#1636 『高田ひろ子+安ヵ川大樹 / Be Still My Soul』

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Text and photo by Akira Saito 齊藤聡

D-NEO DNCD-20

高田ひろ子 Hiroko Takada (p)
安ヵ川大樹 Daiki Yasukagawa (b)

1. Be Still My Soul
2. 赤紫陽花 (Ajisai II)
3. The Tree Of Life
4. Lift up your hearts!
5. 祈り (Inori)
6. Joy
7. Hark! the herald angel sing
8. Corde Natus ex Parentis

Recorded on 21th Oct.2018 at TOKYO FM Studio IRIS
Engineer : Osamu Kawashima
Assitant Engineer : Masato Maruyama
Mixed and Mastered by Eiji Hirano (Studio Happiness)
Exective Producer : Daiki Yasukagawa (DAIKI MUSICA INC.)
Art Direction & Design by Tadashi Kitagawa (Kitagawa Design Office)
Liner Notes by Hiroko Takada

本盤に収録された曲の半分はキリスト教の讃美歌だ。だが異色作という印象はない。

このデュオのライヴを2度観たことがある。無理にはしゃぐこともトリッキーな仕掛けをするわけでもなく、ふたりとも落ち着いて、自身の演奏、相手との対話のいずれかに偏ることがない。言ってみれば、成熟した大人の関係、大人の音楽である。

安らかな心地で聴くことができることは、その刻その刻の音空間を得て柔軟に次の音を繰り出してゆくジャズのスリリングさとは相反しない。一音一音に集中して聴き、音の流れ自体に憑依するならば、高田と安ヵ川のその場限りでの振る舞いを追体験できるだろう。

高田のオリジナル「赤紫陽花(Ajisai II)」における、流れるようなコード進行に乗った両手の動きは花弁の露を思わせる。やさしくもある安ヵ川の追走も、高田の和音も、花の色が濃くなるように存在感を増してゆく。姉妹曲「青紫陽花」は高田のピアノトリオ盤『For A New Day』に収録されており、いずれも2曲目。眼が醒めた後の朝の曲なのだ。「青」は「赤」よりもスピーディで、安ヵ川のエッジの効いたコントラバスとともに印象的である。両曲の間の違いは、作曲によるものよりも、本盤がデュオだからだと思える。安ヵ川が聖書に触発されて書いたという「The Tree of Life」でも、続く讃美歌でも、本盤における安ヵ川のコントラバスはゆったりと柔らかな弦の音を刻む。

ふたりの時間の流れ方は異なるように思えるが、その両者は気がつくと互いに主と従とを入れ替わり続け、見事だ。「祈り(Inori)」では、旋律をじっくりと確かめながら弾く高田の伴奏であった安ヵ川だが、途中から音を集めて大きな流れを創り出し、やがて再び高田の背後にすっと移動する。

落ち着いているばかりではない。「Joy」では高田が(きっと)お茶目に音を外す瞬間があって笑ってしまう。そういった時間を経て、安寧の場所に戻ってくるようなメンデルスゾーンの演奏は、静かな悦びに満ちている。

2000年前後の高田のカルテットによるアルバム(『A Song for Someone』、『Elma』)からは、自身の新しい音楽を創り出そうとする勢いを感じ取ることができる。また、安ヵ川、橋本学とともに2010年前後に吹き込まれた2枚のピアノトリオ(『For A New Day』、『Inner Voices』)は、独特の美意識と丁々発止のインタラクションを示すものだった。デュオであれば、ギターの津村和彦との『Blue in Green』が2006年に録音されており、互いに相手の間合いに踏み込んでのキャッチボールに驚かされる。しかし、本盤において聴くことができる、大きなものに身を委ねるような雰囲気は、それらとはまた大きく異なる。

一方の安ヵ川も、高田を含め、佐藤浩一、田窪寛之、古谷淳らすぐれたピアニストとの小編成のアルバムを多数製作し、演奏を積み重ねている。本盤のサウンドはそのような活動を踏まえてのものである。

ふたりのさまざまな音楽的経験のエッセンスが、ことさらにそれと喧伝することなく静かに詰め込まれたアルバムだ。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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