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CD/DVD DisksNo. 254

#1614 『Gerald Cleaver, Nels Cline, Larry Ochs / What Is To Be Done』

text by 剛田武 Takeshi Goda

CD: Clean Feed CF500CD

Larry Ochs (ts, ss)
Nels Cline (g)
Gerald Cleaver (ds)

1. Outcries Rousing (21:22)
2. A Pause, A Rose (6:04)
3. Shimmer Intend Spark Groove Defend (20:30)

All three pieces collectively created by the trio: Gerald Cleaver, Nels Cline and Larry Ochs

Recorded December 9, 2016 in Richmond, Virginia at Gallery5 Arts by J.Goody
Mixing in 2018 by J.Goody at Megasonic Sound, Oakland, CA
Mastered by Myles Boisen at Headless Buddha Lab, Oakland
Produced by Larry Ochs
Executive production by Pedro Costa for Trem Azul
Cover Photo by Myles Boisen
Design by Travassos

 

即興音楽スリーピース伝説

ロックバンドの最小限の編成はギター、ベース、ドラムのいわゆるスリーピース・バンドだと思う。もちろんソロ演奏や二人編成もたくさんあるし、三人のほうが優れているなどというつもりはないが、ロック(ン・ロール)という表現形態の本質を最も効果的に発揮できるのはスリーピース・バンドだと確信している。Jimi Hendrix Experience, Cream, The Jam, Blanky Jet Cityなど。たとえヴォーカリストが加わった4人組だとしてもヴォーカルは歌に徹して、楽器隊はスリーピースが潔くてかっこいい。The Who, Led Zeppelin, Sex Pistols, The BLUE HEARTSなど。

では即興音楽においてはどうだろうか。ピアノ・トリオやワンホーン・トリオはジャズで人気だが、スタイルを解体して自由度の高い演奏を求めるImprovised Musicにおいて筆者が理想とする編成は、サックス、ギター、ドラムのトリオ編成である。筆者が最初に聴いたヨーロピアン・フリー・ミュージックの作品が『Derek Bailey, Evan Parker, Han Bennink / Topography Of The Lungs』というギター/サックス/ドラム編成だったことが要因かもしれない。また、単に個人的な経験に過ぎないが、筆者が19歳の時に吉祥寺のライヴハウスGATTYで結成した即興ロックバンドOTHER ROOMが、最初はギター/サックス/ドラムの編成だったことも大きい。音楽理論も無視して出鱈目な演奏を吹き散らかして一端のインプロ気取りだったことは若気の至りの噴飯ものだが、スリーピース編成が生む化学反応の片鱗を感じたことも確かである。ベースがいないことが音域的に低音部分のロスを生むと同時に、好き勝手に音を巻き散らす目立ちたがりのギターとサックスを横目に、リズムキープを忘れた打撃音が不定形に乱射される。恐らく聴いていた客(たいていメンバー数と同じか少ない)にとっては苦痛に近かったに違いないが、演じてる方にとっては<Out of Control>で面白かった。

当時同じ編成のバンドがいないか探したが、フランスのエトロン・フー・ルルーブラン Etron Fou Leloublan(ギターよりもベースがメインだったが)はテクニカルに高度過ぎ、イギリスのブラート Blurtはリズムが直球パンク過ぎた。もっとも近いものを感じたのはアメリカのハーフ・ジャパニーズ Half Japaneseだったが、人数も編成も不定形で、純粋なスリーピースとは言えなかった。

もしその頃このアルバムに出会ったとしたら相当インスパイアされたに違いない。ロックバンドWILCOで活動するネルス・クライン(ギター)、ロヴァ・サクソフォン・カルテットのラリー・オークス(サックス)、NY即興シーンのベテラン、ジェラルド・クリーヴァー(ドラムス)のスリーピースによる即興作品である。アルバム・タイトルは「やるべきこと」と訳されるが、受動態(Be Done)なので「なされるべきもの」、さらに意訳して「なってしまうもの」となる。即興演奏家三人が集まって、同時に演奏することで「生まれるべくして生まれてしまった」音楽が収録されている。

オークスの柔軟性に満ちたソプラノとテナー・サックスはいつも通りスタジオ(場合によっては洞窟)の隅々にまで音の飛沫を飛ばすシーツ・オブ・サウンドであり、このスリーピース編成に於いては最も即興ジャズの真髄に接近したプレイを聴かせる。他方クラインのギターは、幾つかの異なる音色を使い分け、孤独なギターのイメージをテクニカラーに染め上げるダイナミズムを発揮する。クリーヴァーのドラムは両者の間の真空地帯を音の酸素で緩和し、三者が窒息することなしにコラボレーションを堪能できるよう尽力する。ソニック・ユースの空間的ノイズロックの先鋭性が、ウェストコーストの気怠い午後の日光を浴びて半分溶解した状態。うたた寝気分で聴いていると、突如狂った演奏に寝ぼけ瞼を直撃される羽目になる。決して特定のスタイルを標榜する訳ではないが、この潔さは即興音楽スリーピースの極意と言えるに違いない。パーマネントなトリオではないことを重々承知の上で言わせてもらえば、Improvised Music最上のトライアングルである。35年前の自分に聴かせても何も変わらないに違いないが、理想の音楽にほんの少し近づくことが出来て、一年続かなかったOTHER ROOMの活動が多少は延びたかもしれない。(2019年5月29日記)

 

 

 

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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