#1994 『ミヤタトモコ/大きな海の中をゆく私たち』

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text by Takashi Tannaka 淡中隆史

Tsumugi Music TMGC-2020 ¥2800+tax

ミヤタトモコ(歌)
藤本一馬(ギター)
渥美幸裕(ギター)
仙道さおり(パーカッション)
ゲスト:
前山真吾(三味線・歌)

01 Let Me…
02 In the Blank
03 あなたの笑顔
04 例えば
05 よいすら節(奄美シマ唄)
06 忘却の日々
07 咲かない花
08 通りゃんせ(わらべ歌)
09 きざみすとのうた
10 こきりこ節(富山民謡)
11 こんなにも
12 すべてはおなじこと

録音:
2019年4月8日~11日 セントラル楽器・奄美大島
2019年6月1日~3日 Bang on Studio 代官山・東京

録音エンジニア:高崎優希 (AIRE)
ボーカル録音:喜多野清樹 (Bang On Recordings)
2020年3月~4月
ミックス:菊地健太郎 (KK Studio)
マスタリング:橋本陽英(オーブライト マスタリング スタジオ)


「大きな海の中をゆく私たち」はJ-Popの体裁をとっているようでいて、ほんとうは不可思議な音楽だ。きこえてくるのはまるで外国の少女が書いたシュールな日本語のようなうた。奇妙なほどに自分に正直、それでいて「わたし」を超えたことばが連なっていく。ときとして、溢れだすことばと音楽とがゴツゴツぶつかりあう。でも考え方の背筋がきちんと伸びているから何をいいたいのかがすぐにわかる。見せびらかしの達観でない生身の真実が伝わってくる。
はじめて聴いたときは、「ことば」があまりにわかりやすいのにおどろいた。
「でも、そこがいいんだ」
と遅まきながら、いまのトモコさんのほんとうのメッセージが心に響いてきたのは、2020年が明けて、奄美大島から送られてきた音源をミックス、マスタリングしたときだった。
つくづく不思議な音楽だ。
「自分と自分の大切な人の身に起こったことをきっかけに」、「2016年に住み慣れたニューヨークを離れ、2017年に奄美という場所に出会い、暮らし始めるまで」、「その旅の途中で感じたこと、こぼれてきた歌がこのアルバムに詰まっています」(ミヤタトモコ)。アルバムのコメントにはさらに「生と死について」となんだか重たいがことばまで添えてある。

