#1974 『須川崇志 Banksia Trio/Time Remembered (with 林 正樹、石若 駿)』

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Text by Hideo Kanno 神野秀雄

Takashi Sugawa Bankshia Trio / Time Remembered
須川崇志バンクシア・トリオ/Time Remembered
須川崇志 Takashi Sugawa: bass
林 正樹 Masaki Hayashi: piano
石若 駿 Shun Ishiwaka: drums

1. Time Remembered (Bill Evans)
2. Yoko no Waltz (Shun Ishiwaka)
3. Nigella (Masaki Hayashi)
4. Banksia (Takashi Sugawa)
5. Under the Spell (Takashi Sugawa)
6. Lamento (Takashi Sugawa)
7. Largo Luciano (Takashi Sugawa)
8. Yoshi (Takashi Sugawa)
2019年7月31日 サウンド・シティ世田谷スタジオで録音
録音・ミキシングエンジニア 塩田哲嗣 Nori Shiota
マスタリング: Gene Paul (G & J Audio)
プロデュース:平野暁臣 Akiomi Hirano
レーベル・ディレクター:行 達也 Yuki Tatsuya
アート・ディレクション&デザイン:栗崎 洋 Hiroshi Kurisaki
Days of Delight DOD-005 2020年1月15日発売

須川崇志林 正樹石若 駿の名前を並べただけで、説明不要、どれだけ素晴らしい音が聴こえてくるかわかろうというもの。いや、どこにでも行ける3人なので完成品の想像がつかないとも。このトリオは、2018年から老舗ジャズクラブ「南青山ボディ&ソウル」を拠点に演奏を始めた。筆者もライヴで聴くことをずっと楽しみにしながら何かと都合が付かないでいるうちに、ボディ&ソウル、そして世界中のジャズクラブが閉まってしまう事態に。だからアルバムが初めての体験となる。

須川は1982年、群馬県生まれ。2006年にバークリー音楽大学を卒業。ニューヨークで菊地雅章に出会い大きく影響を受ける。2009年に帰国後は、辛島文雄、日野皓正らのグループに在籍、現在は石若駿トリオのベーシストでもある。林は1978年、東京生まれ、慶應義塾大学在学中の南米ツアー参加からキャリアを始め、渡辺貞夫、菊地成孔、小野リサ、椎名林檎、亀田誠治らに重用されながら、ソロ、劇伴、「間を奏でる」などさまざまな共演プロジェクトでオリジナリティに溢れた活動を続ける。石若は1994年、北海道出身で、14歳で日野皓正グループに参加、東京藝術大学に学び、ジャンルを超えて今最も多忙で影響力を持つ気鋭のドラマーであり、「Answer to Remember」、「Songbook」をはじめさまざまなプロジェクトをプロデュースし、参加CDは100枚を超える。3人とも固まったスタイルを持たず、プロジェクトにより、共演者により自在に演奏することができるのが共通している。

1曲目を除きすべて録音当日に持ち寄った新曲、いくつかは前日から当日に書かれたというから新鮮さにも程がある。作曲力に優れた3人の曲の完成度の高さはもちろんだが、フレーズやハーモニーを云々する以前に3人の繊細で、ときにモノクロで、ときにカラフルな音色とその変化に惹かれ、それだけですら音楽が成立するようだ。そして3人の特別に自由で精密なタイム感を持ってして、変幻自在なグルーヴと美しさが生まれている。須川の師、菊地雅章が常々「自分のVoiceを持て」と言ったという。まさに3人が明確なVoiceを確立しているからできたのがこのアルバムだろう。この点では、須川のファーストアルバム『Outgrowing』も音色の絡み合いが素晴らしく、そこからさらに曲の魅力で推し進めている。

実は、平野暁臣(空間メディアプロデューサー/岡本太郎記念館館長)が創設したばかりの「Days of Delight」レーベルからときいてちょっと驚いた。土岐英史、峰厚介、鈴木良雄ら日本の巨匠ミュージシャンを再定義するようなこれまでの路線と違うように思われたからだ。他方、あの街のあの館長が200m先のジャズクラブに足を運ぶという妙なリアリティもちょっと嬉しい。

ここで注目したいのはその音質で、このメンツ、コンセプトであれば高音が抜け透明で浮遊感のある音に持って行きたくなるが、中域を厚めに穏やかな空気感を重視しているようだ。切れ味というよりも穏やかな安らぎがある。最初物足りなさも感じたが、耳に優しく、慣れてくると3人の繊細な音色の変化がリアルに立体的に伝わる。ベーシストでもある塩田哲嗣が録音とミキシングを担当しており、JAZZ TOKYOでは及川公生が、『Days of Delight Quintet / 1969』についての録音評を書いたのも参照されたい。また平野の1970年代から現代までの視野と経験、プロデュースの賜物ではと推測した。

COVID-19との困難な闘いの中、南青山ボディ&ソウルでこのトリオを観ることができる日を楽しみにと考えると頑張れる、そんな気にさせてくれる不思議なエネルギーを持った魅力あるアルバムが生まれた。

Takashi Sugawa, Leo Genovese, Tom Rainey “Outgrowing”

林 正樹 「素(す)」 50音シリーズ第8番

石若 駿 Answer to Remember 『TOKYO featuring ermhoi』 MV

神野秀雄

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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