#2030 『福盛進也/アナザー・ストーリー 月・花』
『Shinya Fukumori / Another Story – Moon – Flower』

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Text by Hideo Kanno 神野秀雄

『福盛進也/アナザー・ストーリー 月・花』
『Shinya Fukumori / Another Story – Moon – Flower』

NAGALU-001/002 (2020年12月20日リリース)

福盛進也 Shinya Fukumori (drums)
藤本一馬 Kazuma Fujimoto (acoustic & electric guitar)
林 正樹 Masaki Hayashi (piano)
佐藤浩一 Koichi Sato (piano)
小濱明人 Akihito Obama (shakuhachi 尺八)
蒼波花音 Kanon Aonami (sax)
北村 聡 Satoshi Kitamura (bandoneon) Twitter
田辺和弘 Kazuhiro Tanabe (bass)
西嶋 徹 Toru Nishijima (bass)
甲斐正樹 Masaki Kai (bass)
Salyu (vocals)
青柳拓次 Takuji Aoyagi (vocals, acoustic guitar)

CD1『月』
1.月はとうに沈みゆき
北村聡(bandoneon) 藤本一馬 (electric guitar) 林正樹 (piano) 田辺和弘 (bass) 福盛進也 (drums)
2.L.A.S.
藤本一馬 (acoustic guitar) 林正樹 (piano) 西嶋徹 (bass) 福盛進也 (drums)
3.可惜夜 (Improvisation) (福盛進也 & Salyu)
Salyu (vocals) 福盛進也 (drums)
4.悲しくてやりきれない (加藤和彦 作曲/サトウハチロー 作詞)
青柳拓次 (vocals) 小濱明人 (尺八) 佐藤浩一 (piano) 福盛進也 (drums)
5.Fallen
佐藤浩一 (piano) 福盛進也 (drums)
6.Another Story
小濱明人 (尺八) 蒼波花音 (alto saxophone) 佐藤浩一 (piano) 福盛進也 (drums)
7.美しき魂 -月-
Salyu (vocals) 藤本一馬 (electric guitar) 林正樹 (piano) 福盛進也 (drums)

CD2『花』
1.Birth
佐藤浩一 (piano) 福盛進也 (drums)
2.Flight of a Black Kite
藤本一馬 (acoustic guitar) 林正樹 (piano) 西嶋徹 (bass) 福盛進也 (drums)
3.水光 (Improvisation) (福盛進也 & Salyu)
Salyu (vocals) 福盛進也 (drums)
4.美しき魂 -花-
Salyu (vocals) 藤本一馬 (electric guitar) 林正樹 (piano) 福盛進也 (drums)
5.Lily
北村聡 (bandoneon) 藤本一馬 (electric guitar) 林正樹 (piano) 田辺和弘 (bass) 福盛進也 (drums)
6.Farewell
蒼波花音 (alto saxophone) 佐藤浩一 (piano) 福盛進也 (drums)
7.Walk
青柳拓次 (vocals & acoustic guitar) 北村聡 (bandoneon) 林正樹 (piano) 甲斐正樹 (bass) 福盛進也 (drums)
8.花は光に導かれ
佐藤浩一 (piano)

All songs composed by Shinya Fukumori except noted.
Recorded at Sekiguchidai Studio, Tokyo August 22-24, 2020
Recording & Mixing Engineer: Yuichi Takahashi
Assistant Engineer: Haruka Yamakawa Mastering Engineer: Yasuhiro Yanai
Piano Tuning: Takeshi Miyazaki
Design: Yume Sato
A&R: Shigeko Sekiguchi
Artist Management: Masayasu Hanai (hanai studio) Production Management: Koji Minoshima
Produced by Shinya Fukumori

1984年大阪市阿倍野区出身、アメリカの高校とバークリー音楽大学に学び、ミュンヘンを拠点に活躍するドラマー福盛進也。2018年3月にECMからファーストアルバム『福盛進也トリオ/For 2 Akis』(ECM2574)をリリース(ECMから自己名義のアルバムをリリースした日本人は、細川俊夫、児玉桃、菊地雅章に続き”約4人目”)。2019年8月12月〜2020年1月にかけて、さらに2020年のCOVID-19下でも独日間を飛んで来日し多数の公演を行う。この期間、特にフォーカスされて来たのが、藤本一馬(g)、林 正樹(p)をコアに広がって行く人脈とプロジェクト、韓国のECMアーティストと日本のアーティストの共演、そして、福盛が「最愛のピアニスト」と断言する佐藤浩一との変わらぬパートナーシップとその周辺、それぞれのさらなる深化だった。また、2019年には、伊藤ゴロー(g)、佐藤浩一(p)との『Land & Quiet』のリリースとライヴもあった。

