#1989 『Interactive Reflex』
Text by 齊藤聡 Akira Saito
極音舎 GO-11
柳川芳命 (as)
臼井康浩 (el-g)
マツダカズヒコ (el-g)
河合渉 (el-g)
小林雅典 (el-g)
宮部らぐの (el-g)
1. Duo with Usui Yasuhiro (Jan. 5 2020 / 名古屋・海月の詩)
2. Duo with Matsuda Kazuhiko (Jul. 24 2019 / 名古屋・バレンタインドライブ)
3. Duo with Kawai Wataru (Aug. 12 2019 / 岐阜・キングビスケット)
4. Duo with Kobayashi Masanori (Sep. 7 2019 / 名古屋・スキヴィアス)
5. Duo with Miyabe Ragno (Oct. 27 2019 / 近江八幡・酒游館)
Mastering: NIO
Jacket photographs: NANA (Facebook: Nanae Nakayama、Instagram: nanae_photographer)
Production: GOKUONSYA (極音舎)
アルトサックスの柳川芳命が、かれと同様に東海地方を中心とした音楽活動を展開している5人のギタリストとのデュオ演奏を行った記録である。
臼井康浩は揺れ動き減衰を制御する。ここに別の力としてアルトが加わるのだが、ふたりの内的な遡行のタイムスケールは異なる。3分半頃からのアルトの撥音と繰り返されるギターの逸脱との出会いは櫛の歯が噛み合うようだ。液体のように拡散するアルトと金属的な響きをもたらすギターとの対照も際立っている。
マツダカズヒコの音は事件である。発せられるたびにどこからか差し込み乱反射する光を幻視する。アルトはときに鳥がついばむようにしてギターの響きに介入し、乱反射に手を貸している。このデュオにおいてギターとアルトの力のバランスは変わり続ける。ギターが大伽藍を構築し、アルトが押しつぶされもせず吹く時間などスリリングだ。
河合渉のもたらす狭い領域内の響きは、なにか覚悟を決めたような欲情を感じさせる。それに呼応してアルトも敢えて情を放出しているように聴こえる。反響する空間はそのために作り出されているようだ。その中でなにものかの到来を待つ怖さがあるのだが、かれらは情の陥穽にやすやすと落ちてしまうことはしない。アルトのブロウは死を眼前にしたダンスのようであり、ギターもまたその共犯者として音を出している。
小林雅典の音は虹のような彩りを提示している。真下への深さも奇妙な明るさもある。その音の拡がりを意識してか、アルトも外部に拡がっているのかと思える。ふたりとも音自体は比較的なめらかではあり、サウンドのおもしろさは、それらの音が空気に触れる際の化学変化である。
宮部らぐのはそれまでの4人とは対照的に、棘を身体から逆立てて周囲との間合いを図っているようだ。かれのエンジンは空中のどこでも方向を変え、危険な者として上下左右へと飛行する。アルトはギターとともに飛行せず、同じ場所から四方にブロウする。棘の刺激と音波の三次元的な変化の結果として、聴く者にハレーションを感じさせる。
それぞれ十数分の即興演奏であり、各ギタリストのまったく異なるおもしろさが伝わってくる作品である。多くの者が口にしているように、柳川のアルトには静かに構えて底知れぬ迫力がある。そのアルトがギターの違いを受けて呼応するありようにも注目すべきだ。
(文中敬称略)