#1976 『狩俣道夫/No Umbrella, No Tonguing, If Not For the Room -Unaccompanied Flute Solo-』
EXJP020
狩俣道夫 Karimata Michio (flute)
<tracks>
1. Rain #1
2. Rain #2
3. Rain #3
4. Rain #4
5. God Bless the Child (Arthur Herzog)
6. Umbrella #1
7. Umbrella #2
8. On the Blue Corner of the Room
9. Habu No Minato #1 波浮の港#1 (Shinpei Nakayama)
10. Habu No Minato #2 波浮の港#2 (Shinpei Nakayama)
11. Umbrella #3
Total Time:45:02
Recorded at OTO lab, 2015
Recording Engineer: Ishikura Natsuki
Mixing Engineer: Kondo Hideaki
Photograph: Arakawa Masatsugu, Shizugami Kenji
Jacket Model: Tanaka Aya
Directed by Karimata Michio
Produced by Kondo Hideaki
蔓延する自粛ムードのなか、生活の中から明らかに音数が減った。空気がそのまま届くような静謐さがある。近ごろ毎朝聴いているのが、4年前に発売された狩俣道夫のフルート・ソロだ。東京を中心としたアンダーグラウンド・シーンで、年間100回ものライヴをこなす狩俣だが、その存在感も寂としながらかなり強烈だ。どんな場にも独特の佇まいを与えてしまう。
本作は雨をテーマとしながら、心の赴くまま即興を重ねたソロ11編。途中、日本とアメリカのスタンダードや歌謡が顔を覗かせる。耳を澄ませば、「言葉をフレーズ、リズム、吹きかた、感情表現等に置き換えて」というジャケットに添えられた本人の言葉が、それ以上でもそれ以下でもない直截さですとんと腑に落ちる。抒情的な言葉を後付けで述べるのは簡単だが、それを拒む。柔和だがなかなか強靭な自律性。瑞々しい音色、空気の摩擦、漏れ出る肉声や吐息。それらが瞬間の煌めきとしてはじけ飛び、滞空し、同一線上の軌跡となる。その事実が嫌味なくうつくしい。一挙手一頭足にフォーカスするかのような録音には、リアリズム的な視線を感じる。「流す」のではなく「向き合う」音楽の在り方をさりげなく照らしつづける。
過剰なノイズにまみれた現代の都市生活と隣り合わせに存在しながら、ぽっかりと浮かぶ独立した異世界。その貴重さを、ありがたみを、今こそ噛みしめている。(*文中敬称略)
<関連リンク>
http://bishop-records.org/musicians/musicians_KMichio.html