トモコさんが2016年に帰国、奄美大島に暮らすようになったことは知っていたけれど、なぜ、急転直下の「島ぐらし」なのかわからなかった。愛知県春日井市にはじまり〜ロスアンジェルス〜ニューヨーク〜愛知県〜奄美大島と住まいを移していく。「旅」を重ねるごとに彼女の言語も変容していく。音楽もJ-Popから〜ジャズ〜ポルトガル語のブラジル音楽、英語のSSW〜日本語のSSWと、なんだか大きくまるっと弧を描くように循環してふたたび日本語の世界にかえっていく。それを見ているうちに13年がたった。
ミヤタトモコとはじめて出会ったのは2009年の2月NYイーストヴィレッジ、アヴェニューA のクラブ「Drom」だった。(今もやっているようです)まだ、彼女がNYで証券会社でのキャリアを順調に歩みながらライブを行っていころのこと。
きっかけはその前年、ビルボード東京、ダイアン・リーヴスのライブで来日していたブラジル人のギタリスト、ホメロ・ルバンボと会ったとき。一緒にあたためてきたホメロのギター・ソロ アルバムのプランを話しあっていたときのことだ。いきなり「そうだオレのアルバムもいいけど、まずトモコとのデュオをつくってみようよ」と言いながらきかせてくれたのが  ”Tomoko Miyata with Romero Lubanbo” というデモ音源だった。なんだかすばらしい英語とポルトガル語のボーカルとギターのデュエットが聴こえてくる。「これってにほんじん?」
ホメロがルシアーナ・ソウザとやっているデュオとも似ているけれど、もっとあたたかい、生身の声がひびいていた。
「あのー、今日はあなたのソロ・アルバムの打ち合わせに来たんですけど、はなし始めてもう一年もたってるんですよ」
と言いながらも、その「Tomoko Miyata」なる人が気になって気になって仕方がない。
とうとう半年後にNYに行くときに後輩の成田佳洋さんをさそって「Drom」に二人のライブを聴きに行くことにした。
あまりに感動したのでその後に苦心惨憺、翌年「シークレット・オブ・ライフ」”Secret of Life” (2010 B.J.L)、次いで「ビギン・エニウェア」”Bigin Anywhere” (2011 B.J.L NRT)の2枚のアルバムをNYで作ることになった。ホメロを中心にして、ギル・ゴールドスタイン(P, Acc.)、セザル・カマルゴ・マリアーノ(p)、エリオ・アルヴェス(p)、シロ・バチスタ(Perc)、ミノ・シネル(Perc)、スコット・コリー(B)などが参加。まだ、この時は英語とポルトガル語で歌う「ブラジル音楽と英語のSSW」とでもいった音楽だ。
いまでも、聴きかえすたび、歌声のひとつひとつのニュアンスにうっとりする。
トモコさんが新しいアルバムを手作りで始めたことを知ったのは2019年の4月のことだ。
そのしばらく後、打ち合わせで奄美からやって来たトモコさんと青山で夕方に会ってライブに行き、一緒に荷物をピックアップして新しいホテルに運ぶ。たったそれだけのために青山〜赤坂〜代々木上原〜新宿〜表参道〜渋谷〜三軒茶屋と次々に電車移動する。駅の構内を歩き、満員の地下鉄を乗り継ぐ。ひとつひとつのラインの乗車時間はみじかいけれど、都内の経験がほとんどないトモコさん、いつもは電車に乗らない私も「東京の人たち毎日、毎晩こうやっているんだ、こんな刺激的な日常ってすごい!」と、もうヘトヘトでした。NYにだってこんなスピード感、スリルはないし、もちろん奄美ではありえない。
次に会ったのは同じ年の冬、まだ「コロナ」が話題にならないときのことだ。だから打ち合わせしたカフェでは大勢のいろんな国のいろんな人たちが楽しそうに語りあい、ことばとことばが入り乱れて響きあっていた。
(2020年6月の)いま考えてみても、もう東京ではしばらくはこんなことは起きないだろうな。地下鉄ともども都会の生活のしかたがなつかしくなる、そんな時が二ヶ月後にやってくるとは誰も思わなかったころだ。
彼女がNY〜奄美へと「旅」をして生活のやり方を変えたことはすべてを先取りしていたのだろうか、とも思いついてしまいます。
その「新しいアルバム」は12曲からできている
01「Let Me…」彼女と共演を重ねているギタリスト藤本一馬のシンプルで素晴らしいオリジナル。英語で歌われる2曲のうちのひとつ。05 「よいすら節」(奄美シマ唄)、08 「通りゃんせ」(わらべ歌)、10「 こきりこ節(富山民謡)の3曲は日本の伝統的なしらべで、「よいすら節」の前山真吾を伴ったアプローチはワールドミュージック的な文脈といえる大きな力がある。そこ、ここから海外に長く住み暮らした人らしい「和のことば」がわき上がっている。トモコさんの「わき上がり方」ではまるでインサイド・アウトのようになっていて、本質的にかえっていくべき地金がうっすらと見える。その見え方までもが美しい。同じ「地金」といっても、よくいる海外生活20なんとか年の中年男が「揖保乃糸ならNYでも買えるけど、茗荷だけはどうにもならね、たすけてくれっ」と困りぬいたり(もってこいってこと?、生鮮植物の密輸はお断りです)、とつぜんスキャリオンとワケギの違いに妙に厳密になる(おんなじだよ、ほとんど)なんていう「味覚的昭和退行現象」派などとワケ違います。トモコさんが幼いときに故郷できこえていた(ような)音楽にふっと還っていくアプリオリな感覚と、一生がかり、ど根性で練りあげる「洗練」とは大いに異なるものだ。ほかの8曲は「こんなにも」の作詞共作をのぞきトモコさんの作品。藤本一馬(G)がオレンジペコー以来のインターナショナルな「邦楽」であれば、渥美幸裕(G)の方はギター一本で現在形の日本の伝統音楽と真剣に果敢に対峙してみせつける、といった面白い作品群だ。仙道さおり(Perc)、前山真吾(三味線、Voc)たちもほぼ近い世代で各々の立ち位置から見事なアレンジと方向づけを施している。J-Pop、ジャズ、ロック、ワールドミュージック、を経ていて伝統音楽に対する考え方が個性的。こんな親密な人たちとの奄美大島での3日間のレコーディングは文字通りトモコさんのこれまでの旅の途中で「こぼれてきた歌」の結晶になった。語り口は優しくても尋常ならざるエネルギー放射がきこえてくる。

トモコさんとのおもいだすたび、笑みがこぼれてくる会話から
「カリフォルニアではじめてルシアーナ・ソウザとホメロのライブを聴いたとき、おどろいて椅子から落っこちそうになった」(2009,NY)
そうでしょう。そこがジャズからの分岐点だったのですかね。その後ブラジルに行き、NYでホメロと共演することになる。

「このビギン・エニウェアってのはジョン・ケージっていう人のことばなんです。何する人か知らないけれど」(2011,NY)
おいおい、そんなこといってていいの?。いつかTomoko MiyataもMayumi Miyataのようにジョン・ケージの音楽を「奏でる」ときだってくるかもしれません。今までの変わり様から考えるに。

「ここの土地に関わろう、なんて思ったのは生まれて初めてです」、「でも、これから先もずうっとここに住もう、とか先の事までは決められないんですね」(2019, 東京)
そうか、なるほど。最近のトモコさんのF.B.で見る写真では奄美の人々との生活、並べられた野菜や魚たちまでが楽しそうです。
でも、だとしたら、たとえば、次のアルバムのときはラップランドに住んでいて、土地の聖霊や音楽との出会いがきっかけになってる、なんてのもありなわけですよね。とんでもなく愉しみなことです。
これから先どんなところにいても、その地の人たちや音楽との出会いが待っているはずですから。




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淡中 隆史

淡中隆史Tannaka Takashi 慶応義塾大学 法学部政治学科卒業。1975年キングレコード株式会社〜(株)ポリスターを経てスペースシャワーミュージック〜2017まで主に邦楽、洋楽の制作を担当、1000枚あまりのリリースにかかわる。2000年以降はジャズ〜ワールドミュージックを中心に菊地雅章、アストル・ピアソラ、ヨーロッパのピアノジャズ・シリーズ、川嶋哲郎、蓮沼フィル、スガダイロー×夢枕獏などを制作。

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