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CD/DVD DisksReviews~No. 201

#580『三上クニ/2&3~デュオ・アンド・トリオ』

text by Kenny Inaoka  稲岡邦彌

What’s New/Boundee WNCJ-2197 ¥2,800(税込)

三上クニ (p)
有明のぶこ (vib, marimba)
小松誠司 (perc)

1. キャット・ウォーク (Mal Waldron)
2. ファンキー・ワルツ(Kuni Mikami)
3. フー・キャン・アイ・タ-ン・トゥ? (Leslie Bricusse, Anthony Newly)
4. クバーノ・チャント (Ray Bryant)
5. 茶色の小瓶 (Joseph Winner)
6. 誰も奪えぬこの思い(George Gershwin)
7. ワン・ノート・サンバ( Antonio Carlos Jobim)
8. ボヘミア・・アフター・ダーク( Oscar Pettiford )
9. ノー・グレーター・ラヴ (Isham Jones)
10. ティン・ドン・ドン(Joao Mello)

録音:佐藤 弘@グ・ルーヴ・スタジオ、松戸、2008年11月12、13日
プロデューサー:三上クニ

 

最近でこそ日本でも帰国ツアーでお馴染みになったが、75年にNY移住後はずっとNYを中心に活動を展開してきた三上クニ (1954年、東京生まれ) の最新作で、昨年帰国時に日本で制作されたもの。もちろんコンボや歌伴でも活躍しているが、三上といえば、イリノイ・ジャケーやキャブ・キャロウェイ楽団、1998年の来日時にはピアニストとして同道したデューク・エリントン楽団などビッグバンドでの活躍が知られている(前作はそのエリントンに捧げた『モーストリー・エリントン』だった)。そのビッグバンド歴の中でももっとも長く務めたのがヴィブラフォンの大御所、ライオネル・ハンプトン率いるオーケストラで、1991年からハンプトンが亡くなる2002年まで12年間専属ピアニストの椅子に座り続けたのだ。
そのハンプトンとの長い経験を生かしたと思われる企画がこの新作。昨年帰国中に制作されたものでヴァイブとマリンバには有明のぶこさんが起用された。有明さんは東京学芸大学教育学部音楽科の出身で学芸大在学中にピアノからヴァイブに転向、卒業後はクラブやホテルでスタンダード・ジャズを中心に演奏しているという。女性のジャズ・ヴァイブラフォン奏者では他に阿見紀代子さんを聴いたことがある程度で、海外では咄嗟に名前が浮かばないほど貴重な存在といえる。ピアノとヴァイブのデュオとしては何といってもチック・コリアとゲイリー・バートンが良く知られた存在で多くの名盤を残している。
オープナーは日本で人気の高いマル・ウォルドンの『レフト・アローン』収録の<キャット・ウォーク>だが、テンポをぐっと落とした演奏で意表を衝かれる。3曲目の<フー・キャン・アイ・ターン・トゥ?>でもいえることだが、スローでは充分タメを利かせながらグルーヴを生み出して行き、三上のチャレンジに充分に応えて見事だ。スローといえば7分を超える<ワン・ノート・サンバ>はその極致に近い演奏で、夕凪を思わせるまったりした演奏ながら内に秘めたスイング感がジャズの本質を伝えて心地よい。
スローな演奏ばかりに筆が進んでしまったが、スローなテンポでスイング感やグルーヴを生み出すのが容易ではないからで、もちろん、<ノー・グレーター・ラヴ>などで聴かせるアップ・テンポでのふたりの息の合った演奏も初顔合わせとは思えない緊密ぶりである。
パーカッションの小松誠司が加わるのは3曲だが、マリンバとの相性が良い<クバーノ・チャント>や<茶色の小瓶>、ラストの<ティン・ドン・ドン>何れも三上の巧みなアフロ・キューバンなアレンジを生かした素晴らしい演奏を聴かせる。
ベテラン三上クニのアレンジとリード、小松誠司のサポートで新進ヴァイブラフォン奏者有明のぶこが120%の快演を果たしたアルバムと聴きましたが如何でしょうか。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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