#2008 『マキガミサンタチ / ガブリとゾロリ』
Text by 剛田武 Takeshi Goda
CD: Makigami Records MKR0015
MAKIGAMISANTACHI :
MAKIGAMI cornet, theremin, koukin, piano, overtone flute, voice
FREEMAN guitar, sampler, toys
SAKAIDE bass, electronics, toys
1 水枕
2 ガブリ
3 ごんごんと
4 梅雨のトンネル
5 夜の蠅
6 うつくしき眼
7 からたちの雨
8 とかげが光る
9 かぼちやの花
10 棒立ちの銀河
11 牛の全身
12 虹に踏まれて
13 かくなる上は
14 独特であること
15 ザリガニの論法
16 蜜柑のみどり
17 隠そうとして
18 フクロウの引っ越し
19 水晶は歌う
20 羊から錆
21 ゾロリ
Gaburi 1 to 12 from Yokohama Airegin 2016.5.5 recording
Zorori 13 to 21 from Daikanyama UNIT 2016.1.24 recording
Produced by MAKIGAMI KOICHI
Mastered SAKAIDE MASAMI
Illustration : ISONO YOKO
Art Direction & Design : OUCHI TOMONARI
Special thanks : MAKIGAMI AYAKO
多面体ロックバンド、ヒカシューから生まれた迷宮トリオの全脳音楽。
昨年デビュー40周年を迎え、新たなディケイドに向けて意気揚々と2020年に突入したヒカシューだが、3月の初のエストニア公演に於いて、新型コロナウィルス感染拡大の為に公演中止の憂き目にあった。結果的には緊急事態宣言発出の前日だったお陰でコンサートは1回だけ開催できたが、翌日封鎖された都市からは人影が消え、帰国予定の航空会社が全フライトをキャンセルしたため、急遽別の航空会社の便を手配して日本へ帰ることが出来たという。誰もいないタリン港で撮影したPVが公開されている。
エストニアでの出来事と、それに続く日本の緊急事態宣言に伴う公演自粛は大きな障壁ではあったが、3か月後の6月11日に吉祥寺Star Pine’s Cafeでの定期公演「マンスリーヒカシュー」を配信のみで再開し、7月以降は有観客&配信で開催、併せて各メンバーの演奏活動も再開している。9月16日~20日には、昨年終了の危機を何とか乗り越えた<Jazz Artせんがわ2020>の開催も決定。まるでコロナ禍の壁に穴を穿ち突き崩そうとするように、ヒカシュー&巻上公一の信念がライヴハウス受難の時代を救おうとしている。
エストニアのスタジオで録音した音源を含む秋発売予定のヒカシューのニュー・アルバムに先立ち、7月にリリースされたのがヒカシュー内トリオ、マキガミサンタチの15年ぶりの新作である。ライヴMCでは「謎のグループ」と呼ばれるこのトリオのメンバーが、巻上公一、三田超人、坂出雅海の三人であることは公然の秘密。童話絵本風イラスト・ジャケットや、遊び心のあるグループ名とアルバム・タイトルの印象から、なごみ系のユルい演奏を想像するが、内容は意外にも真剣勝負の即興演奏(もちろん持ち前のユーモアは感じられるが)である。特に1978年のヒカシュー結成以来のパートナーの巻上と三田は、ステージでの歯に衣着せないトークや漫才めいたやり取りから想像される幼馴染のような関係を考えると、ここで聴けるシリアスな演奏態度は「親しき仲にも礼儀あり」という諺を思い出させる。
前半1~12が2016年5月横浜エアジン、後半13~21が同年12月代官山UNITでのライヴ録音。いずれも1~5分の短い曲想がリレー形式で連続して演奏されており、メンバーが交代でテーマとなるフレーズを提示しているように聴こえる。50年近い歴史のあるジャズ専門ライヴハウスのエアジンではピアノ、コルネット、ギター、ベースをメインとしたアコースティック感覚の演奏。一方2004年オープンのクラブ仕様のライヴスペースUNITでは、テルミンやサンプラー、エレクトロニクスを多用した空間的なアンビエント演奏。会場の特性によって演奏スタイルを変化させるのが”生命ある即興演奏”の証しである。
ヒカシューという特異なバンドで長年活動を共にする三人が、バンドを離れたひとりのミュージシャンとして素顔で対峙するマキガミサンタチのイマジネーション豊かな音楽は、聴き手の音楽脳(右脳)をやさしくマッサージする。その一方で楽曲タイトルのシュールな言葉遊びが、言語脳(左脳)のシナプスを震わせる。左右の脳のバイブレーションが共鳴して生まれる刺激の波が、聴き手の感情に新たなさざ波を起こす。それこそ彼らが言うオンガクのヨロコビである。(2020年9月4日記)