#1504 『Gene Jackson Trio Nu Yorx / Power of Love』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Gene Jackson (ds)
Gabriel Guerrero (p)
Carlo De Rosa (b)
2018年4月6日リリース
Recorded Tedesco Studios (April 26th 2017)
Engineered by Tom Tedesco
Mixed and mastered at Current Sounds by Bob Ward
Produced by Gene Jackson
Executive Producer – Michael Janisch
Album artwork and design by Gene Jackson
Gene Jackson plays Zildjian Cymbals and Pearl Drums exclusively
1. I Love You
2. Great River
3. A Peaceful Tremor
4. Lighting
5. Played Twice
6. Land of the Free
7. Neptune
8. Ugly Beauty
9. Before Then
10. Lapso
ジーン・ジャクソンの華々しいキャリアの中でもっとも目立つ実績は、ハービー・ハンコックとの共演だろう。きっかけは、ドラマー仲間のテリ・リン・キャリントンの推薦だったという。ジャクソンは1991年にハンコックとウェイン・ショーターのカルテットに同行しており、2000年までハンコックと行動を共にした。公式の録音ではないものの、ハービー・ハンコック・トリオ『Live In New York 1993』において力強く叩くジャクソンの音を聴くことができる。
偶然かも知れないのだが、そのハンコックのピアノトリオ盤も、本盤と同じく、1曲目がスタンダード「I Love You」なのだ。この2枚での同曲を比較してみると、本盤が初リーダー作であるためか、ジャクソンのドラムスは遠慮することなく、四半世紀前の演奏よりも遥かに個性を発揮している。
それは例えて言えば、常ならぬほど大排気量のエンジンを吹かし、その一方で大ナタのようなキレも追及するドラミングだ。ジャクソンのプレイには独特なキメ技がしばしば登場するのだが、その急加速と急停止も大きなエンジンがあってこそである。スタイリッシュではあっても華美な装飾音ではない。
セロニアス・モンクの「Played Twice」においては、ドラムとシンバルとで大きな波を創り出し、最初から最後までサウンドを空中に飛翔させ続ける。スイングを横波だとすれば、それに加え、時間軸の向きでの振幅を持つ縦波をも強烈に発生させている。偉大なモンクの曲でありながらジャクソンの音楽そのものとなっており、見事だ。カーロ・デローザのベースが創り出すグルーヴも特筆すべきものである。(彼はジャクソンがアーマッド・ジャマルにインスパイアされて作曲したというオリジナル「Before Then」でも傑出したテクニックを示してくれる。)
また、やはりモンクの「Ugly Beauty」では様相が異なり、ピアノのガブリエル・ゲレーロが前面で流麗な旋律と和音を響かせる背後で、紛うかたなきジャクソンの推進力のある重たいパルスが聴こえる。
ゲレーロは、2011年のリーダー作『Feyas』において、さまざまなメンバーとともに自身のサウンドをショーケースのように提示している。なかでもバド・パウエルの「Un Poco Loco」のアレンジなど奇抜で面白いものだ。だがピアノトリオのみに取り組んだ本盤は、シンプルであるがゆえに、彼にとってより力強い名刺となるに違いない。
ジャクソンは日本とアメリカとを行き来しながら活動しており、そのためだろうか、両国の様々なピアニストとの共演作品を残している。ピアノトリオに限ってみても、先のハンコック、大西順子『楽興の時』、山中千尋『Bravogue』、松本茜『Memories of You』、オリン・エヴァンス『Faith in Action』(3人のドラマー)など、ピアニストのタイプは幅広いのだが、そのいずれにおいてもジャクソンらしさを発揮している。それらと比較しても、本盤はやはりジャクソンのリーダー作ならではのサウンドなのである。
(文中敬称略)