#1649 『V.A. / VANITY BOX』

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text by 剛田武  Takeshi Goda

Kyou Records  11CD Box : remodel 05

CD-1 TOLERANCE/Anonym(79年)
CD-2 TOLERANCE/Divin(81年)
CD-3 NORMAL BRAIN/Lady Maid(80年)
CD-4 SYMPATHY NERVOUS/Sympathy Nervous(80年)
CD-5 ≪7インチ・シングル≫
・SYMPATHY NERVOUS/ポラロイド(80年)
・マッド・ティー・パーティー/ハイド&シーク(80年)
・パーフェクト・マザー/You’ll no so wil (80年)
CD-6 R.N.A.ORGANISM/R.N.A.O. meets P.O.P.O.(80年)
CD-7 BGM/Back Ground Music(80年)
CD-8 あがた森魚/乗物図鑑(80年)
CD-9 AUNT SALLY/Aunt Sally(79年)
CD-10 SAB/Crystallization(78年)
CD-11 DADA/浄(78年)

きょうRECORDS公式サイト

 

カタログ再構築(re-model)の有るべきスタイル

『ロック・マガジン』編集長の阿木譲によって1978年に京都で設立されたヴァニティ・レコードは、短いながらもたいへん興味深い制作をおこなった。10枚のLP、3枚のシングル、1作の2枚組コンピ、6本のカセットが1978年~1981年の間に制作・発売された。更に12枚のフレクシディスク(ソノシート)が『ロック・マガジン』の付録として1980年に配布された。
全てのレコードは極端な限定盤で、たった200枚~500枚のみがリリースされた。殆どのジャケットがハンドメイドで、現在オリジナル・プレスは入手困難で、数100ドルもの値段で取引されてきた。

中でも有名なのは70年代末「関西NO WAVE」と名乗って活動した一連のパンクバンドのひとつアーント・サリーである。現在も前衛ミュージシャンとして活動するPhewを擁したこのバンドの唯一のアルバム『Aunt Sally』はヴァニティ・レコードで正規再発された数少ない作品のひとつである。それ以外のカタログはつい最近まで正規再発されることなく、国内外で許可を得ないいわばブートレグ盤が少量流通するとともに、YouTubeに無許可で音源がアップされる程度で、多くの作品はきちんとした形で聴くことは出来なかった。

2013年頃、阿木本人が自らのブログでヴァニティ・レコードの真実を明らかにして行くと宣言し、筆者を含め地下音楽愛好家の間で正規再発への期待が高まったが、阿木自身ジャズカフェ「nu thing」のオーガナイザーとして現在進行形の先鋭的音楽の紹介に注力していたため、遅々として進まず放置されたままだった。そんな中で2018年10月に阿木譲が逝去。ヴァニティ・レコードの全容解明はもはや不可能か、と思っていたところへ突然Twitter経由で全カタログをアーカイヴしたボックスセットがリリースされるとの情報が公開された。アーティスト単体の10枚のLPと3枚のシングルを収録したCD11枚組の本ボックスセットの他に、同名の2枚組コンピレーションLPを収録したCD2枚組『Musik』(remodel 03)と6本のカセットテープを収録したCD6枚組『VANITY TAPES』(remodel 04)の計3作のボックスセットが同時発売。リリース元のkyou recordsによると、2011年にオリジナル・マスターテープからのCD化は完成していたとのこと。それから8年かかってリリースが実現した理由のひとつに海外からの日本の地下音楽への興味の高まりがあることは間違いない。実際に限定300〜500セットのこれらのボックスセットの半数近くが海外のレーベルを通じて日本国外で販売されるという。

収録された有名無名のアーティストの音源は、シンセサイザー音楽、メディテーション・ミュージック、テクノポップ、インプロヴィゼーション、ミニマル・ミュージック、パンクロックなど様々だが、特徴としてソロまたは少人数のユニット(非バンド)による、エレクトロニクスを多用したスタジオ多重録音が多い。これは70年代後半〜80年代前半の機材や録音技術の進化、およびパンクに代表されるDIY精神の流布による音楽制作の簡便化、つまり「誰でもミュージシャンになれる」時代精神の反映であるとともに、プロデューサーの阿木譲の志向と言えるだろう。実際に1979年のロックマガジンの増刊号の「MODERN MUSIC」にてヴァニティ・レコードの活動方針として『1.エレクトロニクス・ミュージック、2.”家具としての音楽”シリーズ(現代音楽)、3.歌謡曲業界への進出、4.実験的な新しいヴィジョンを持つ音楽(パンク、ニューウェイヴ、フリーミュージック、現代音楽等)を追求し、レコード製作していく』と宣言されている。

しかし個々の作品について語るのは本稿の意図ではない。通常リイシュー/reissueと呼ばれる過去作品のアーカイヴの在り方について考えてみた。

過去の音楽作品(主にLPレコード)の再発の場合、通常最もファンから望まれるのは「ストレート・リイシュー」と呼ばれる、オリジナル盤に忠実に再現されたパッケージ、いわゆる紙ジャケCDである。多くの音楽マニアに重宝されるオリジナル盤リリース当時の紙質や内袋・帯まで忠実に再現したミニ・ジャケットはいわば戻れない時代を追体験するタイムカプセルである。このボックスセットに収められた各アルバムのパッケージは確かに紙ジャケだが、ボックスの装丁は凡そ40年前の作品のノスタルジアは全く感じさせない。ポストモダン/フーチャリズムといった20世紀のアート・ムーヴメントを思わせるが、企画者の意図は過去への郷愁や追体験にはないことは明らかである。録音・制作自体は40年前だが、2019年の現在初めて明らかにされるニューシング(nu thing)として提示されている。それこそ作品番号に付された「remodel」の所以である。表現行為の記録の再構築により、煤のように堆積した記憶を払い除き、本質的な音楽そのものを新しい耳で体験すること、それがカタログへの向き合い方であろう。

今回の「remodel」化にあたっては、SNSも利用して可能な限りのアーティストとコンタクトし許諾を得たという。カタログ再発に伴う権利関係の問題を出来る限りクリアにしようとするリリース元の誠意を感じる。また、各アーティストへのマスターテープの返却と原盤権の譲渡を済ませているというから、近い将来アーティストの手により個別の再発がなされるかもしれない。

地下音楽に限らず、過去の埋もれた音源を世に出す際のモデルケースとして評価されるべき方法論と言えるだろう。(2019年10月31日記)

 

剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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