JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 47,894 回

CD/DVD DisksReviewsNo. 246

#1557 『廣木光一・渋谷毅/Águas De Maio 五月の雨』

text by Yumi Mochizuki 望月由美

 

hirokimusic  BIYUYA-008 3000円(税別)

廣木光一(g)
渋谷毅(p)

1. O Mundo É Um Moinho 人生は風車 (Cartola)
2. He Is Something (HIROKI Koichi)
3. Águas De Maio 五月の雨 (HIROKI Koichi)
4. Kozue (HIROKI Koichi)
5. On A Slow Boat To Taiwan (HIROKI Koichi)
6. Carinosa (Traditional)
7. Cíclame Branco
8. Frenesi (HIROKI Koichi)
9. Feitio De Oração 祈りのかたち (Noel Rosa)
10.Cooljojo (HIROKI Koichi)
11.Beyond The Flames (SHIBUYA Takeshi)
12.Sleeping Jojo (HIROKI Koichi)

プロデューサー:廣木光一
エンジニア:菅原直人
録音:2018年5月16日、17日 オルフェウス スタジオ
アートワーク:廣木光一


廣木光一(g)と渋谷毅(p)とのデュエット。

前作『廣木光一・渋谷毅/ソー・クワイエット』(1998, Mugendo MG-001)から実に19年の年月を経ての二作目である。

前作のソー・クワイエットでは<The Duke>、<Monk’s Mood>などジャズ・スタンダードが多く取り上げられていたのに対し今回の『Águas De Maio 五月の雨』では渋谷毅の曲を1曲演奏するほかは12曲中の8曲が廣木自身の曲で残り3曲もフィリピンのフォークソングやショーロなど現在の廣木光一の音楽家としての心境をうかがい知る内容になっている。

本作『Águas De Maio 五月の雨』については廣木光一ご自身がOfficial Websiteで曲の解説からレコーディング・スタジオのこと、マイクの選定、渋谷さんとの音楽的な交流にいたるまで丁寧な説明が掲載されているのでここでは省略する。

https://www.hirokimusic.tokyo/aguasdemaio

ピアノとギターのコラボレーションといえば元祖ナット・キング・コール(p)とオスカー・ムーア(g)にはじまり、オスカー・ピーターソン(p)とハーブ・エリス(g)と続くがモダン・ジャズの時代に入ってからはビル・エヴァンス(p)とジム・ホール(g)が真っ先に頭に浮かぶ。

エヴァンスとホールは『アンダーカレント』(1963, United Artists)<マイ・ファニー・ヴァレンタイン>で息詰まるような緊迫感を展開し、『インターモデュレーション』(1966,Verve)<ターン・アウト・ザ・スターズ>で、はかないまでの寛ぎをジム・ホールと醸し出したが、以降エヴァンスはホール以外のギターとのデュオ作品を発表していない。

本作品のもう一人の主人公、渋谷毅(p)はエヴァンスとは違って石渡明廣(g)、市野元彦(g)、平田王子(g,vo)、中牟礼貞則(g)、そして廣木光一(g)といった5人ものギター・プレイヤーと並行してデュオ活動を行っている。

これは渋谷がギターとのデュオを好むことは当然として渋谷の醸しだすピアノの音の響き、コントラストがギター奏者からも好んで求められているのかもしれない。

エヴァンスがホールとの絡みの中で聴かせるきりっと引き締まった緊張感とほっとする安らぎの両極が人の心を打つのだと思うが渋谷の演奏にもそれと同質の響きがあるから多くの第一線のギター・プレイヤーが渋谷を求めるのであろう。

廣木光一の場合も前作のソー・クワイエット以来、折りに触れて渋谷との共演を続けてきている。

(11)<Beyond The Flames>は前作ソー・クワイエットでも演奏されている渋谷作品の中でもしばしば演奏されている曲。

渋谷毅と川端民生(b, 1947~2000, 53歳没)のデュオの名作『蝶々在中』(1998, CARCO)では<無題>とクレジットされていた曲であるが最近は吉野弘志(b)とのデュオで再演するなど渋谷作品の代表曲の一つ。

因みに1991年録音の宮澤昭(ts)と渋谷毅のデュオ・アルバム『野百合』(1991, East World)ではすでにBeyond The Flamesとクレジットされている。

廣木光一は高柳昌行(g, 1932~1991 58歳没)の弟子としても知られているが本作品でも高柳にささげて(10)  <Cooljojo>と(12 )< Sleeping Jojo>の2曲を演奏している。ご存知の通りジョジョ(jojo)は高柳の愛称、60年代に銀パリで新世紀音楽研究所を組織、さらに‟SABU‟豊住芳三郎(ds, per)や阿部薫(reeds, 1949~1979. 29歳没)とフリーの先端を走っていた高柳が79年の12月に来るべき80年代を見据えてかリー・コニッツ(as)やレニー・トリスターノ(p)の曲を演奏し『クール・ジョジョ 高柳昌行セカンド・コンセプト』(1979, TBM)を録音し、注目を浴びた。

ここでの廣木はこの高柳のコンセプトを継ぐクール派としての面目躍如で、渋谷を相手にクールにスイングし、新鮮である。

廣木光一は現在、自ら音楽塾を開設し音楽の指導に当たるほか田中信正(p)、飯田雅春(b)、羽生一子(ds)との「HIROKI BAND」、廣木光一アコースティックギターソロ、渋谷毅や永武幹子(p)とのデュオ等で演奏活動を行っている。

望月由美

望月由美 Yumi Mochizuki FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください