#2001『赤木りえ/魔法の国の魔法のフルート』

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text by Keiichi Konishi 小西啓一

https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-54508/

(アドルフォの作品から続く)

『赤木りえ/魔法の国の魔法のフルート』

Creole Moon  CRCD-004  ¥2,750(税込)

赤木りえ(フルート)
ラリー・ハーロウ(プロデューサー)
ベレーザ<ガブリエラ・アンダース>(ヴォーカル)
アンドレア・ブラックフェルド(フルート)
カレン・ジョセフ(フルート)
ビル・オコーネル、ヒルベルト“プルーポ”コローン(ピアノ/キーボード)
ルベーン・ロドリゲス、レイ・マルティネス(ベース)
ボビー・サナブリア、ウィリー・マルティネス(ドラムス/ティンバレス)
ルイス・カーン(ヴァイオリン)
ベンジャミン・ラピドゥス(ギター/トレス)
イモ・ルシアーノ、ルイシート・ロサリオ(コーラス)

1.小麦色のお嬢さん(ジャム・セッション)
2.エリザベス・リードの追憶
3.ホワイト・バード(Vocal version)
4.スモーク・リングス・アンド・ワイン
5.シルトス
6.ミザルー
7.カルテーラ
8.SHI WA ZU
~Bonus Track~
9.ホワイト・バード(Flute version)


続いてはぼくのお勧めのラテン・ジャズ作品だが、こちらはトロピカル・フルートの第一人者赤木りえさんの新作。最近でこそ見かけなくなってしまったのだが、かつてはジャズ・プレーヤー人気投票などというものが『スイング・ジャーナル』などのジャズ誌で実施され、プレーヤー達もファンもまた結構その結果に一喜一憂したりしていた。楽器別のその人気投票の中には、ピアノやサックスと並んで「その他の楽器」という部門があり、これはアコーディオン、ヴァイオリン、ハーモニカ等々、いわゆる余り日の当たらない弱小ジャズ楽器(?)がひとまとめにされていたのだが、ここから独立して一部門を形成したのがフルートだった。これには<カミン・ホーム・ベイビー> などの大ヒットを飛ばした、あのハービー・マンの存在も大きくものを言っていたはずで、その後もヒューバート・ローズなど多くの資質が、この楽器の人気を支えて来た。しかし近年はこのフルート、どうも人材もあまりパッとしないし、全体に低迷感も強く、今ふたたび「楽器別人気投票」などが実施されたら、「その他の楽器」部門に格下げされてしまうのでは…とも危惧されるほどなのだ。

ジャズの世界ではそんな斜陽感をかこつフルートだが、今でもこの楽器がシーンの中心に君臨、それを手にする人材も豊富だという音楽ジャンルもある。それがトロピカル音楽=ラテン・ジャズ&サルサといった楽園系音楽の世界。ここではフルート・サミットといった感じの多人数セッションなども盛んだし、なにせ全般に元気なのである。そんなトロピカル(カリビアン)・フルートの我が国での第一人者とも言えるのが赤木りえさんで、その10数枚目になる新作が今回登場した。『魔法の国の魔法のフルート(ラ・フルータ・マジカ)』。

彼女は東京芸大のフルート科卒業という才媛だが、どういう訳かこの道に迷い込んでしまい、すでに10数枚のアルバムを発表しているベテランでもある。彼女はカリブ海の島国で、ラテン・ジャズ=サルサの一拠点でもあるプエルトリコの親善大使も務め、同国では日本以上の有名人にしてアイドルだとも聞く。それだけにこれまでの諸作は、この国のミュージシャンとの共演等が多かったのだが、今回の新作はラテン・ジャズ=サルサのもう一つの拠点、本場NYに乗り込んでのもので、彼女の本気度が如実に表れた意欲作でもある。プロデュース役を買って出たのはNYラテンの大看板、ラリー・ハーロー。その大ボスは、優雅な雰囲気を漂わせるカリビアン・レディーの彼女(実際じつにチャーミングなお方です!)をいたく気に入ったようで、その号令一下ルベーン・ロドリゲス、レイ・マルティネス、ルイス・カーン、ボビー・サナブリア等々、NYラテンの超一流が集い、彼女を熱くバック・アップしている。

アルバムはカリビアン・フルート奏者数名による、蠱惑的かつ熱情的なチャランガ・ジャム・セッション<小麦色のお嬢さん>(彼女の師匠、故リチャード・エルグスの作品)に始まり、サザン・ロックの中心格オールマン・ブラザーズ・バンドの <エリザベス・リードの追悼>、フラワー・ムーブメント時代の象徴、イッツ・ア・ビューティフル・デイの <ホワイト・バード>といった、懐かしのロック名曲のトロピカル化という初の挑戦的試み、サーフィン・ホット・ロッドの定番 <ミザル―>(映画『パルプ・フィクション』挿入曲)や <シリトス> などといったギリシャ、中近東ムードも漂うナンバー、さらには自身のオリジナル <シ・ワ・ズ> のセルフ・カバーやラリーがヒットさせた <カルテ―ラ> などの王道ナンバーまで、そのレパートリーも多様にして多彩。強烈な NYラテンのリズム陣をバックにした、彼女の卓抜なフルート技(数本の楽器を使い分ける)はけだし聞きものだし、ある場面ではラテン・ジャズの世界を超えた無国籍ムードすら漂い、そこがまた興味深く面白いところ。その新境地も高く評価したい。

彼女自身もこのアルバムは “私の成長の証し、大きな音楽の分岐点…。神のような存在の、ラリー・ハーローのプロデュースなんて夢みたい。まるで小説の中にいる感じです…” とも語っているが、まさにその通り。Jラテン・ジャズの素晴らしさを充分に感じられるこの素敵なアルバム。そのスリリングなドライブ感、充分に愉しませてもらいました。皆様もこのコロナ禍、このアルバムで元気をもらいたいものです。

小西啓一

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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