#2011 『Sainkho Namtchylak, Ned Rothenberg, Dieb13 / Antiphonen』

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text by Kazue Yokoi  横井一江

Klang Galerie  gg339

Sainkho Namtchylak (voice)
Ned Rothenberg (cl, as shakuhachi)
Dieb13 (turntables, klopfer)

1. Shave and a Haircut
2. Two Bits

Recorded Live at Music Unlimited #33, Alter Schlachthof, Wels, Austria, November 8, 2019


毎年異なったキュレーターによるプログラミングで開催されることで知られるオーストリア、ヴェルスのフェスティヴァル、ミュージック・アンリミテッド、昨2019年のキュレーターは内橋和久だった。そのステージのひとつ、サインホ ・ナムチュラク、ネッド・ローゼンバーグ、Dieb 13によるセットがCD化された。

ロシアのトゥヴァ共和国出身のサインホ ・ナムチュラクは、ホーメイを始めとする伝統的な唱法を駆使しつつ、独自に培った手法も含めて繰り広げるヴォイス・パフォーマンスで知られる。また、ネッド・ローゼンバーグは、サックスでは特殊奏法を駆使し、また尺八なども吹き、彼自身の音世界を築いてきた。この2人は1990年代半ばから度々共演を重ねている。2018年には中国での仕事の帰りに立ち寄った東京で、内橋も含めて演奏が行われている。ヴェルスでは、サインホ とネッド・ローゼンバーグにターンテーブルのDieb 13(ディーター・コヴァチッチ)が加わった3人による初共演となった。

写真を見るとサインホ は頭部をすっぽりとストッキングのようなもので被った姿でステージに上がっていたようだ。だが、声はCDを聴く限り、それによる影響は受けていない。サインホ はエヴァン・パーカーや姜泰煥も含めた多くのサックス奏者と共演してきたが、ネッド・ローゼンバーグとは相性がいいといえる。おそらく彼のリズムに対する感受性がサインホの声による表現と上手くマッチするのだろう。伝統的唱法を発展させた発声から呟きのような声まで、あらゆる声による表現を駆使し千変万化するサインホのヴォイス 、循環奏法とマルチフォニックスを駆使しつつも、ブルージーな楽音や尺八も交えるローゼンバーグ、そこにDieb 13がノイズやサウンドをレイヤーのように重ねることで、音宇宙が広がった。このステージで繰り広げられたのは音による即興無言劇とも言えるかもしれない。そして、サインホ の声による表現の奥深さに改めて感じいったのである。その一方で、声と菅楽器と機器による音表現、異なる3者の取り合わせは今日的な組み合わせであること、そこにさらなる表現の可能性があることにあらためて気がついたのだった。この傑出したパフォーマンスを聴けたことは耳福である。

 

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横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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