#1631 『中村 真トリオ/RUBY』

閲覧回数 1,176 回

text by Masahiko Yuh  悠 雅彦

にはたづみ レコード  NRCD009  ¥2,500(税込)

中村真 Makoto Nakamura (piano)
中村新太郎  Shintaro Nakamura (bass)
大村亘 Ko Omura (drums)

1.Extemporization Ⅰ (Makoto Nakamura/Shintaro Nakamura/Ko Omura)
2.Moments Notice (John Coltrane)
3.Up Jumped Spring (Freddie Hubbard)
4.Blue in Green (Miles Davis/Bill Evans)
5.I’ll Remember April (Gene de Paul)
6.Extemporization Ⅱ (Makoto Nakamura/Shintaro Nakamura/Ko Omura)
7.What kind of Fool Am I (Leslie Bricusse/Anthony Newley)
8.I Thought About You (Jimmy van Heusen)

Recorded at STUDIO Dede 2019.1/4.5
Engineered by Seiki Kitano (Bang On Recordings)
Piano technician: Makoto Kano (ALT NEU Artistservice Co.Ltd)
Art Direction & Art Design:  Kazuki Endoh
Artists Photo by Hideyuki Tanaka
Produced by Makoto Nakamura Trio
Production Coordinater: Natsuko Yokoji(にはたづみレコード)
Executive Producer: Makoto Nakamura(にはたづみレコード)


久しぶりに中村真の新作が届いた。かつて川島哲郎や安カ川大樹らと組んで東京で地歩を築きつつあった中村のピアノ演奏術に惚れ込んだ私だったが、その後の彼の活動については詳細を知るすべがなかった。近年は生まれ故郷の大阪に戻ってジャズ・ピアニストとしての地道な活動を続けているらしいと分かった。大阪音大出の彼のピアノ演奏は正攻法的な奏法に加え、聴く者を酔わせるアイディアの豊かさがあり、CD演奏でも今度はどんな手で聴き手を魅了するかといった楽しみがあって、それが彼の新作への期待でもあった。果たして、期待は裏切られなかったといってよい。

とは言ったものの、試聴する前に演奏曲のラインアップを一瞥していささか驚いた。なぜかといえば、そこには想定外の曲が並んでいたからだ。<Extemporization>の2つのテイク(1、6)以外の6曲はジャズ・ファンなら誰でもお馴染みのジャズ・オリジナルと、いわゆる通俗的な有名スタンダード曲が3曲づつ。問題は、それら3種の楽曲を、中村がどのようなアイディアで料理し、どのような形でまとめ、中村真ならではの時には意表を突く発想で演奏を展開していこうとするのか、に尽きる。中村真というピアニストは、2002年の『キムサク』(ewe) でもそうだったように、ときに常人の想像を飛び越えた意想外な演奏をすることを厭わない。ある意味ではまさに油断ならないアイディアを発揮するミュージシャンであり、例えば韓国のサックス奏者チョン・ソンジョンと2枚のアルバムを制作したことなどを1例としてあげるにとどめるが、彼が聴くものを唸らせるアイディアを駆使する限りその健在ぶりが衰えることはないはずだ。

アルバムは中村の<Extemporization>で始まる。前段で触れたようにこの曲(1&6)が本作の唯一の中村のオリジナル曲。extemporization とは文字通り「即興演奏」のことであり、なぜこれをアルバム・タイトルにせず「RUBY」にしたのかは私には分からない。なるほどレーベル地もルビー色であり、もしかすると誕生月のように中村真に関係する何かを表しているのかもしれない。

劈頭の<Extemporization> の演奏がこのアルバムにおける中村の意図する演奏法を明快に示し出す。すなわち、演奏の基本的手法はフリー奏法に基づく。フリーといってもあらかじめ何も設定されていないフリーではなく、様々な枠を設定したルートに沿って展開していく。かかるフリーな演奏は、共演者が相互に緊密な関係下にある間柄でないと上々な達成は期待できない。フリーであってフリーにあらず。このコンセプトがかくもスムーズに運んで料理されたのも、中村新太郎と大村亘が中村のコンセプトを正確に理解し、汲み取って、まさに活き活きとしたスピリットを発揮してみせた一事に尽きる。ことに、初めてそのプレイぶりに触れた打楽器奏者、大村亘の新鮮な感覚には感心させられた。この ”フリー” な手法を通して、ジャズ・オリジナルのスタンダード曲としての<Moment’s Notice>(ジョン・コルトレーン)、つづく<Up Jumped Spring>(フレディー・ハバード)、<Blue in Green>(マイルス・デイヴィス)、および通俗的スタンダード曲の中から選んだ<I’ll Remember April> ( 1941年、ジーン・デポールら3者の作品。ウディ・ハーマン楽団の演奏がヒットした)、<What Kind of Fool Am I>(1961年、レスリー・ブリッカスとアンソニー・ニューリーの英国作品)、<I Thought about You>、(ミルドレッド.ベイリーや後年のフランク・シナトラの歌で有名。1939年) という構成。

素晴らしいテンションが連続する <Moment’s Notice> に始まり、少しの揺るぎもなく、ピタリと呼吸を一致させた中村トリオの快演が頼もしい<Up Jumped Spring>。情景の展望が繊細で変化に富む<Blue in Green>など、近年は滅多に聴かれなくなったフリーなイディオムでの演奏がこれほどの一体性をまとった好個の例として興味深く聴いた。一方、最もフリーの名にふさわしい<Extemporization Ⅱ>を挟んで演奏される「4月の思い出」、あたかも大海原を思わせる中村新太郎のアルコ奏法によるベース・ソロが聴きごたえ十分の「ホワット・カインド・オヴ・フール・アム・アイ」、そして中村真と中村新太郎の静かな語らいでアルバムが閉じられる、その最後の「アイ・ソウト・アバウト・ユー」まで、中村の衰えぬ意気込みと気のあった僚友との迫力ある演奏に、しばし胸打たれるままに聴き通した。それにしても、もう10年以上前に自転車で北海道を旅した成果をソロ・アルバムに託してみせた中村の心意気には少しの衰えもないようで、嬉しい限り。即興演奏の奥義を極めようとするかのような中村のチャレンジ精神とその楽しさと生きがいを聴くものに伝えようとする若さを失わない演奏に脱帽した新作であった。(2019年8月29日記)

悠雅彦

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

↓ ロボットでないかお知らせください。 * Time limit is exhausted. Please reload CAPTCHA.

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。