、心からの感謝を込めて捧げたい、と自らのウェブサイトで述べている。
コルトレーンは当時のレギュラー・カルテットで耳慣れたスタンダードのメロディーを丁寧に穏やかに吹いている。
一方の竹内直はレギュラー・グループではなく大ヴェテランの市川秀男(p)に親日家のパット・グリン(b)とジーン・ジャクソン(ds)と云うワン・ホーン・カルテットで、コルトレーンと同じくテナー1本で吹き切っている。
コルトレーンのバラードは優しく空間を包み込むように広がりを見せるが竹内直のバラードは前へ前へと直進してくるようなリアリティ、切実さがある。
(1)<Dedicated to you>は1963年にコルトレーンが『John Coltrane and Johnny Hartman』(1963 impulse!) で吹いた耳馴染みの曲。
コルトレーンよりもクリーンで明るいトーンが鮮明にクローズアップされている。
ピアノの市川秀男もベースのパット・グリンもドラムのジーン・ジャクソンもぐんぐんと前にせり出してくるのはT-TOCスタジオの音創りも作用しているのかも知れない。
(2)<Turn out the stars>はビル・エヴァンス(p, 1929-1980, 51歳)の愛奏曲で意外な選曲と思ったが聴いてみるとエヴァンスの優しいメロディーが鳴っていて全編ノン・ビブラートでエヴァンスを唄っている。
竹内直の特徴のひとつ、硬くて甘い高音部の泣きが魅力的である。
ジーン・ジャクソン(ds)のステイック・ワーク、シンバルの響きが直を引き立てている。
(3)<I’m glad there is you>はチェット・ベイカー(tp, 1928~1988 58歳)の愛奏曲だったが、音録りのせいかチェットのもの寂しさはなく、クールな演奏、パット・グリンのベースがゴーン、ゴーンと分厚く迫る。
(4)<Lush life>は、コルトレーンは2枚レコードに残している。1957年のドナルド・バード(tp, 1932~2013 80歳)との2管『LUSH LIFE』(1957, Prestige)とカルテットによる1963年の『John Coltrane and Johnny Hartman』(1963, implse!) の2枚。
コルトレーンはいずれも穏やかな安息を与えてくれるバラードにしているが、直はあくまでも竹内直流を貫き激しいバラード演奏を展開する。
竹内直はこのアルバムでビリー・ストレイホーン(p, comp, 1915~1967 51歳)の曲を3曲採りあげている。
この<Lush life>と(9)<The star-crossed lovers>、(10)<Lotus blossom>の3曲。
ストレイホーンの曲はアルバムに深みを与えてくれる、そんな力を持っているような存在感が曲そのものにある。
そしてストレイホーンを弾く市川秀男のピアノはのびやかなタッチが鮮やかに響く。
A.C.ジョビンのボサノバ曲(5)<Zingaro(a.k.a.Retrato em branco e preto)>もチェットの愛奏曲。チェットの哀愁に対して直は明るい陽光の下、気持ちよさげに浜辺を散策しているかのように軽やかに吹いている。
竹内直は前作『セラフィナイト・ライブ・アット・モーション・ブルー・ヨコハマ 竹内直』(What’s New Records 2013)では当時のレギュラー・カルテットのライヴ・レコーディングで、カルテットとしての存在感を示したが、本アルバム『NAO TAKEUCHI BALLSDS』(T-TOC RECORDS, 2017)は62歳となった竹内直が自らのテナー人生を振り返り、テナーとの出会い、ジャズとのかかわりに思いをはせ、あえてレギュラー・グループをはなれて肩ひじ張らずにワン・ホーンで好きなバラードを吹いたものでその前向きなパーソナリティーが素直に吐露されている。
本アルバムには竹内直が本来もっていた辛口のブローの奥に見え隠れする繊細さ、そしてその激しさを包み込むサブ・トーンの甘美、その両極が鮮やかに浮かび上がってくる。