#1647 『Saadet Türköz & Elliott Sharp / Kumuska』
『サーデット・チュルコズ&エリオット・シャープ/クムスカ』

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text by Yoshiko onnyk Kinno 金野onnyk吉晃

INTAKT CD328

Saadet Türköz: Voice, Lyrics
Elliott Sharp: Analog Synthesizers, Bass Clarinet, Glissentar

1. NYC 03:49
2. Kumuska 04:55
3. Avdaruv 07:07
4. Koshkel 03:21
5. Sakav 05:09
6. Üyüm 05:36
7. Kamir 09:00
8. Kök 03:46
9. Bala 04:36

All songs by Saadet Türköz (SUISA) & Elliott Sharp (BMI).
Recorded at Studio zOaR – NYC in 2007.
Mixed and mastered 2019 by Elliott Sharp at Studio zOaR – NYC.
Cover art: Renée Levi.
Graphic design: Jonas Schoder.
Photo: Francesca Pfeffer.
Liner notes: Manfred Papst.
Produced by Saadet Türköz, Elliott Sharp and Intakt Records.


昨年、2018年の9月から10月にかけて、作曲家、コントラバス奏者の河崎純らが主宰する「音楽詩劇研究所」が上演した「ユーラシアン・オペラ」。そのスピンオフみたいな形で、盛岡で私はサインホ・ナムチラクを迎えてコンサートを企画した。「ユーラシアン・オペラ」にはユーラシア大陸各地から4人の、ルーツミュージック的な出自を持つ女性歌手・パフォーマーが招聘され。河崎の脚本を元にクラシックでも商品音楽でもない、真の意味での大衆音楽としての「うた」が披露された。
ここで少し河崎の私信的テクストを引用する。

「ユーラシアの現代の神謡集の成立には、詠み人知らずの声である民謡や古謡や、楽譜のように記録されず再現性の低い『即興』が重要であると思った。」
「4人のマレビトが来訪するのは、離散を免れぬ架空の民族の一つ。近代国家の隆盛の落とし子のように生まれたJAZZという音楽は、そのような意味で、分断の間にある表現として、楽器の音色や奏法等にローカリティを保ちつつ身体性がクローズアップされていた。それを支えていたのは『即興』という『表現方法』であった。」

今回、編集部からレビューを指定されたアルバムは、このとき呼ばれた歌手達の一人、サーデット・チュルコズが、即興演奏の重要レーベル「INTAKTインタクト」からリリースした作品だ。この共演相手が、特異な演奏家・作曲家エリオット・シャープである。
しかし録音は2007年と、十年以上も前のことになる。なにがこれだけ遅らせた理由なのだろうか。

また、少々河崎の言。
「(サーデットと)わたしは昨年の音楽詩劇研究所のバイカル・黒海プロジェクトによるイスタンブール公演も含め、3プロジェクト目の共演。2010年の日本トルコ現代音楽制作「sound migration」がその出会いだ。」
「彼女がリハーサルを好まず、即興にこだわりを持つのはそのときの経験でわかっていたが、大人数のアンサンブルと演劇的構成の中で彼女が納得しながら良いパフォーマンスができるかどうかは気を揉んだ。」
「本番はこれまでの共演でも見たことのないような圧倒的なパフォーマンスだった。サーデットのそれはシャマニズムの舞踊性というより中央アジアの伝統的な語り芸の持つ強度である。みずからの声の起伏や痙攣が身体にのりうつる。静かに語りかけるように歌っているかと思うと突如として火山の爆発のような大声で煽動するように大きな身体をふるわせる。」
「偶然かもしれないが、彼女がロシア文学に親しむ理由には、彼女の親が東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)で受けた教育の影響もあるのだろうか?そこで語られる信仰や神学的対話、政治についてなにを考えるのだろう。」

ずるいようだが、彼女の音楽、声に関心を持ってもらうには共演を通じ、体感した河崎に語ってもらうにしくはなかろう。彼女の声は、誰かに似ているとか、何かを連想させるというものではない。いや、無理すればディアマンダ・ギャラスと、サインホ・ナムチラクと、ダグマー・クラウゼと、ウンム・カルスームが同居しているとか?。いやもっとインド亜大陸、北アジア、中国、東南アジア、朝鮮半島、日本まで、そのような「こえ」の持ち主を見つける事は難しく無い。そしてそのほとんどはローカルな存在でしかない。ただ、そのローカリティの底を突き抜けて、グローバルというべきか、ヒトという構造の、精神という機能の共有領域まで連れて行ってくれる「こえ」なのだ。

