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CD/DVD DisksNo. 247

#1567『板橋文夫オーケストラ/ FUMIO 69 Rock & Ballade』

text by Yumi Mochizuki 望月由美

 

MIX DYNAMITE RECORD MD-021 2,500円 (2018年09月27日発売)

板橋文夫(p,per) 林栄一(as)纐纈雅代(as)片山広明(ts)吉田隆一(bS)
類家心平(tp)山田丈造(tp)後藤篤(tb)高岡大祐(tu)
太田恵資(vln)
瀬尾高志(b) 竹村一哲(ds)   外山明(ds)
レオナ(tap dance)

1. Dancin’Madam 2018(板橋文夫)
2. 産褥マタニティブルース(レオナ)
3. Lady’s Blues(R.Kirk)
4. Dream in Dream(板橋文夫)
5. 手からこぼれるように(吉田隆一)
6. DOKOMADEMO((板橋文夫))
7. 冬のワルツ(纐纈雅代)
8. PAKA! ((板橋文夫))
9. Mary Hartman Mary Hartman (Barry White)
10.Lonely Lonely (板橋文夫)
11.FUMIO 69・Rock(板橋文)
12,I can`t stop loving you(Don Gibson)
13. 七夕(板橋文夫.

プロデューサー:板橋文夫
エンジニア  :小川洋
録音:2018年7月23日、24日、25日 公園通りクラシックス
グラフィック・デザイン:レオナ


全員の音が前へ前へと競りだしてくる。まるで3D画面のように勢い良く音が飛び出してくるのである。中でも板橋の音はとりわけ活きがよい。

今年2018年の7月、渋谷・山手教会地下一階のライヴ・ハウス「公園通りクラシックス」を3日間借り切ってレコーディングされた板橋文夫の新作は総勢14名のフル・メンバーからテンテット、セクステット、カルテット、トリオ、デュオと曲によって編成を変え、75分強という長尺を聴き疲れしないように構成されている。板橋文夫の発想が突飛で奇想天外、思わず聴く方も手に汗を握り我を忘れる。板橋オケは聴いているといつの間にか自分もメンバーの一人になったようなオープン・マインドな気分にさせてくれて聴き手とホットな連帯感が生まれるところが大きな特徴。

いきなり林栄一のアルトがハイ・テンション、ハイ・スピードでリードし4管によるリフが始まる(1)<Dancin’Madam 2018>。ラグタイム的な明るいノリの板橋に4管がアセンション的咆哮で応える、これぞ板橋オケ。管と板橋の応酬から板橋ワールドが始まり自然と惹きこまれる。

(2)<産褥マタニティブルース>は2年前に出産を経験したレオナ(Tap dance)の曲。びりびりとリードを震わせながらブロウする片山広明(ts)のテナーから後藤篤(tb)がワウワウ・ミュートでオールディーズを演出すると太田恵資(Vln)がジョー・ヴェヌーティ(vln) 顔負けのレイジーなムードを演出。このフロント勢の大暴れをレオナ(Tap dance)のタップ・ダンスと外山明(ds)のドラムがさらにあおるという大饗宴が展開。板橋とレオナは2年前の『アリゲーターダンス2016/板橋文夫FIT!+MARDS』(MIX DINAMITE)でも共演しているが、板橋と向かい合う時のレオナは闊達で威勢が良くエネルギーの塊である。

一転して(3)<Lady’s Blues>はローランド・カーク(reeds) の『Left & Right』(1968, Atlantic)に収録されていた曲。カークはフルートで諧謔と哀愁を表現していたが、ここでは板橋と片山のデュオ。片山は一時体調をくずしていたと聞くが現在は快調そのもの、生向委以来の元気度、どこまでも黒くディープに沈んでゆく片山に執拗に絡む板橋、ピアノ・ソロになるとアケタさん底抜けの明るさが溢れる。そのコントラストが二人のキャリアを浮き彫りにする。ここにはカークの嘲笑と哀愁を超えた淡い郷愁がある。

(4)<Dream in Dream>は類家心平(tp)をフィーチャーしている。類家の吐息の漏れるような、かといってハスキーと云うのとも違ったかすれたトランペットのサウンドは類家のトレードマーク、独自のスタイルが印象的である。

(5)<手からこぼれるように>は吉田隆一の作曲。バリトン・サックスとピアノ、ベースというドラムレス・トリオ。吉田隆一がヴィブラートをつけずにストレートに自作曲を歌い上げる。

かつてG.マリガン(bs)が<ソング・フォー・ストレイホーン>で吹いたようなストレートなバリトンの音はしなやかで艶っぽい。そしてカキン、コキンと合の手を入れる板橋は天真爛漫思うがまま、無邪気そのものでバリトンとのコントラストが鮮やか。快活なバリトンのリップ・ノイズで終わるところはなにか不思議な物語を思わせる。

(6)<DOKOMADEMO>は14 名、フル・メンバーによる演奏。活きのいいツイン・ドラムのリズムに乗って高岡大祐(tu)がソロをとる。かつてジョン・コルトレーン(ts, ss)とコンビを組んでいたレイ・ドレイパー(tu) やギル・エヴァンス=マンデイ・ナイト・オーケストラのハワード・ジョンソン(tu) などが頭に浮かぶが高岡のチューバもスムーズで滑らか、重低音で速いパッセージを吹き上げる。普段は縁の下の力持ち的なチューバが軽やかにスイングし板橋オケに強いアクセントをつけている。

板橋の曲が6曲、レオナ、吉田隆一、纐纈雅代が各1曲とカークやレイ・チャールズのヒット曲などCDフォーマット目一杯に詰め込んだ板橋ミュージック全13曲にはエリントンがそうだったようにメンバー各人の人格や個性を最も効果的に活かしクローズアップすることを念頭に作曲やアレンジを施されているようで場面ごとにメンバーひとり一人の顔が見えてくる。

(11)<FUMIO 69・Rock>と(12)<I can`t stop loving you>でメンバー13名が個性を競い合う大響宴のあと板橋がエンディングの(13)<七夕>で淡々としかし心にしみるバラードを弾き締めくくる。

還暦をとうに過ぎた老青年たちが若手に交じってにぎやかに快活に会話し真剣に音に熱中する『板橋文夫オーケストラ FUMIO 69 Rock & Ballade』。板橋文夫、今年2018年7月レコーディング時69歳というがどうしてここまで童心に帰って無邪気に遊べるのか、アルバムをじっくり聴きこんでみた。

結論、これを聴けば10歳は若返る。

望月由美

望月由美 Yumi Mochizuki FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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