#1983 『Ross Hammond, Oliver Lake, Mike Pride / Our Place On The Wheel』

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Text by Takeshi Goda 剛田武

Prescott Recordings  DL/CD-R

Ross Hammond – Steel Guitar
Oliver Lake – Alto Saxophone
Mike Pride – Drums, Percussion

1. Low Rent
2. Mosaic
3. Use Them Wisely
4. We’re Well Into The Fall
5. Time As A Gift
6. Our Place On The Wheel
7. Blue and Pixelated
8. Gratitude

Recorded and Mixed by Ryan Streber at Oktaven in Mount Vernon, NY.
Mastered by Andrew Weathers in Littlefield, TX.

Ross Hammond Official Website

サブスク時代に輝く三密トリオのブルース魂。

コロナウィルス予防対策で在宅していて暇なので部屋の片づけをしていると、昔買ったレコードを掘り出してついつい聴いてしまう。40年近く前高校時代に初めて買ったフリージャズ系レコード、ヒューマン・アーツ・アンサンブル『アンダー・ザ・サン』の中心メンバーでアルトサックス奏者のオリヴァー・レイクは、筆者のアヴァンギャルド衝動のきっかけの一人として常に意識してきた。77歳の現在も精力的に活動するレイクのレコードはたくさん持っているが、中には買って以来ほとんど聴いていない作品もある。この機会に彼のレコードをターンテーブルに乗せ、ときに破天荒にときに理知的にときに甘くしみるアルトの響きに浸りながら、レイクの最新レコーディングを調べていて出会ったのが『車輪の上の我らの場所(Our Place On The Wheel)』と名付けられたこのアルバム。

ロシア構成主義を思わせるポストモダンなアートワークに反して、聴こえてきたのは土の香りがする哀愁のメロディと埃っぽいドラムのフィルインと風に漂うスティール・ギターの響き。レイクのサックスは咽び泣くように夢の中のノスタルジーを歌う。ここにあるのはアメリカ合衆国の音楽的ルーツのひとつであるブルースの魂である。オリヴァー・レイクは最新リーダー作『Right Up On』(2017)リリース時のインタビューで以下のように語っている。

“私の音楽のすべてに通じるもの、それはブルースだと思う。私のサックスから発せられる音は、弦楽四重奏であろうと、サックス・カルテットであろうと、(現在のバンドの)トリオ3であろうと、ソロであろうと、全てにブルースのラインが通っているんだ。”
from Bandcamp Daily : Oliver Lake on Black Artistry, How His Artists’ Group Changed New York’s Loft Scene – By Seth Colter Walls · May 17, 2017

この発言を裏付けるように、本作で聴けるレイクのプレイは極めて自然に溢れ出る自由な音楽の喜びを謳歌している。その喜びの場を提供したのが本作のリーダーであるギタリストのロス・ハモンドである。以前からジャズの楽器編成によるブルース作品を構想していたハモンドが、2019年春に旧知の仲のニューヨークのドラマー、マイク・プライドとの雑談にヒントを得て、10年前から折に触れ共演してきたレイクに声をかけて実現に至った。NYのスタジオで、すべてワンテイクで、録り直しもオーヴァーダブもなし、1時間半でレコーディング。三人のミュージシャンが、密閉されたスタジオで、体を寄せ合い密集して、濃厚かつ密接な音の交感により生み出した生々しいブルース魂が宿った音楽ドキュメンタリーである。

 

ロス・ハモンドは1977年8月10日ケンタッキー州レキシントン生まれの42歳。10歳の時カリフォルニア州サクラメントに引っ越し、母親からプレゼントされたギターを弾き始めた。高校時代にバンドを結成し、大学時代にジャズに興味を持ち即興演奏を開始。サクラメントをベースに2003年からライヴ/レコーディング活動を行う。ジャズ、フォーク、ブルース、スピリチュアル、ワールド・ミュージックなど幅広い分野で、様々なバンド、セッション、ソロで演奏している。

ユニークなのは、ギターによるフィールド・レコーディングである。アメリカの民俗音楽収集で40~60年代フォーク・ブームに大きな影響を及ぼしたアラン・ローマックスにヒントを得た「Acoustic Sanctuary Project」では、空港、森、海岸、庭、橋梁など様々な場所を訪れてアコースティック・ギター演奏を録音し、配信アルバムとして毎月連続リリースしている。2016年の来日ツアーでコンサートの合間に撮影した日本の風景のビデオにギター演奏を重ねた音楽映像作品『Japan』を制作した。

また現在のコロナ禍の自粛期間には、各地のミュージシャンとのオンラインによるコラボレーションを積極的に行い、3月下旬~4月末現在で9作もの新作コラボ作品をリリースしている。彼のbandcampには80点近い作品がラインアップされており、年間20ドルのサブスクリプションですべての作品を聴くことが出来る。まさにサブスク時代のアーティストのひとつの在り方を象徴しているロス・ハモンドだが、それだけに『Our Place On The Wheel』のフィジカルな制作過程による人間味のあるノスタルジーがいっそう輝きを増すように思われる。(2020年4月30日記)

 

剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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