#2000『アントニオ・アドルフォ/ブルーマ〜ミルトン・ナシメントに捧ぐ』
『Antonio Adolfo / BruMa: Celebrating Milton Nascimento』

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Keiichi Konishi 小西啓一

 “トロピカル・ジャズ・アルバムを2枚ほど…”

『アントニオ・アドルフォ/ブルーマ〜ミルトン・ナシメントに捧ぐ』

Antonio Adolfo – piano
Jesse Sadoc – trumpet, flugelhorn
Marcelo Martins – alto flute, tenor saxophone
Danilo Sinna – alto saxophone
Rafael Rocha – trombone
Claudio Spiewak – electric guitar (1,2,4,6), acoustic guitar (3,4,5,9), percussion (4)
Lula Galvao – guitar (7,8)
Leo Amuedo – guitar (9)
Jorge Helder – double bass
Rafael Barata – drums, percussion
Dada Costa – percussion (1,2,6,7,8)
Andre Vasconcellos – double bass (2)

  1. Fe Cega Faca Amolada
  2. Nada Sera Como Antes
  3. Outubro (October)
  4. Cancao Do Sal (Salt Song)
  5. Encontros E Despedidas
  6. Tres Pontas
  7. Cais
  8. Caxanga
  9. Tristesse

世界的なコロナ禍の中でジャズの世界も色々と大変な状況にあるが、そんな “コロナ禍を吹き飛ばし少しでもジャズで元気に…”ということで、最近の楽園系ジャズ=トロピカル・ジャズ・アルバムから2枚ほど紹介させてもらおう。1枚は編集部からの依頼のブラジリアン・ジャズ、もう1枚はぼく自身のお勧めのラテン・ジャズである。

まずは編集部から廻って来た作品だが、ブラジル・ジャズ・シーンの生き字引とも言うべき大ベテラン・ピアニスト&アレンジャー、アントニオ・アドルフォの『ブルーマ(”霧“)』。サンバ・ジャズからボッサ,そしてショーロ、バイーアなどブラジル各地の民俗音楽のジャズ化まで、まさにブラジル音楽のすべてに通じている名手アドルフォの面目躍如の一枚。彼の数多くのアルバムの幾つかは、このレビューでも以前紹介されていたはずだが、今回の新作は “ブラジルの声(&心)”とも呼ばれる、彼の地の国民的英雄ミルトン・ナシメント集。ウエイン・ショーターやエルネスト・ナザレス(ショーロの元祖)など、様々な作品集をものして来た彼の集大成とも言える意欲作。

ミルトン・ナシメントはジャズ・ファンにもお馴染みの存在で、歌の宝庫=ミナスジェラス州出身の MPB(ブラジルのポピュラー音楽)を代表するシンガー&作曲家。そのメジャー・デビューを導いたのは、なんとあの “CTI” の名プロデューサー故クリード・テイラー(69年)。また彼の名前を世界的にしたのは、ショーターの銘盤『ネイティブ・ダンサー』(CBS/74年)へのゲスト参加だった。さらに94年の『アンジェラス』には、ショーターの他にハービー・ハンコック、ジャック・ディジョネット、パット・メセニーまで、まさにオール・スターズが馳せ参じている。こうしたジャズとも極めて親和性の高いナシメントだけに、その作品集を取り上げるのはブラジリアン・ジャズの代表格の彼にとって、極めて自然な流れ。ちなみにこの2人が初めて出会ったのはデビュー直後の1967年のことだと聞く。

ここではジャヴァンのバック・メンバーとしても知られる、マルセロ・マルティンス(sax/ソロが光る)などのファースト・コールの4管フロント陣に、ギターを加えたリズム隊というレギュラーの面々が中心、総計12名というフル陣容にも意気込みがうかがえる。アドルフォは30数枚を超える彼のアルバムに収録されている、30を超えるオリジナル曲の中から9曲を厳選して奏しており、アルバム完成までには6か月を要したとのこと。曲はどれも色彩感に溢れた、いかにも “ブラジルの声(心)” に相応しいものばかりで、なかでもエリス・レジーナが唄い大ヒットした、記念すべきお披露目ナンバー <塩の歌>(④/66年)が入っているのも嬉しいところ。じつのところ、ぼくはナシメントの良き聴き手では無く、ここでもこの曲と<トレス・ポンタス>(⑥)、<出会いと別れ>(⑤)くらいしか馴染みは無い。この原稿をものするのに反省も多々。

ここで取り上げられているのは、ロナルド・バストス(①②⑥⑦)、フェルナンド・ブランチ(③⑤⑧)という、彼と親しい作詞家とのキャリア初期、75年くらいまでのコンビによるナンバーがメインになっており、ラストの <トレステ(悲しみ)>(02年)が最も新しいもの。ぼくのお気に入りの<トラベシア>、<マリア・マリア>が含まれていないのは大変残念だが、そこはアドルフォの選択なので致し方ないところ。

ここでのモダンでいてミナスの熱い大地の匂いも立ち上る、ナシメントならではの独特な夢幻で魅力的なメロディーの数々が、アドルフォ・ユニットの強靭にして軽やか、バランソ(スイング)感覚に優れた ”奏の宴“ により(アドルフォの巧みなアレンジもプラスされ)、その蠱惑的な香りにまたひと味異なった洗練さと明瞭さを付加している感もある。印象深いのは<塩の歌>と清涼味漂う<アウトブロ(11月)>、サウダージ感溢れる<トレステ> などだが、いずれにせよピアニストとしてのアドルフォの魅力をももう少し…といういささかの不満は残るが、MPBの巨人にスポットを当て、その新たな魅力を引き出したという点でも、ブラジリアン・ジャズの大いなる成果の表れと言えるだろう。


♬ 録音評(及川公生)
https://jazztokyo.org/reviews/kimio-oikawa-reviews/post-54523/


続いてはぼくのお勧めのラテン・ジャズ作品だが…
『赤木リエ/魔法の国の魔法のフルート』

https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-54512/

小西啓一

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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