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CD/DVD Disksウェストコースト・アンダーグラウンド通信No. 247

#1558『PG13 / PG13』

Text by  剛田武  Takeshi Goda

CD/DL Edgetone Records EDT4200

Phillip Greenlief – alto saxophone, compositions
John Shiurba – guitar, compositions
Thomas Scandura – drums

1. Chapter 4
2. 13.1
3. Chapter 2
4. 13.2
5. Chapter 1
6. 13.3
7. Chapter 3

Recorded by The Norman Conquest at New & Improved on 6/7/2015
Mixed by The Norman Conquest on 9/20/2015 at Expressions Center for New Media
Mastered by Myles Boisen on 3/4/2018 at The Headless Buddha Labs

 

ペットロスから産まれた怒濤のプログレ・メタル・ジャズ

フィリップ・グリーンリーフは1959年ロサンゼルス生まれのサックス奏者。70年代後半からウェストコーストのポスト・ジャズ/即興シーンで活動し、ワダダ・レオ・スミス、メレディス・モンク、アンソニー・ブラクストン、ロック・バンドのゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツなど数多くのミュージシャンと共演・レコーディングしている。95年に自主レーベル「Evander Msuic」を設立し自らのプロジェクトを含め50作を超えるウェストコースト・アンダーグラウンドの作品をリリースしている。

グリーンリーフのイニシャルを冠したPG13は、ギタリストのジョン・シューバ、ドラムのトーマス・スキャンデュラを擁するトリオ。シューバとスキャンデラは即興演奏家であるとともにロック・ミュージシャンとしても活動しており、ロン・アンダーソン(g)率いるノイズ・ロック・バンド「The Molecules」のバンド・メイトでもある。

彼らの1stアルバムがレント・ロムスのEdgetone Recordsからリリースされた。なぜ自分のレーベルから出さなかったのか理由は分からないが、そのサウンドを聴けば「My Music Is Weirder Than Yours!(私の音楽はあなたの音楽よりもっと奇妙だ)」というEdgetoneのキャッチフレーズにピッタリだと納得できる。

往年のヘヴィメタル・バンド、ブラック・サバスを思わせるデーモニックなリフで幕を開けるアルバムは、全編に亘って重いビートと地を這うようなディストーション・ギターとユニゾンするサックス、突然のリズム・チェンジと狂ったようなフリークアウトが連続し、ロック的なダイナミズムとカタルシスに溢れている。最近よくある“普通じゃないこともできますよ”的な偽装アヴァンギャルドや、百凡の自称“変態”ロック/ジャズ・バンドを蹴散らす迫真性と暴虐性は、雑食主義が渦巻く地下活動を通して培った感性と技術の結晶である。日本でいえば小埜涼子(sax)と吉田達也(ds)のSAX RUINSのBPMを遅くしてとことん重くしたサウンドは、ドゥーム・メタル・プログレッシヴ・アヴァンギャルド・ジャズとでも名付けようか。

レント・ロムスの連載『ウェストコースト・アンダーグラウンド通信』で分かるように、西海岸シーンでは即興/ジャズとノイズ/ロックの間の垣根が低く、ジャンルやスタイルの交流が当たり前のように行われている。もちろんニューヨークやヨーロッパ、日本に於いてもジャンルの混合や共存はあるが、ジャズとロックの意識の壁が存在することは、自覚的な演奏家やリスナーなら感じているに違いない。しかし、大らかな西海岸の風土のせいか、もしくは他のシーンほど世間ズレしていないせいか、ウェストコースト・アンダーグラウンドの内側の交雑によるハイブリッドは極めて優れているように思われる。その仮説へのひとつの回答がPG13である。

資料によると、PG13の結成のきっかけは、グリーンリーフの飼い猫のジョージ・クリーヴァー(ジャケットの黒猫だろう)の死だったという。喪った愛猫に捧げたプロジェクトが、これほど斬新な極端音楽を産み出し得るという事実は、ペットロスのショックをポジティヴに昇華する治療法、言わば「逆アニマルセラピー」の発見かもしれない。

ちなみにPG13の3人、そしてレント・ロムスの全員が『ウェストコースト・アンダーグラウンド通信 第2回』で紹介されているモー・スタイアーノのMoe! Staiano’s MOE!KESTRA!に在籍経験がある。ウェストコースト・アンダーグラウンドの絆の深さを物語るエピソードである。(2018年10月28日記 剛田武)

 

Evander Music Official Site :  http://www.evandermusic.com/

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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