#2016 『林栄一 Mazuru Orchestra  / Naadam 2020』

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text by Masahiko Yuh  悠 雅彦

地底レコードB94F  ¥2,500+税

林栄一Mazuru Orchestra;
*林栄一(as, comp, arr)松井宏樹(as)藤原大輔(ts)*吉田隆一(bs)
類家心平(tp)*山田丈造(tp)
*後藤篤(tb)高橋保行(tb)
*石渡明廣(g)石田幹雄(p)*岩見継吾(b)*磯部潤(ds)外山明(ds)
(*:ガトス・ミーティングのメンバー)

1.Naadam(作編曲 :林栄一)
2.Fables of Faubus / フォーバス知事の寓話(作曲:Charles Mingus 編曲:林栄一)
3.組曲(作編曲:林栄一)

Recorded at 新宿Pit Inn、2020.1.11
Recording,  Mixing and Mastering Engineer:近藤祥昭 (GOK Sound)
Produced by 後藤篤 & 林栄一


林栄一の音に触れるのは何年振りだろう。今となっては想像してみるしかないが、個人的には最も関心を寄せていたミュージシャンにもかかわらず、お会いして話をうかがうことはおろか、ライヴ演奏にありつける機会にもめぐまれず、おそらくはかつて地底レコードから発売された1作以来の試聴だったことを思うと、答えを見出せない自分にかつてないもどかしさを覚えずにはいられない。そしていま、再び感動を体験することになって、あらためて林栄一という音楽家の忘れがたい奇妙な?魅力と、人を惹きつけてやまない演奏家・林栄一の高度な音楽性との間を泳ぎまわりながら、私は大きな感激を体験する一方で、他方もどかしいほどのじれったさを覚えずにはいられなかった。すなわち、当方が泡を食うくらい、林栄一の音楽家としてのスケールがかくも豊かに興趣に富むものへと大きな変化を遂げているさまに触れ、彼が決して矜持を失うことなく今日を迎えていることに大きな感銘を受けたことを書き留めておきたい。

それにしても、想像力、表現意欲、演奏能力が音の一粒一粒に凝縮、横溢し、それが歓喜を伴って外へはじき出される瞬間の快感は、それを味わったものには何にも代えがたい喜び以外の何物でもない、と改めてこのことを思い知った。このことを、私は林栄一とその仲間たちの音楽を聴くといやでも痛感させられるのだ。今回も例外ではなかった。そのことをこの度も再び思った。これは音楽を愛する者にとっては何にも代えがたい体験の場であり、他に比肩しえない喜びそのものといって間違いないだろう。

この新作では①林栄一の作編曲作品 ①「Naadam」、彼が愛してやまない故チャールス・ミンガスの代表的オリジナル曲である ②「フェイブルズ・オヴ・フォーバス」、(「フォーバス知事の寓話」の邦題で知られる作品。林栄一らの面々はほかにも、「ベター・ゲット・ヒット・イン・ヨア・ソウル」などミンガスの代表作を演奏している)、そして ③「組曲」と題された林栄一のオリジナル曲、というたった3曲の演奏で構成されている。

メンバーは総勢13人。内訳は、サックス陣が林栄一を含めて4人、ブラス・セクションも4人、ギター、ピアノ、ベースが各1名、ドラムスが2人.このうち林、吉田隆一、山田丈造、後藤篤、石渡明廣、岩見継吾、磯部潤の7人は林が主宰するガトス・ミーティングなるグループの正規メンバー。言い換えれば、林が率いるバンド、ガトス・ミーティングにゲストをプラスして試みたライヴ、ということになる。林によれば、単なるインプロを聴かせるバンドではなく、この演奏で出来上がったのは、<バンド編成のフリー・ジャズ・アルバム>だという。つまりテーマを奏した後はインプロヴァイザーたちの思いおもいのソロの披瀝で綴っていくのではなく、バンド全体がフリー手法の混濁の中で生きる道を見つけ出し、次の段階でバンドを構成する個々の演奏者たちの動きによってサウンドを形成していくというのだ。①では演奏メンバーが臨機応変に対話したり、絡みあったりする中で、2つのアンサンブル・テーマが有機的に各プレイをプッシュする。冒頭のアルトソロ、中ほどのバリトンサックスやギターのソロ、大団円後のドラムソロなども、バンド全体の息遣いを構成する一つの意思表示のように聴こえる。次の「フォーバス知事の寓話」でも冒頭の林栄一のソロ、つぎの石田幹雄や最後のアルトのソロにしても、いわゆるフリー・ジャズのエゴ性からは解放されている。最後の「組曲」。速いワルツ・タイムから展開されるtp、ts、tb、tp、tb、p、ds、as、b、g等のソロが通常のフリー・ジャズ演奏のように聴こえないところがユニーク。たった3曲だが、何と変化に富んだ演奏か。迷路のような暗がりを通って明るい表通りへ。そのつど心が踊る。(2020.8.30)

悠雅彦

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

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