#1532 『Daniel Carter – William Parker – Matthew Shipp / Seraphic Light』
Text and photo by Akira Saito 齊藤聡
AUM Fidelity
Daniel Carter (fl, tp, cl, ts, as, ss)
William Parker (b)
Matthew Shipp (p)
Recorded live in performance at Distler Performance Hall, Tufts University, Medford MA, April 5, 2017
Recording and live sound engineer: Peter Atkinson
Assistant engineer: Anjali Nair
Concert produced by Tufts University Department of Music
Mixed by Kurt Ralske
Final mastering by Michael Marciano at Systems Two Studio, Brooklyn
AUM Coordination by Steven Joerg
Produced by Kurt Ralske
Artwork & package design by Ming@AUM
1. Part I
2. Part II
3. Part III
ダニエル・カーターは、サックス、フルート、トランペット、またときにはピアノも演奏する多楽器奏者であり、その音楽のユニークさと長い実績を考えるならば、まだ十分な注目を集めてきたとは言えない。おそらくその理由のひとつは、管楽器を吹く者の個性として認識されがちな「前面に出て目立つ音色を発すること」が希薄だからであり(「フロント」という言葉に象徴されるように)、複数の楽器を持ち替えて印象が分散するからではない。そのことは、たとえばカーターがアルトサックスのみによってベースのリューベン・ラディングとデュオで吹き込んだ『Luminescence』(AUM Fidelity、2002年)を聴いても実感できる。むしろ、他のリズム楽器と公平な立ち位置を選択し、伴奏するがごとき演奏を行い、それをサウンド全体に反映させることが、カーターの強い個性であると言えまいか。
それは本盤においても同様である。カーターは、その独自のスタンスを維持することによって、ウィリアム・パーカー(ベース)、マシュー・シップ(ピアノ)という強靭な音を放つふたりと見事に伍している。
「Part I」はシップの力強いピアノから始まり、カーターはフルート、トランペット、サックスと持ち替えてゆく。ここで執拗に構造を作り上げ、また決然と崩しもするシップの手腕は特筆すべきだ。大伽藍の建造に挑み続けるピアノはセシル・テイラーにも匹敵しうる強さを持つが、テイラーとは異なり、シップはあくまでジャズのイディオムにこだわっているようにみえる。
演奏はそのまま「Part II」に入る。やはり煌くフレーズをもって策動するシップに対し、カーターのサックスは依然として自身のやり方でサウンドを深耕する。力を放出する形がまるで異なる両者が拮抗しているのだから面白い。パーカーはピチカートでサウンドを駆動していたが、やがてアルコの音が浮上する得難い瞬間がある。再び、シップが天を衝く一方で、カーターのクラリネットが底流となり、柔らかくも強くもあるベースとともに、かれらのサウンドは中心を持たずに次へ次へと展開を続ける。
「Part III」では、カーターのソプラノサックスによるまた違った音色を聴くことができる。それは細い流れを悠然と膨らませるようでもある。
本盤は、個性の方向がそれぞれまったく異なる傑出した3人による成果だ。手垢のついた楽器間の権力構造や、演奏内での中心と周縁といった構造を排することによって、他にはみられないトリオ演奏の形を提示したものである。やや籠ったような録音も、ここではその効果を増しているようだ。
(文中敬称略)