#2039『中牟礼貞則/Detour Ahead~Solo Guitar at AIREGIN』
『中牟礼貞則/デトゥアー・アヘッド〜ソロ・ギター・ライヴ・アット・エアジン』

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Masahiko Yuh  悠 雅彦

地底レコード B96F   ¥2500+tax

中牟礼貞則(guitar)

1.  Stella by Starlight (Victor Young)
2.  Detour Ahead  (Johnny Frigo / Herb Ellis / Lou Carter)
3.  My Funny Valentine  (Richard Rodgers)
4.  How Deep Is the Ocean  (Irving Berlin)
5.  Time Remembered  (Bill Evans)
6.  All Across the City  (Jim Hall)
7.  Falling Grace  (Steve Swallow)
8.  Inter–cross  (Sadanori  Nakamure)

録音日:①  2003 年 8 月 29 日 M1~M4  (カセット音源)
②  2020 年6 月27日M5~M8  (デジタル音源  at  横浜エアジン )Produced  by  梅本實&中牟礼貞則
Recording Engineered  by 斎藤雅顕
Design by 西野直樹
Executive Producer :吉田光利(地底レコード)


私個人にとっては久方ぶりに接する中牟礼貞則の演奏だが、一聴して脳裏をよぎったのは、この演奏が淫らな欲心を放棄した中牟礼らしい芸の一環だったということと、にもかかわらず演奏家にとってある種の執着とか演奏表現へのこだわりが底流を縫って流れているように思えてすこぶる興味深かったことだ。何度か繰り返して聴いている最中に脳裏をふとよぎったのは、音楽家に限らず優れたアーティストすべてに見出される芸への執着、あるいは探究心である。
実は、ここには2種類の演奏が収録されている。それもひとつはおよそ15年前の演奏で、今回初めてCD化されるといういわくつきの演奏であり、もうひとつが去る(2020年)6月27日に新たに吹き込まれた、現在88歳!(1933年 3月15 日生)という中牟礼貞則にとって最新の演奏といってよいものだ。どちらの演奏も中牟礼貞則というひとりのアーティストの音楽性や表現性を探る上で得難い材料と言ってよいが、ここではプロデューサー吉田光利氏の音源編集技術によって想像するに17年前のカセット音源と去る6月末に収録された現代最新の録音による演奏とが巧みに統合されることになるはずである。吉田光利氏から届いた資料には<音量や音質の最終調整がまだ終わっていない>との但し書きが付されていた。というわけで、ここでは音質やサウンドについては触れずに、単なる音楽評として書くことにしたい。

88歳で自身<初のソロ・アルバム>という本作には、アーティストがその達成感を誇る晴れやかな表情もなければ、かつてかの高柳昌行らと日本ジャズ史の中でパワーを結集させた歴史的銀巴里セッションにおいて一石を投じた誇らしさすら微塵も感じさせないその中牟礼貞則が、かくも情熱的にして、恐らくは最後の機会と踏んで演奏した4曲(M5~M8)にもかかわらず、若々しさを依然失うことなくつつましくも往年の意欲的な演奏を聴く者の瞼に描かせる演奏には、いささか突拍子もない言い方になって恐縮だが素直に” 参りました”と軍門に下るしかあるまい。その意味でいえば、好き嫌いを別にするなら(M5~M8)も17年前の演奏(M1~M4)も音質的な面を除けば私には甲乙つけがたい演奏ではあった。ただし、合点がいかなかったのは、スティーヴ・スワローのM7 <Falling Grace> の最後がライヴ風に終わっているのが解せない。効果的演出を狙ったのだろうか。ジム・ホールの M6 <All Across the City> での、あたかも欲心を放棄したかのような演奏が素晴らしかった。分かりやすい演奏とは無縁の展開ながら、欲心を放棄したかのような、それでいて意欲や審美眼を失わない中牟礼らしい地道な演奏というべきか。テーマの旋律が顔を出さないまま展開するので安心できないという人には勧められないが、そうしたこのギタリストの特性がよく分かっている人にはあるいは舌を巻くうまい演奏ということもできるのではないか。

例外的に興味深いM6はあるものの、演奏の流れや充実ぶりからいえば総合的に見て、M1~M4のカセット音源という17年前の演奏が上と判断した。少なくとも両演奏の演奏内容からいって中牟礼がカセット音源で17年間にわたって自身が愛聴(?)し続けてきた M1~M4 の演奏に私も共感を覚えた。たとえば、M1 <Stella by Starlight> の処理自体は本作中最もオーソドックスながら内容は絶妙。特に玄妙な和声進行と音色変化が、作曲者ヴィクター・ヤングのハーモニー感覚に呼応する中牟礼の長所と溶け合っていて聴きごたえがある。これを上回って、特に原旋律から離れて自己の世界を構築するソロを描き上げるという点ではまさに会心の内容を描いたというべき演奏は素晴らしい。原旋律からは離れたアドリブと言うべきか。中牟礼の演奏の特徴であるテーマ旋律とアドリブ・ソロの境目がない特徴もよく出ていて印象深い。経験が深まると徐々に物分かりのいい演奏に転化する傾向があるが、彼の演奏はそうした傾向とは無縁の機転を利かせた展開。といって、ヴェテランになると淡々と物分かりのいい演奏をするプレーヤーがいるが、中牟礼の演奏ではそれとは無縁の機転を利かせた手法が素晴らしく、その良さが実に印象的なアルバムだった。(2020年11月14日記)

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

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