さて、エリオット・シャープにも言及しておかなければ。
80年代初頭のニューヨークの新しい即興シーンに登場、しかも特異な調律、特異なサウンド、特異な作曲で注目された。そのギターは倍音とハーモニックスだけで出来ているのに、極めて部族的なリズムで脅迫的なのだ。バスクラはじめ、多種の管楽器でも決して華麗なフレーズで聴かせるのではなく、単純かつ執拗なリフレインが記憶に焼き付く。あるいはまた、自然界に見られる螺旋構造の幾何学解析〜対数螺旋をリズムに応用した作品。しかし説明されなければそんなの分かるはず無い。これを自己満足というべきか論理的と考えるか。
何時聴いても、何処を聴いてもガチャガチャと落ち着かない異形のロック。まあそんな意味で私には面白かった。
私の知人、ブライアン・デイのレーベル「パブリック・アイソア」はCDR時代には私のソロやバンドなど、日本各地のミュージシャンの作品もあったが、ジャック・ライトという知られざる大物サックスほか、米国各地の若手アーティストの実験的作品が相次ぐ。
その「パブリック・アイソア」から2012年に出たシャープとネルス・クラインとのギター・デュオ『Open The Door』は、1トラック毎に表情を変え、ハンス・ライヘルの生ギターのタッピングを思い出すと同時に、底流にブルーズやカントリーの感触さえあった。
4曲がシャープのニューヨークのスタジオ「zOaR」で1999年に録音され、これもまた10年眠っていた素材だ。ライブ1曲は即興演奏の拠点となっていた「The Stone」で2007年に行われた。これとてリリースまでに数年かかっている。今回レビューとなる『Kumuska』もスタジオ「zOaR」での録音である。
どうやらシャープにはまだまだお宝があり、マスタリングを待っているということらしい。
ある意味、アタマの人エリオットが、コエ・カラダの人と遭遇する時どんな化学反応が起きるのだろう。それは聴いてのお楽しみ、なんて無責任なことは言うまい。相変わらず、聴覚印象を無理矢理文章に封じ込めるという、不毛な事を承知でやるだけだ。これが私のオブセッションである。
『KUMUSKA』の冒頭、ディレイをかけた特殊な調律の弦楽器が、生々しいサーデットの声を召還する。ふと日本語が聞こえる。「果てしない道で」と。勿論空耳である。しかしそれを想起させるような声。ヴィブラートの無い、強い意志をそのままカタチにしたかのような声〜うた。そしてシンセサイザーやバスクラの音が亡霊のようにたゆたっている。
町工場のような、解体現場のような昔のシャープなノイズはない。ドタバタしたリズムもない。タッピング演奏もない。
おそらく同時に録音されたのではないだろう。デュオというよりは、シャープが演出したサーデットの舞台。推測だが、サーデットが歌い、それにシャープが様々なサウンドをミックスという試行が繰り返されたのではないだろうか。それがようやく満足いくところに落ち着きリリースにこぎ着けたのではないか。そうだとすればスタティックな印象であることも納得できる。
単に静的なのではなく、霊性を湛えた湖面といえば良いだろうか。貴方の耳はそこに飛び込む。

♪ 試聴サイト
https://intaktrec.bandcamp.com/album/kumuska
*本誌関連記事
「時代と共振しながら〜ユーラシアン・オペラ東京2018」(横井一江)
https://jazztokyo.org/monthly-editorial/post-33268/
「ユーラシアンオペラ・プロジェクト・イン・盛岡」(金野吉晃)
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-32987/

アバター

金野 "onnyk" 吉晃

Yoshiaki "onnyk" Kinno 1957年、盛岡生まれ、現在も同地に居住。即興演奏家、自主レーベルAllelopathy 主宰。盛岡でのライブ録音をCD化して発表。 1976年頃から、演奏を開始。第五列の名称で国内外に散在するアマチュア演奏家たちと郵便を通じてネットワークを形成する。 1982年、エヴァン・パーカーとの共演を皮切りに国内外の多数の演奏家と、盛岡でライブ企画を続ける。Allelopathyの他、Bishop records(東京)、Public Eyesore (USA) 等、英国、欧州の自主レーベルからもアルバム(vinyl, CD, CDR, cassetteで)をリリース。 共演者に、エヴァン・パーカー、バリー・ガイ、竹田賢一、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、豊住芳三郎他。

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