#1662 『Rent Romus’ Lords of Outland / 25 years under the mountain』

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Text by 剛田武 Takeshi Goda

Edgetone Records DL/CD: EDT4207

Philip Everett – drums, autoharp, electronics
Ray Schaeffer – 6-string electric bass,
Alex Cohen – electric guitar, viola da gamba
Rent Romus – alto, soprano, c-melody saxophones, flutes, kantele, percussion

1. Grown out of Stone
2. Like tears in ice
3. Ape of God
4. A Glass Darky
5. Revenge of Trees
6. Systemic Fault
7. Dark Wind
8. Under the Mountain
9. Call from the Deep
10. Homeward Bound

Recorded at New, Improved Recording, Oakland California, May 31, 2019
Mixed & Mastered by Ray Scheaffer
Cover Art by Collette McCaslin (ink on paper)
Gertude monster art logo by Vincent Rezini (Averee Repke)

Edgetone Records Official Site

 

名は体を表す。新・標題主義者レント・ロムスの25年目の覚悟。

中学生の頃、ナット・ヘントフの小説『ジャズ・カントリー』を読んでジャズに憧れた筆者だったが、さて何を聴けばいいかという段階で戸惑いを感じた。クラシックならば作曲者名、歌謡曲ならば歌手名、ロックならばバンド名、映画音楽ならば映画のタイトルでどんな音楽かある程度判断できる。しかしジャズの場合、たいてい個人のミュージシャン名でクレジットされており、渡辺貞夫や山下洋輔といったキャラクターのある人ならともかく、聞き慣れないミュージシャンの名前の洪水に困惑したのである。もちろん音楽に限らず初めて出会ったジャンルに馴染むまでは人名を覚える時間が必要なのは事実。しかしジャズや即興音楽に感じる敷居の高さは、個人名を冠したグループ名や作品が多いことが一因ではないだろうか?例えばビル・エヴァンス・トリオとクリス・ピッツィオコス・トリオがどう違うかは、リーダーがどういうミュージシャンか、個性や人となりを知らないと名前だけでは判断できない。

それは当たり前だろう、何を言いたいのか理解できないって?では言い方を変えよう。中高生の頃友人とバンドを結成するとまず問題になるのはバンド名だった。どんなバンドなのか、どんな音楽をやるのか、端的に表すのがバンド名であり、各メンバーの意見がぶつかって、1回も練習しないうちに決裂ということもあった。もしそのときに「剛田武グループ」にしようぜ、などと言い出したら、筆者がよほどクラスの人気者もしくはガキ大将でない限り(そうでなかったことは言うまでもない)総スカンを喰うに違いない。しかし大学時代に短期間在籍したジャズ研では、先輩達のグループはすべて個人名を冠した「誰それトリオ」やカルテットだった。今考えれば古くからのジャズ界の慣習に従っただけだろうが、当時の筆者にとっては、リーダーの自己顕示欲の表れなのか、はたまたバンド名を考えるのが面倒な怠け者なのか、と軽い違和感を感じた。実際現在のジャズ系ライヴの出演者を見れば個人名義のグループが圧倒的に多いことは一目瞭然である。「ジャズはロックやクラシックと違って、その場に応じて異なるメンバーで即興的にセッションできる“自由な音楽”だから、個人名以外の特定のバンド名を付けるとイメージが固定されて自由が失われる」という人もいるかもしれない。しかしロック側の人間から見れば、「自由」という言葉に甘えてリスクを回避しているように思えなくも無い。

さて、本作はサンフランシスコを中心にミュージシャン/プロデューサー/オーガナイザーとして活動するレント・ロムスが1994年に結成したグループ「Lords of Outland=辺境の君主」の25周年記念アルバムである。ロムスは他にも「Life’s Blood Ensemble=生命の血合奏団」、「Otherworld Ensemble=別世界合奏団」といったバンド名をつけている。いずれも活動精神を象徴する「名は体を表す」名前である。19世紀の標題音楽とは「内容を示す題あるいは説明文がつけられ、聴き手を一定の方向に導こうとする楽曲」(デジタル大辞泉)だったが、筆者がレント・ロムスに見る21世紀の標題主義は「名前(標題)をつけることにより自らの表現精神を宣言し、その責任を負う決意」を意味する。レーベル名「Edgetone=端の音」、イベント名「Outsound=逸脱サウンド」、キャッチフレーズ「My music is weirder than yours=私の音楽はあなたの音楽よりもっと奇妙だ」といった「標題」を明言するレント・ロムスの意志は明確である。「オレ様カルテット」を名乗り「何をやっても自由だもんね」とリスクを避ける弱腰たちとは覚悟が違う。

『25 years under the mountain=山の下に25年』というタイトルには、ウェストコースト・アンダーグラウンド・シーンでマグマのように胎動する地下音楽家の決意が籠められている。メンバー・チェンジを繰り返しながらも、2005年以来レイ・シェーファー Ray Schaeffer (b)、フィリップ・エヴェレット Philip Everett (ds)とともにコア・メンバーのひとりだったコレット・マッカスリン Collette McCaslin (electronics,tp/別名CJ Borosque、ロムスの奥さんでもある)に代わって、ギタリストのアレックス・コーエン Alex Cohenが参加した新編成によるサウンドは、異物感を発散していたコレットの奇怪なノイズが無くなった分、初期のオーソドックスなアコースティック・ジャズに戻った感触があるが、それゆえ逆にハードコアな変態ジャズ味が増している。アルバム・ジャケットのモンスターは、デビュー・アルバム『You’ll Never Be The Same』(95)のジャケットと同じイラスト。原点回帰の意味もあるだろうが、「Never Be The Same=同じじゃない」という25年前の「標題」に偽りの無い進化形の音楽を提示した。有言実行、新・標題主義を掲げるレント・ロムスと辺境君主の信念に貫かれた異端音楽が、いつか山の下を貫通し、モンスターとなって地上に出現する日が来ることを心待ちにしている。(2020年2月1日記)

 

剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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