#2035『The David Liebman Trio with special guest John Ruocco / Lieb Plays The Beatles』
『デイヴ・リーブマン・トリオ w Special Guest ジョン・ルオッコ/リーブ・プレイズ・ザ・ビートルズ』

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text by Hiroaki Ichinose 市之瀬 浩盟

Timeless /ソリッド・レコード CDSOL-46920

David Liebman (ss,ts,p,w-fl)
John Ruocco (ts,cl,b-cl)
Marius Beets (b)
Eric Ineke (ds)

1. She’s Leaving Home – Let It Be
2.While My Guitar Gently Weeps
3.Because
4.The Fool On The Hill
5.That means A Lot
6.If I fell
7.Whitin And Without You
8.Something
9.Blackbird
10.Tomorrow Never Knows – Blue Jay Way – Love Me Do
11.Julia
12.She’s A Woman – Lady Madonna
13.And I Love Her

(1)Lennon/McCartoney
(2)(7)(8)Harrison
(3)(6)(11)Lennon
(4)(5)(9)(12)(13)McCartoney
(10)Lennon/Harrison

Produced by David Liebman
Executive producer:Fred Dubiez
Mixed, edited and mastered by Marius Beets
Recorded by Marius Beets at Studio ‘De Smederij’, Zeist, Holland on April 29, 2012


本誌入稿締め間際になってデイヴ・リーブマンの新譜 (’12年録音) が舞い込んできた。
現代ジャズ最高峰の求道者デイヴが今回取り上げたお題はなんと、ビートルズである。
デイヴが敬愛する演奏者、作曲家に捧げた作品といえばOWLレーベルでの、

Homage to John Coltrane (’87/OWL046)
West-Side Story (’90/OWL061)
Miles Away (’94/OWL078)
を皮切りに、
Locking For The Light – A Tribute to Chet Baker (’92/CCB CCB3933)
Monk’s Mood (’99/Double-Time DTRCD154)
The Unknown Jobim (’99/gmn GMNJ0501)
Turnaround  The Music of Ornette Coleman (’10/jazzwerkstatt JW79)

などなど多くの名盤がある。
またライヴ・アンダー・ザ・スカイ’87 でのW.ショーター、R.バイラーク、E.ゴメス、J.ディジョネットによる『Tribute to John Coltrane』も忘れてはならない、というかこれは一生忘れようのない一夜の記録であった。当時大卒後家業を継ぐ前に名古屋のあるメーカーに研修生として会社勤めをしていたが、私はこの演奏をNHK-FMでオンエアしたライヴ放送を会社の独身寮の部屋で聴いた。左右のスピーカーを底辺とする正三角形の頂点に座布団を敷き、そこに正座をして演奏が始まるのを息を凝らして待っていた。
一曲目の <Mr.PC> のオープニングのテーマで鳥肌が立った。テーマに続く先発のデイヴのソロ演奏の最初の一音が出た時にはもう私は泣いていた。凄まじい殺気だった。いまでもあの演奏はいつ聴いても同じ感動、感銘を与えてくれる。
と、私が最も敬愛するミュージシャンのためつい前置きが長くなってしまったが、コルトレーン研究家としてあまりにも有名なデイヴもこのように沢山のトリビュート盤を世に送り出している。

さてデイヴがビートルズ・ナンバーを取り上げた曲だと『Lineage / Dave Liebman Michael Stephans Group』(’13 whaling city sound/WCS064)に収められた<エリナー・リグビー>の好演が思い浮かぶ。デイヴが木管フルートで奏でる前奏からソプラノサックスでテーマを奏でる故ヴィク・ジュリスの生ギターやデイヴの弟子のマット・ヴァシュリシャンらが絡み、完全にデイヴ色に染め上げた演奏であった。このように私にとってトリビュート盤の評価というものは如何に演奏者が自分の脳と五臓六腑で咀嚼したものを今度は “自分の音”として演奏できるか、そこだけに絞られる。それ以外に求めるものは存在しない。ただ上っ面のメロディを捉えて、その後自分で超絶ソロをかましてくれて「さあ、どうだ」と言われてもおいちゃんの心には全く響かないのである。

本盤はマリウスのベースとエリックのドラムのオランダのミュージシャンにアメリカのジョン・ルオッコがゲストで参加している。
’12年の録音ではある。この若きオランダのリズム隊の2人は当時定期的に
Lieb Plays Wilder (’05 Daybreak-challenge / DB CHR 75214)
Lieb Plays Weill (’09 Daybreak-challenge / DB CHR 75439)
Lieb Plays The Blues A La Trane (’10 Daybreak-challenge / DB CHR 75978)
とアレック・ウィルダー、クルト・ワイル、そしてコルトレーン・トリビュート三部作を吹き込んでいる。デイヴ信者を自称しておきながら本盤の発売を見落としていたとすればお恥ずかしい限りである。だがこうして、ウルトラ・ヴァイヴから国内盤が発売されたことは誠に喜ばしいことである。
ビートルズといえば音楽に携わる人間で見過ごしてきたなどという者はまずおるまい。ライヴ演奏も中期の『ラバー・ソウル』前までしか行ってなく、解散後も一度も再結成していないので、彼等の音を通ってきた皆さんにとってはそれこそ”さざれ石の巌の如く堅固な音楽像”として各々の体にあの音がしみついているに違いないであろう。
今回もデイヴはビートルズ・ナンバーを自分の体内で完全に咀嚼し、見事に再構築しておいちゃんのもとに届けてくれた。
M1のジョンとのデュオでの幽玄さはデイヴの専売特許。ジョージ・ハリスンの超名曲M2では完全なるブルース・ジャズ・ナンバーに、耽美だったM3もお得意のミステリアスな演奏、『サージェント・ペッパーズ〜』に収められたM7のベースラインはマイルスの <オール・ブルース>といったように徹頭徹尾、妥協を許さず本盤も自分自身の音でビートルズを奏で上げた。共演者との理解があっての賜物である。

デイヴは高校生の時にライブハウス「バードランド」のライヴ盤で「あのかた」の演奏に生で接していたのは有名な話である。そこで虜になり、爾来「あのかた」の背中を追いつづけてきた。
御歳74歳のデイヴ。最近の演奏時の写真や動画では椅子に腰掛けて吹いている姿をよく見るが繰り出される音の圧力は相変わらず凄まじいものがある。
どの演奏でも自分のスタイルを崩さず全力投球のデイヴ、70を過ぎてもこの肺活量は見事である。
現代ジャス界の求道者:デイヴ...。おいちゃんのなかではもう「あのかた」を遥かに超えた存在である。

市之瀬浩盟

市之瀬浩盟

長野県松本市生まれ、育ち。市之瀬ミシン商会三代目。松本市老舗ジャズ喫茶「エオンタ」OB。大人のヨーロッパ・ジャズを好む。ECMと福助にこだわるコレクションを続けている。1999年、ポール・ブレイによる松本市でのソロ・コンサートの際、ブレイを愛車BMWで会場からホテルまで送り届けた思い出がある。

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