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CD/DVD DisksNo. 249

#1577 『Josh Sinton’s Predicate Trio / making bones』

text by  剛田武 Takeshi Goda

CD/DL : Iluso Records IRCD14

Josh Sinton’s Predicate Trio:

Josh Sinton – baritone saxophone and bass clarinet
Christopher Hoffman – cello
Tom Rainey – drumsall

1. mersible
2. bell-ell-ell-ell-ells
3. taiga
4. a dance
5. blockblockblock
6. unreliable mirrors
7. propulse
8. idonal
9. plumbum

compositions by Josh Sinton, copyright 2018 sinzheimer musik
except for taiga and idonal by Sinton, Hoffman and Rainey
all pieces recorded in single takes on June 1st 2018 at Buckminster Forest
Mastering by Wayne Peet/Killzone Music

 

知的好奇心を掻き立てる創造性トリオのデビュー作。

1971年生まれのバリトン・サックス/バス・クラリネット奏者ジョシュ・シントンの通算10作目のリーダー作にして、クリス・ホフマン(チェロ)、トム・レイニー(ドラム)と結成したPredicate Trio(叙述トリオ)のデビュー作。ホフマンはヘンリー・スレッギルやトニー・マラビーなど、レイニーはティム・バーン、クリス・デイヴィス、イングリッド・ラブロックなどとの共演で知られるNY即興シーンの実力派である。正式タイトルは『making bones, taking draughts, bearing unstable millstones pridefully, idiotically, prosaically(直訳:骨を作る、下書きを取る、不安定な石臼を保つ、誇りに満ちて、馬鹿げたほどに、単調に)』という散文詩になっている。収録曲の頭文字に合わせた言葉遊びから生まれたタイトルらしいが、歌詞のないインストゥルメンタル曲を聴くときに、タイトルについても聴き手それぞれが異なる解釈をすることで、イマジネーションを膨らませられるよう意図したという。英語を解さない日本人には難しいかもしれないが、音楽同様、言葉も断定的なものではなく、多種なイメージを喚起する流動性を持つことは周知の事実であろう。同じことが女性のヌード写真を使ったアートワークにも当て嵌まる。深読みしようと思えば際限なく解釈できるし、逆にこれはこれと開き直ってしまえば、ひとつの造形として審美的に鑑賞可能である。

そのように知的好奇心をくすぐるシントンたちの意図は、収録された演奏にも繋がっている。スタジオで3人が向い合って、せーので一発録音する、シントン曰く“オールド・スクールな方法”で録音された9曲は、殆どがファースト・テイクだという。即興ジャズの熱気とも、クラシックの厳格さとも異なる、知的な遊び心に満ちた実験精神は、室内楽的ハードコアジャズとでも呼べばいいだろうか。驚異的な音のレンジを持つシントンのバリトン・サックスは、時にチェロと双子のようにリエゾンし、時に低音でリズム・セクションを担う。ホフマンのチェロも同様に、高周波のパルス音からウッドベースのピッチカートやアルコを真似る。特に印象的なのはレイニーのイレギュラーなドラミング。パーカッションに留まらずメロディを歌う表情豊かなプレイは、シントンがこのトリオの特徴として上げる「リズムの束縛の解放」の鍵となっている。

M2「bell-ell-ell-ell-ells」の三者それぞれ別のリズム軸で同時進行するローラーコースターのような円舞曲、M3「taiga」のバリトン・サックスとチェロの睦合うような囁きに突如介入する不整脈ドラム、M4「a dance」はタイトルに反して抜き足差し足の覚束なさ、M7「propulse」の堅固なビートと後半のカオス。エンディングM9「plumbum」のバリトン・サックスのドローン・ソロが1分強で終わってしまうのが名残惜しい。

このアルバムを知的なパズルを解くように解析するのも良し、卓越したインタープレイのスリリングさに酔うのも良し、寝起きの頭で目覚まし代わりに聴くだけでも良い。ニューヨーク即興シーンに登場した創造の泉として味わい尽くしたい作品である。(2018年12月29日記 剛田武)

 

Josh Sinton Official Site

Iluso Records Official Site

 

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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