#1655 『日野皓正/Beyond the Mirage』

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text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

B.j.l./space Shower  DDCB13049 ¥3000(税込)

日野皓正 (tp)
加藤一平 (g)
石井彰 (pf,org,el-p)
杉本智和 (b)
石若駿 (ds)

01. Beyond The Mirage
02. Long Branch
03. Shun
04. Rumson Rain
05. Buttonwood
06. Vanish
07. Aftermath
08. Still Be bop
09. Zodiac
10. Oneiros
All compositions by Terumasa Hino

Recorded at Sound City Setagaya , May 1&2, 2019
Recorded & mixed by Shinya Matsushita (Studio Dede)
Mastered by Akihito Yoshikawa (Studio Dede)
Creative producer: Hidemasa Gemba (TAP)
A&R: Kenji Seki (AWDRLR2/Space Shower Music)
Produced by Terumasa Hino & Butchi Tabuch


久しぶりの日野皓正の新作。『アフターショック』(SMJ) 以来だとすると8年ぶり? 快作である。変則ファンク調のイントロに乗って日野のトランペットが矢のように走る。高速トリルにハイノート・ヒット。まったく衰えを知らない日野のトランペットに驚く。リズムがアップ・テンポの4ビートにチェンジする。カルマンギアで疾駆するような快適さだ。

クレジットを見ると前作とメンバーががらりと変わっている。鍵盤の石井彰、ベースの杉本智和のベテラン勢とギターの加藤一平、ドラムスの石若駿の若手の混成だ。石若の斬新なドラムスと加藤のファンク調ギターで時代にキャッチアップを図る作戦か。小曽根真もNo Name Horsesの新作で若手エレキギターを起用、曲によっては表情を大胆に一変させた。石井もピアノからローズ、ハモンドと刻々と表情を変えていく。変わらないのは日野のトランペット。どこまでも生一本。ストイックな日野らしい。おそらくシェイプアップにも怠りがないのだろう。日野の演奏がそれを証明している。
楽曲からアートワークを含め、まるごと日野のセルフ・プロデュース(プロデューサーとして田渕の名前が連記されてはいるが)。これが、現在、日野がやりたい音楽そのものなのだろう。ジャズのメインストリームを半世紀以上にわたって走り続けてきた男が世代の架け橋になるというミッションに燃えて。“Beyond the Mirage”(ビヨンド・ザ・ミラージュ)は、幻影を超えて、あるいは幻影の向こうに、この幻影とはマイルスを意味するのだろうか? マイルスもつねに時代にキャッチアップする努力を続け、いや、時代に先駆ける音楽を創造してきた。マイルスがやり残したこと、マイルスがやろうとしていたこと、それを今、日野が実現しようとしている...このアルバムの背後にどことなくマイルスの幻影を聴き取るのは僕だけではないだろう。

なお、日野の良き伴侶であったピアノの石井彰がこのアルバムを最後に日野と決別する。石井はこれから筋肉を冒される難病と闘っていかねばならない。20年前に戦友でもあった弟・元彦を失った日野はもうひとりの戦友・石井彰を失うことになった。

稲岡邦彌

稲岡邦彌

稲岡邦弥 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集長。 https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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