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CD/DVD DisksR.I.P. 近藤等則No. 264

#1969 『Kondo IMA21/Live Typhoon 19』

Text by Kayo Fushiya 伏谷佳代

Toshinori Kondo Recordings
TKC015
2020年3月11日発売

IMA21
近藤等則 Toshinori Kondo (electric trumpet)
山木秀夫 Hideo Yamaki (drums)
富樫春生 Haruo Togashi (key)
酒井泰三 Taizo Sakai (electric guitar)
Kakuei (percussion)

Tracks:
1.Breathe with Earth
2.Typhoon Attacks
3.Sweet Whisper
4.Earth is our Home
5.Life is Free
6.Stars Night
7.Morning Sun

Total time: 46:44

Live recording @ Koenji-High, Tokyo, Oct 29, 2019
Live PA: Yukihito Endo (LSD)
Recorded by Susumu Numata (Ikebe Music Shop, Zoom F8N)
Stage lighting: Taro Kondo
Cordination: Mayumi Tanno
Jacket design: Aki Zaoya (Insight Inc.)
Photos: Moto Uehara


斜め上を行くどころか、いつだって突き抜けていたのが近藤等則の音=行動だった。一音で誰だかわかる。あっと思った瞬間には彼方まで跳んでいる。有無を言わせぬ直流のエネルギー。速度も突き抜ければ七面倒くさい思索を超えてユーフォリィさえ生む。
—折に触れて聴いてきた、近藤等則という不世出のアーティストへの筆者の感慨である。

日常まわりを題材にしたかったるい創作物が巷に溢れかえるころにはもう、近藤等則の関心は大自然に移行しており、組んずほぐれつの対象は人間社会にはなかった。地球とのヴァイブレーション。「世間」という言葉が、近藤を前にするとかくも狭量に響いたものだ。『地球を吹く』シリーズが始まって早四半世紀。生まれ落ちた瞬間からヴァーチャル・コミュニケーションが自明な世代には考えられないだろうが、20世紀には海の向こうはまだまだ遠かった。肌で体感しないとわからない。IMAバンドは1980年代から欧米をはじめ世界各地を行脚した。『地球を吹く』は、バンドの解散と入れ替わるように始動したのだ。時は流れ、20年あまり暮らしたアムステルダムから川崎へ拠点を移し、古希を迎えた近藤はIMAを復活。さてアルバム発売記念ライヴを敢行、の矢先に日本を襲ったのが2019年10月12日の台風19号だったのである。

セットリストは急遽すべて変更、本作は同月29日に執り行われたその緊急ライヴの実況である。

身体をそのままエレクトリックな回路と化して大自然とコネクトしてきた近藤等則にとって、台風の猛威は自らの痛み以外何ものでもなかったろう。同時に怒り。欲望にまみれて地球のうえに胡坐をかいてきた人間への痛烈な批判は、冒頭の”Breathe with Earth”のなか、「人災」というあからさまな単語で突きつけられる。全編が近藤のキャリアの体現ともいえるフリー・インプロヴィゼーションだが、バンドのタフな持久力はさすが。毒気たっぷりのノイズをも巻き込んだタイトかつ緻密なサウンド。高い演奏能力が、獰猛さをしなやかに加速させる。全体として巨大な竜が立ち昇るかのような統一感があるのに、プレイヤーの個々の顔が見える。抜けと攻めが絶妙にうねりつつも終曲にむけて徐々に天上的な開放へと向かうさまから、自然への感応と畏怖が皮膚感覚で伝わる。どこか無常観をも漂わせる残響とともに突きささるのは、近藤のヴォイスだ。飾り気のない言葉の数々は、嘘がないからこそ、痛い。「鍵閉めたって防げるもんじゃない」(track.3 ”Sweet Whisper”)というフレーズなど、まさか21世紀にもなって世界的な疫病の蔓延に急襲されている我々の、あまりにも悲痛な「今」を抉る。

警鐘となりえる芸術は、今どれほどあるのだろう。相も変わらず、商業主義の上に乗った現状を照らしただけの、描写的なものが幅を利かせているのではないか。近藤等則の音楽は、いつも根治的で潔い。直に病巣に斬り込む。何が急務なのかは、今の地球の悲鳴を聴けば明らかだろう。

“Love the Earth”をテーマとした未発表音源も含む6枚が同時にリリースされている。
http://www.toshinorikondo.com/
(*文中敬称略)


<関連リンク>
http://tkrecordings.com/

https://yamakihideo.com/
https://hal-oh.com/hal-oh/
http://guitarist-no-gyakusyuu.blogspot.com/
https://kakuei-world.com/

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学教育学部卒業。欧州に長期居住し(ポルトガル・ドイツ・イタリア)各地の音楽シーンに親しむ。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評(月刊誌/Web媒体)、演奏会プログラムやライナーノーツの執筆・翻訳など多数。ギャラリスト。拠点は東京都。

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