#1602 『Rent Romus’ Life’s Blood Ensemble with Vinny Golia / side three: New Work』
Text and photo by Akira Saito 齊藤聡
Edgetone Records
Timothy Orr (ds, perc)
Safa Shokrai (b)
Max Judelson (b)
Mark Clifford (vib)
Rent Romus (as)
Heikki “Mike” Koskinen (e-tp)
Joshua Marshall (ts, ss)
special guest: Vinny Golia (bs, sopranino sax, alto fl)
1. The Humming of Trees
2. Cosmovision
3. Area 52
4. Three Rites of Recombinance, Movement I – Fred Moten
5. Three Rites of Recombinance, Movement II – Jamie Delano
6. Three Rites of Recombinance, Movement III – A.A. Attanasio
7. Downbeat for the Forgotten
Recorded: May 12, 2018 by John Finkbiener at New, Improved Recording Oakland California
Cover art: “Three” ink on canvas by Collette McCaslin
Photo: Ryan Pate
Special thanks to Suki O’Kane
冒頭曲「The Humming of Trees」においてまず異世界感を覚えるのは、コントラバスふたりの指弾きによる奇妙に力強い浮力と、その上空を浮遊するようなヴァイブだ。4管のアンサンブルのあと、急に放置されヴァイブの残響が支配する静かな空間で、ヴィニー・ゴリアのバリトンがうねり、全員が順次ためらいなくエネルギーを注入する。「Cosmovision」もまたヴァイブが効果的であり、ドラムス、ベース2本とともに別々の意思を持ってフォギーな音空間を形成し、聴く者の頭蓋をドランキーにしようとするがごとく揺らす。再び登場するゴリアのバリトン、そしてヘイキ・マイク・コスキネンの電気トランペットは霧に穴を開けんと真直ぐに吹き、ジョシュア・マーシャルのテナーは対照的に霧を取り込みアンビエントに一体化するのだが、それらがあってこそ、滑らかなヴィブラートで震えるレント・ロムスのアルトが大きな快楽を呼び起こしている。続く「Area 52」でのアルトもまた、擾乱の中で悠然と艶を見せつけており聴き惚れてしまう。
後半は3部からなる「Three Rites of Recombinance」が演奏される(マーシャルの作曲)。ムーヴメント1は黒人文化研究のフレッド・モートンによる詩に触発されたものであり、そこにあるように、次々に閃光が放たれて滞留した空気を吹き飛ばし、やがてゴリアのフルートやベースの指弾きによる擦れが重なりヴァーチャルな思索に誘われる。ムーヴメント2に付されたサブタイトルはコミック原作者のジェイミー・デラーノであり、抑制気味のアンサンブルを中に置いて、左右独立で弦がはじかれる音が攻めてくる。それはコンピューターから汚れた肉体へと戻らざるを得ない男の暗鬱の物語だ(『Hellblazer』)。そしてムーヴメント3はSF作家のA. A. アタナシオが『Hunting the Ghost Dancer』において引用したダンスのイメージである。狂騒的に明るい世界で何の夢を共有しているのか、しかし突然に終わる。
それにしても、黒人文化、SF、コミック。アフロフューチャリズムの系譜に連なるものだとして、それがいまや人種も時代も超えて広く共有されていることを示しているのかもしれない。
最後に締めくくる「Downbeat of the Forgotten」でのティモシー・オアのベタなリズムとその上での祭りは、これまで聴いてきた世界がはかない幻影に過ぎなかったと言っているかのようだ。
(文中敬称略)