#2028 『Peter Evans Ensemble / Horizons』

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Text by Akira Saito 齊藤聡

More is More Records

https://peterevansmusic.bandcamp.com/album/peter-evans-ensemble-horizons

Peter Evans (tp, piccolo tp, compositions)
Mazz Swift (vln, voice)
Ron Stabinsky (synth)
Levy Lorenzo (perc, electronics)

1. Horizons
2. Aura
3. Caves of the Mind
4. Metempsychosis
5. Passing Through
6. Homo Ludens – for Cecil Taylor (trio version)
7. Interior

All compositions by Peter Evans
Recorded August 17th, 2018 by Jason LaFarge at Seizure’s Palace, Brooklyn NYC
Mixed by Jason LaFarge
Mastered by Weasel Walter
Cover image: Dream Vision by Albrecht Dürer

またピーター・エヴァンスが異色作を発表した。

エヴァンスのトランペット、マッズ・スウィフトのヴァイオリン、ロン・スタビンスキーのシンセサイザー、レヴィ・ロレンツォのパーカッションとエレクトロニクスという極めて変わった編成のカルテットであり、バンドのフロント的な役割をエヴァンスとスウィフトが担っている。トランペットとヴァイオリンがともにもつ艶やかで滑らかな音色を最大限に活かし、曲により異なるヴァリエーションを提示していることが目立つ特徴だろう。ジャズにおいてこのふたつの楽器がフィーチャーされた先例としてウィントン・マルサリスの『Fiddler’s Tale』(Sony、1999年)を挙げることができるが、同じ「精緻」という言葉を使ったとしても本盤とはその質が異なる。言うまでもなくマルサリスの作品は楽理を積み上げたものであり、音楽の文脈が特定の物語に沿っている。本盤はその基盤や形式から創るほど野心的であり、その探求が4人の超人的な演奏技術によってなされたものだ。

冒頭の<Horizons>は、エヴァンスとスウィフトとの揺れ動きいつまでも途切れないユニゾンを軸として、ロレンツォが時間進行を、スタビンスキーが明滅を与える。<Aura>に入り、4人は互いに少し距離を置き、その自由空間においてそれぞれ違うかたちで浮遊してみせる。

ここで、エヴァンスの別バンド「Pulverize the Sound」を思わせる音の断片化を行う<Caves of the Mind>が挿入される。おそらく4人それぞれがフラグメンツを放つ瞬間はただならぬ集中力と加速力によって選ばれており、それらの接近や衝突により音風景が瞬時に変わり続ける展開はエキサイティングである。フラグメンツは次第に細かく多彩なものになってまき散らされてゆく。これが発散だとすれば、続く<Metempsychosis>は収束だ。空中にある多数のフラグメンツがサウンドの中心に吸い寄せられており、その重力はロレンツォのパルスが担っているように聴こえる。

再びユニゾンを多用したアンサンブル演奏<Passing Through>を経て、聴く者は脳の動きを鎮静化させている。だが、<Homo Ludens>においてロレンツォがエヴァンスをも呑み込んでエレクトロニクスを操り、副題の通りセシル・テイラーの音楽のごとく絶えざるエネルギーの噴出によって、聴く者はまた宇宙のはるかかなたに連れていかれてしまう。エヴァンスはロレンツォについてエレクトロニクスを人間的な楽器のように扱う人だと評価したことがあるが(記事参照)、もはやそれ以上の域にまで達している。

<Interior>に至り、思い出したとでも言わんばかりに弦とピアノとがゆっくりと並走し、我々は落ち着いた部屋の中に招待される。その音は記憶の遡行を促しているようでもあり、内省的だ。アルバム全体での抽象的な物語構成をすばらしいものにして締めくくる曲である。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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