#2002『早坂紗知 226 / バースデイ・ライブ feat. 山下洋輔&森山威男』

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text by Masahiko Yuh 悠 雅彦

NBAGI Records/ボンバ・レコード N-018  ¥2800+tax

早坂紗知 (alto-sax, soprano-sax)
山下洋輔 (piano)
RIO (baritone-sax)
永田利樹 (bass)
森山威男 (drums)

1.マイ・フェイヴォリット・シングス  My Favorite Things
2.キアズマ Chiasma
3.モーニン  Moanin’
4.トーク(おしゃべり)
5.ハッシャバイHushabye

2019年2月26日東京・江古田 Buddyでのライヴ録音
recording engineer: Ryoji Yanagida
mastering engineer: Akihiko Yohsikawa (studio dede)


長らくご無沙汰していた早坂紗知のサックス(アルト&ソプラノ)を久方ぶりに聴いて、その元気溌剌ぶりに思わず喝采の拍手を送ってしまった。これはライヴハウス、”Buddy” での演奏を収録した聴きどころ満載のライヴ演奏だが、彼女および夫妻のいつに変わらぬ溌剌とした演奏に加え、ここでは過去に何度も共演してホットな話題を提供してきた山下洋輔と森山威男の客演を得て、あたかも昔日の勢いを取り戻したかのような、まさに “ホット”なとしか形容の仕様がないような熱演を繰り広げている。率直に言えば、その早坂紗知が今年還暦を迎えたと知って、いっそう感慨深く本作を聴くことになった。またゲスト出演というべきか、あるいは仲のいい友人同士の久々のセッション参加とでも言ったほうがいいのか、山下洋輔と森山威男の参加で会場の熱気が常以上にホットな様相を呈して盛り上がっているさまが演奏にもありありと反映されているせいか、聴くこちらの方も知らず知らずそのノリに乗せられて、まるで会場のBuddy の観客の一員となって演奏にのめりこんでいくという構図になっているところが面白いし、聴きどころでもあった。

さて、率直に申し上げて、かつての両コンビの演奏ぶりとはいささか勝手が違う感じがしてならないところがあるので、何度か聴き直してみた。そこで気がついたのは山下洋輔の演奏が彼らしい傍若無人な外見上の無鉄砲さが後退して、いささかいつになくややおとなしい、遠慮なく言わせてもらえば物分かりのいい演奏スタイルを映し出していたことだ。演奏スタイル自体はこれまで作り上げてきた聴くものを寄せつけない彼ならではの表現性をまとってはいるものの、かつてのようにその演奏が聴くものを心地よく裏切って、その上で結果的に聴くものを納得(感心)させてくれたことからいえば、いささか物足りない印象が拭えなかったということだ。(4)の「Talk」は無論演奏ではなく、セッション・リーダーの早坂紗知がゲストの山下と森山に向けて話を聴き出す形を取っているのだが、心なしか山下の受け答えにもかつての威勢の良さが影をひそめているような気がして一抹の寂しさを感じざるを得ない。もしや病が完全には癒えぬ体調で出演に踏み切ったか、あるいはよほどコンディションが思わしくなかったのではないかと思えていささか心配になった。ちなみに、(4)のトークで森山が70代半ばに近い年齢になったことをさりげなく早坂に答える場面があり、山下洋輔にしても50年(!)にわたって森山や坂田明らとともに独特のフリー・ジャズ・スタイルで一時代を謳歌してきたことを思えば、たとえ調子が落ちているときでも決して弱音を吐かない闘魂ぶりに敬意を表しこそすれ、批判する気などさらさらない。

バースデイ・ライヴにはすでに30年(1990年~)の歴史がある。早坂がこの「226」活動の緒に就いたのは1986年だが、山下洋輔がみずからも応援していた早坂紗知の「226」バンドに初めてゲスト出演したのは、横井一江氏の解説によれば第5回の1990年。この直後からバンドは急速に発展を遂げ、山下が参加した92年の江古田の ”Buddy” でのライヴはドイツの親日プロデューサー、ホルスト・ウェーバーが主宰するenjaレーベルから発売されるなど、数々の優れた足跡を残してきた。本作は昨年2019年に山下洋輔と森山威男をゲストに招いて行われた第33回「226」公演のライヴ。この年はまた山下洋輔トリオの結成50周年にあたるという記念すべき年でもあったことを銘記しておきたい。

早坂のソプラノ演奏によるフリーなソロで始まる「マイ・フェイヴォリット・シングス」。このあと問題の山下のソロとなるが、なぜか観客席のむしろ静かとさえ感じられる反応が、先に私が指摘したことと併せ考えると興味深い。なおこの演奏ではベースの永田利樹とバリトン・サックスのRIOは参加していない。早坂、山下、森山のトリオによる演奏である。

「キアズマ」はむろん山下洋輔の初期のオリジナル。ソロはRIOのバリトン、早坂のソロに続いて山下の爆発的ソロへ。最後に森山のソロが待っているが、往年のあのパワフルな森山と併せ考えるとき何かが変わったような気がするのは私一人だけではないだろう。

このCDの中では最も長尺な「モーニン」。ジャズ・メッセンジャーズ全盛期の同名曲とは同名異曲。こちらはチャーリー・ミンガスの作品。日本ではジャズ・メッセンジャーズの爆発的なヒットゆえ、こちらはほとんど話題にもならなかったが、ミンガス盤 (Atlantic) の演奏も味わい深いもので、作曲家としてのミンガスの奥深さが強く感じられる1曲だった。

RIOの単独ソロに続いて山下と早坂のアルト・ソロが聴かせる。最後に永田利樹と森山威男がソロをとるが、森山が持ち前のパワーとは別の視点で演奏しているところを見ると、山下洋輔ももしかするとアイディアの転換を図ったのかもしれない。それはともかく、還暦を迎えた早坂紗知と、山下洋輔、森山威男のベテランらしい知的なプレイぶりから生まれる和気藹々とした交歓を堪能したライヴならではの1作だった。(2020年7月16日)


♬ 録音評(及川公生)
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悠雅彦

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

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