#1316 『平田王子 渋谷毅/LUZ DO SOL アヴェ・マリア』
text by 望月由美 Yumi Mochizuki
ソラマメレコード SMME-1508 2,400円+税
制作:ソラマメレコード 販売:(株)キングインターナショナル
平田王子 (vocal,guitar)
渋谷毅 (piano)
1. エストラーダ・ブランカ(白い道)(Antonio Carlos Jobim/Lyrics:Vinícius de Moraes)
2.エザウタサォン(平田王子/Lyrics:岡田郁香マリア)
3.モーホのアヴェ・マリア(Herivelto Martins)
4.エスペランサ・ペルヂーダ(Antonio Carlos Jobim/Lyrics:Billy Branco) 5.ミミはどこ?(João de Barro/Lyrics:Alberto Ribeiro)
6.人生のバトゥカーダ(Ary Barroso/Lyrics:Luiz Peixoto)
7.彼方へ(渋谷毅/Lyrics:平田王子)
8.ア・フェリシダージ(Antonio Carlos Jobim/Lyrics:Vinícius de Moraes)
9.山の神様と幸せな一日(平田王子)
10.ノート(平田王子)
11.アロハ・アク,アロハ・マイ(Michael Lanakila Casupang/Keo Woolford)
12.アマドコロ摘んだ春(西尾賢)
プロデューサー:平田王子
レコーディング&マスタリング:迎谷彰信(D-Sound)
録音:2015年6月20日~22日 Music Inn 山中湖
二人はあどけない少女と少年のように声で、音で響きあいむつみあうことを楽しんでいる。 本作『平田王子 渋谷毅/LUZ DO SOL アヴェ・マリア』は渋谷毅と平田王子のデュオ・ユニット「ルース・ド・ソル」の第3作目にあたる。 平田王子のレーベル「ソラマメレコード」からのリリースで『太陽の光』(2011)、『緑の森』(2013)に次ぐ新作。 「ルース・ド・ソル」の3作品の中で最ものびのびとリラックスしている。
このユニットはギターとピアノのデュオという一面とヴォーカル&ギターwithピアノと云う面をもっていてその辺のバランス、均衡の動きが面白い。 アントニオ・カルロス・ジョビンやブラジルの古い名曲そして平田王子のオリジナルにより構成された小品集で森の樹木から放たれるマイナスイオンを浴びたように清々しい爽快感が満ちあふれている。
渋谷毅と一緒に唄う女性歌手の多くがそうであるように、ここでの平田王子は可憐でみずみずしい、渋谷と一緒だと素顔になれるようだ。 よく音量をしぼるとつまらなくなるアルバムがままあるが、このアルバムはむしろ小さめの音量で二人のささやき、あるいはつぶやきに似た会話をまどろむように聴く楽しみ方が最高である。
(1)<エストラーダ・ブランカ(白い道)>渋谷毅のイントロのシングル・トーンに導かれて平田が歌う。渋谷のさり気なさがいい。渋谷の『フェイマス・メロデイー』(Yumi’s Alley、2007)を思わせる優美さが平田の声によって一層引き立っているし、平田も渋谷のピアノの余韻にのって伸び伸びと自分を出している。 ジョビンの曲のもつ甘い香りが二人を森の中をさまよわせ浮世のしがらみから開放して無邪気に遊ばせている。
本作は前作と同じ山中湖のスタジオで録音している。日頃ライヴ・ハウスで共演を重ねることの多い二人に水と森に囲まれた環境が心の通い合いに作用してよりリラックスした雰囲気が伝わってくる。
(4)<エスペランサ・ペルヂーダ>ではピアノのソロで思わずもれた渋谷のスキャットがなんとも微笑ましい、ついに渋谷がジョビンを歌った。 今回の渋谷はいつになく快活で自作の(7)<彼方へ>ではソロに合わせて口笛もきかれる。
平田王子も前作に比べてかなりテンションが高く意欲的で、(5)<ミミはどこ?>では年端も行かない少女のような陽気であどけない声で、ブリジット・フォンティーヌにも似た妖精のような中性的な色香をも漂わせる。
(12)<アマドコロ摘んだ春>でははじめ渋谷が<アマドコロ摘んだ春…>とリードし、平田が<繰り返し そよぐ風…>と返し二人は<アマドコロ摘んだ春…>と斉唱する。二人の親密度が伝わってきて気分がのどかになる。
アルバム『平田王子 渋谷毅/LUZ DO SOL アヴェ・マリア』は足かけ10年、つかず離れず程よい距離を保って活動を続けてきた二人のデュオ「ルース・ド・ソル」が練れてとても楽しい局面に入ったことを示しているし、平田王子がプロデュースする「ソラマメレコード」が求めてきた色が鮮やかに光り始めている。