#1972 ピアニスト、浜村昌子の「レガシー」に触れる~トリオ作品『Kind Mind』

閲覧回数 3,807 回

text & photo : 岡崎凛

ほぼ一年前となる2019年4月9日に、神戸在住のピアニスト、浜村昌子氏が亡くなった。遅くなってしまったが、まだ彼女の演奏を聴いたことのない人にも、その類まれな才能に触れてほしいという願いから、一年遅れの追悼文を書き、彼女の活動の一部を紹介したいと思う。(敬称を略すべきところ、今回は「浜村さん」という呼び名も使うことを了承頂きたい)

彼女が闘病中であったということは、親しい人以外は知らなかったようだ。浜村昌子のライヴには何度か行っていたが、また機会があれば聴こう、という程度に軽く考えていた。素晴らしいピアニストだと思っていたが、アルバムでの演奏をじっくり聴いたのは、訃報に接してからだった。彼女のことを何も知らずにいたと気づき、情けない思いでいっぱいになった。
後悔しても仕方ないが、もう生のステージで聴くことはできない。だが彼女はレコーディングにおいてもその才能を発揮しており、そのエッジの効いた演奏、詩情あふれる表現に、多くのアルバムで出会うことができる。

まず聴いて頂きたいのが、日本では2011年発売となった彼女の初リーダー作『Kind Mind』である。


Kind Mind Music KM001

パーソネル:
浜村昌子 (p, vo)
ピーター・シェール Peter Scherr (b)
エドワード・ペロー Edward Perraud (ds)

2008年9月、香港でのスタジオ録音。ピーター・シェールはジョー・ローゼンバーグ(ss)のカルテットで浜村昌子が共演したベーシストだ。本作の録音も手がけたというシェールの解説によれば、彼女がフランス人ドラマー、エドワード・ペローと創るアルバムのサポートをシェールに依頼して、トリオアルバムの制作が始まったという。

レコーディングの最中に、ペロー(ds)が、「われわれにはもっと緊迫感が必要だ」と言いだした、という話が非常に興味深い。どうやら彼のアドバイスによって、3人のインプロヴィゼーションの中身が濃厚になったと感じる。シェールは録音についてもペローの意見を聴き入れたと語るが、これもいい結果につながったようだ。硬質の鋭い音が、ゆっくりと静寂に吸い込まれていく。

こうして、ときには異様に張り詰めた空気に包まれ、怒涛のようなインプロヴィゼーションが展開する一面もあるが、オルゴールの音や、つぶやくような歌に彩られ、詩情豊かなアルバムが完成した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2019年6月の末、「はまむらさんの思い出を一緒に」のメッセージとともに、青谷音楽堂が午後に開くという告知を目にした。大まかな説明になるが、青谷音楽堂は浜村さんのホームグラウンドであり、彼女はここの主だった。

浜村さんと親しかったミュージシャンたちのお蔭で、この催しは実現したのだと思う。彼女が若き日に撮影したモノクロ写真、海外での公演記録、自筆の楽譜、大量のCD、レコードのコレクションに触れることができた。ここで見たもの、聴いたものについて語りだせば、何ページの文章になるか分からない。膨大な遺品の数々は、彼女の器の大きさ、魅力、才能をそのまま語っていた。長々と会場で過ごし、デューク・エリントンのLPなどを頂き、「お礼」をカンパ箱に入れ、それとは別に彼女の新品CDを買って帰った。

学生のころは写真部だったという浜村さんの作品。そこに彼女のトリオで聴いた世界とのつながりを感じた。その鋭い感性は、若き日のモノクロ写真にも表れている。
写真は非売品となっていたが、複写はOKと聞いてスマホで撮った。いつまでも眺めていたい写真が他にもたくさんあった。


最後に、青谷音楽堂の外観、浜村さんの音楽コレクションの一部、上記のトリオ(浜村、シェール、ペロー)に関する資料の写真を。

このほか、楽譜やレッスンノートなど、作曲家、教育者としての彼女を知る資料も多く展示されていた。




アバター

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。