#2038 『Sun Ra Arkestra / Swirling』
『サン・ラ・アーケストラ/渦を巻く』

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Text by 剛田武 Takeshi Goda

Strut ‎– STRUT153LP/CD

Marshall Allen: Alto Saxophone, EVI
Knoel Scott: Alto Saxophone
James Stewart: Tenor Saxophone, Flute
Danny Ray Thompson: Baritone Saxophone, Flute
Michael Ray: Trumpet
Cecil Brooks: Trumpet
Vincent Chancey: French Horn
Dave Davis: Trombone, Vocals
Farid Barron: Piano
Dave Hotep: Guitar
Tyler Mitchell: Bass
Wayne Anthony Smith, Jr.: Drums
Elson Nascimento: Surdo Drums, Percussion
Stanley “Atakatune” Morgan: Congas
Tara Middleton: Vocals, Violin

A1 Satellites Are Spinning / Lights On A Satellite
A2 Seductive Fantasy
B1 Angels And Demons At Play
B2 Swirling
B3 Sea Of Darkness / Darkness
C1 Astro Black
C2 Infinity / I’ll Wait For You
C3 Queer Notions
D1 Rocket No. 9
D2 Sunology
D3 Door Of The Cosmos / Say

Recorded and Mixed at Rittenhouse Soundworks, Philadelphia
Recording Engineer: Peter Tramo
Mixed by Michael Richelle with thanks to Michael Ray and Dilip Harris
Production and Mix Supervision: Jim Hamilton

Bandcamp

異端音楽の経典は語り継がれる。

自称“土星生まれ”の作曲家/ジャズ・ピアニストにしてバンドマスター、宇宙哲学者にして古代文明継承者、映画監督兼俳優でもあるサン・ラが93年に地球から旅立って(逝去して)から27年が経った。自分が体験できなかった未来の世紀が20年経過しても、忘れ形見の楽団が精力的に活動を続け、リリース記録を塗り替えるべく新作アルバムを世界に向けて発表し続けていることを知ったらどう思っただろうか。悔しさ(または歓び)のあまり渦巻型の銀河の彼方から彗星になって地球へ飛んでいきたいと願うかもしれない。

1914年生まれのサン・ラが50年代半ばにシカゴで結成した楽団がアーケストラ。Ark(箱舟)+Orchestraという名前の由来通り、ノアの方舟に乗り込んだ家族と動物の如く、総帥サン・ラの指導のもと共同生活を送りながら演奏旅行に出かけては、行く先々でライヴを録音した少数プレスのレコードを販売して日銭を稼ぐ日々を送った。フリージャズの嵐が吹き荒れた60年代ニューヨークではカフェや美術館に楽器を持ち込みレコーディングするなど斜め上を行く活動で異彩を放ち、70年代には反動保守のモダンジャズ/フュージョン勢力の向こうを張って、奇怪なコスチュームのお祭り集団として欧米日のジャズフェスで乱痴気騒ぎのステージを繰り広げた。リリースしたレコードは200種とも300種とも言われ、誰も全貌を把握できない。日本のノイズアーティスト、メルツバウが活動目標に「サン・ラを超える数のレコード・CDをリリースする」と掲げていたことは有名。

サン・ラ亡きあと一番弟子のサックス奏者マーシャル・アレンが総帥の遺志を引き継ぎ、96歳になる現在までサン・ラ・アーケストラを指揮して活動を続けている。本作『Swirling(渦を巻く)』は21年ぶりのスタジオ録音アルバム。サン・ラ総帥が空から見下ろす惑星で渦巻きの方舟に同舟したマーシャル・アレンと楽団員を描いたジャケット通りの近未来SFファンタジー・サウンド・スペクタクルが繰り広げられる。アルバム制作にあたってアレンは、既存の楽団員に新しいミュージシャンを加えて選抜した新編成のアーケストラを率いてレコーディングに挑んだ。今年3月に亡くなったバリトンサックス奏者ダニー・レイ・トンプソン(アーケストラに67年に加入)、2018年10月に逝去したパーカッション奏者のスタンレー・“アタカチューン”・モーガン(72年に加入)の遺作でもある。

アレン作の「Swirling」とフレッチャー・ヘンダーソンの「Queer Notions」以外は「Astro Black」「Rocket No.9」「Angels And Demons At Play」といった有名曲から初録音の「Darkness」までサン・ラの作曲作品で占められている。個人的にはアレンの奇天烈なサックスやスぺ―シーなEVI(ウィンドシンセ)が随所で聴けるだけで嬉しいが、サン・ラのプレイを彷彿させるピアノのファリッド・バロン、アーケストラ黄金時代の歌姫ジューン・タイソンに負けず艶のあるヴォーカルを聴かせるタラ・ミドルトンをはじめ、サン・ラが提唱したアーケストラ・コスモロジーを継承するプレイは、来日公演で何度か観たエンターテインメント満載のステージそのままである。ライヴでも感じられる独特のユルさたっぷりの演奏は、他のフリージャズやフリー・インプロヴィゼーション、アヴァンギャルド系アーティストには真似できない心の余裕を感じさせる。おそらくメンバー自身は前衛とか実験音楽をやっている意識を持っていないのかもしれない。60年を超える活動歴を誇るアーケストラは、単なる異端ではなく、異端の歴史を作り出したオーソリティ(正統派)なのだから。

宇宙人ネタ/エジプト太陽神コスプレ/電波系発言で一般的に変人・色物・ゲテモノ扱いされがちなサン・ラだが、ニューオリンズ、スウィング、ビバップ、フリージャズ、R&B/ゴスペルからエキゾチカ、サイケデリック、スペースロック、電子音楽まで地上のあらゆる音楽を坩堝化したサウンドは、世界文明を攪拌・濃縮したミックスジュースのように馨しい。サン・ラ総帥が存命時の混乱のディスコグラフィは、死後も有象無象のアーカイブ音源の発掘・再発・リメイクが続々登場し、ますます混沌の度合いを深めるばかり。初めて聴く人は「どれを聴いたらいいか分からない」と困惑するに違いない。そういう人には自信をもってこの最新作をおススメしたい。「え?でもサン・ラ総帥が入っていないじゃん」と反論する方にはこう答えよう。聖書を書いたのはキリストですか?仏典を記したのは仏陀ですか?コーランをまとめたのはムハンマドですか?--すべて弟子たちの偉業じゃん、と。時代を経るとともにエッセンスが蒸留・濃縮されて極まっていくのが経典というものである。(2020年12月2日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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