#1608 『藤井郷子 ピアノ・ソロ / Stone』
Text and photo by Akira Saito 齊藤聡
LIBRA Records 201-056
藤井郷子 Satoko Fujii (p)
1. Obsius
2. Trachyte
3. Biotite
4. River Flow
5. Shale
6. Phonolite
7. Lava
8. Icy Wood
9. Piemontite Schist
10. Chlorite
11. Basalt
12. Sand Stone
13. Marble
14. Ice Waterfall
15. Eternity
All music composed by Satoko Fujii except “Eternity” by Norikatsu Koreyasu
Recorded at Samurai Hotel, NY on September 30th, 2018 and December 12th, 2018 by Max Ross and at Systems Two. Mastered on February 18, 2019 by Max Ross and at Systems Two.
藤井郷子のピアノ世界は懐が広く奥が深い。もちろん国内外で長いこと高く評価され続けている音楽家であり、それは何も言っていないにひとしいかもしれない。しかし、多彩な形態でライヴを行う姿を目にするならば、そのことを実感できる。たとえば、吉田達也(ドラムス)とのデュオ「藤吉」において、重機関銃のごとき吉田のドラミングを受けて、にやりと笑いながら互角の強度を持つピアノ演奏を繰り出した姿を目の当たりにして、筆者は驚嘆した(2019/3/31、MANDA-LA2)。オーケストラでも様々なバンドでも、藤井はまた異なる姿に化ける。
そして、本盤はソロピアノである。だが、普通のソロピアノではない。たとえば近作の『Invisible Hand』(2016年)や『Solo』(2018年)は、内部奏法を駆使しながら、ジャズ史の延長線上にあるソロピアノのサウンドを創出した傑作である。それらと比較しても、本盤は異色的だ。
開始早々から、ピアノ全体が鳴り響いていることに、あらためて驚かされる。鍵盤を叩き、内部の弦をさまざまなやり方で鳴らし、それがピアノというひとつの楽器をしてオーケストラルなサウンド発生器たらしめているようだ。
これを聴く者は、茫洋とした響きも、不穏な弦の掻き鳴らしも、筐体を共犯者とした大きな残響も、地響きのような轟音も、何かの幻視とともに体感することができる。サウンド全体を霧が覆い、その中に光や生物がうごめいている。その中で、特別の音を探り当てて蒸留したような旋律を藤井郷子が弾くとき、霧の合間から向こう側が視える。
(文中敬称略)