その中で、日本発の創造と発信のプラットフォームを目論み、設立したのが新レーベル「nagalu」。音楽アルバムの流通にはキングインターナショナルが協力している。レーベル名の「nagalu~ながる~」は、日本語の「流る」。福盛進也が常に理想としているコンセプト「清い水が流れるように、同じところに留まらず変わり続ける音楽」から。「流水不腐」ならぬ「流音不腐」が根底にある音作り、を目指すと言う。さらに映像作品などを含む広範なプラットフォームとしての「keshiki」を同時に設けた。すでに栗林すみれ(p)、福盛進也(ds)、黒沢 綾(vo)のユニットによる『Live at Classics』の有料配信を開始している。また、本レコーディングセッションを記録した動画を無料配信している。

A Film by Yuma Maehara – capturing a recording session

敢えて丁寧に作られたパッケージへのこだわりにまずは注目したい。紙のテクスチャーや箱のような組み立てまで、3次元的であるだけでなく、時間や想いも刻まれたような次元を超えたもので、まさに福盛からのギフトであり、新しい物語への扉を開くようだ。『月』と『花』と題された2枚、曲ごとにフォーマットを変え表情を変えながら、小説や映画のような物語性を魅せて行く。むしろ映画監督の思考と作業に近いだろうか。そのため、ここでは各曲の解説をすることがストーリーとアイデアのネタバレになりそうなので詳細は割愛したい。

沈黙と響きを追求したECMにもつながるサウンドではあるが、どこか日本的な感性と、日本とアジアの伝統音楽が培って来たタイム感や空気感、楽器の音色などが随所に息づく。実際、ECMにしても”ECM的なサウンド”の再生産ではなく、マンフレート・アイヒャーはエスニックへの探求を常に続けて来たし、それは北欧、東欧や中東に向かうという地理的探索ながら、歴史を遡ることでもあった。マンフレートにとって、日本に関しては、松尾芭蕉のような世界観もそのインスピレーションの源であったようだが、他方、福盛に訊いたところでは、『For 2 Akis』の録音に立ち会いながら、<愛燦燦>や<星めぐりの歌>などが日本の歌であることを前知識やコンセプトとしては特に意識していなかったということも興味深い。西欧から外に向けて探しに行くのと異なり、福盛と日本/アジアの仲間たちが内側へ過去へ掘り下げて行く。雅楽、唱歌、フォークソングなどのイメージが浮かび上がっては深層に潜る。そして曲ごとの単独のアイデアと構築にとどまらず、アルバム全体への展開とデザインが素晴らしい。

ここで編成を解説すること自体、もはや野暮ではあるが、まずは、福盛、藤本一馬(g)、林正樹(p)、北村聡(bandoneon)を中心にしたユニットに加わって行くもの、福盛と佐藤浩一(p)の濃密なパートナーシップとそれに加わるもの、Salyuのヴォイスと福盛のドラムスのインプロヴィゼーションの3つのコアがある。ベースには、田辺和弘、西嶋 徹、甲斐正樹の3人が異なる世界を見せる。そこに小濱明人(尺八)、青柳拓次(リトル・クリーチャーズ、vo、g)、蒼波花音(あおなみかのん、sax)と第一線で活躍する気鋭のアーティストたちが加わる。その3つのコアは相互にほぼ交わらずに進行し、パラレルワールドのようでもありつつ、一貫した流れとなり、ストーリーを紡いで行く。

録音は2020年8月22日〜24日。COVID-19感染が拡大しつつ、日本国内では大きな制限付きとはいえ、音楽やアートがある程度動けるようになっていた時期、他方、韓国やヨーロッパとの人的交流は絶望的であり、また、BLMやトランプ大統領をめぐっても人種や多様性にも考えさせられた時期、それだけに、日本人の仲間が集結し、日本人/アジア人にしか表現できない音楽、そのアイデンティティと普遍性に目を向け、世界へつながっていくことになった。福盛は生まれつき右耳の聴覚しか持たず、彼の感じている世界を共有してもらいたいと最新のMONO録音を実現したと言う。立ち上げた nagalu レーベルでは、今後はアーティスト・プロデュースも手掛けていきたいとも語る。「Another Story」から新しい物語が広がって行く。

福盛のライヴスケジュールはこちらTwitterを参照されたい。なお、2020年12月27日(日)12〜22時に開催予定、渋谷「公園通りクラシックス」を支援する無観客配信ライヴ「SAVE THE CLASSICS FOR THE NEW ERA vol.3」のトリとして、藤本一馬、北村聡、林正樹、西嶋徹、福盛進也で「Another Story」として出演する。できれば、12時から全部を見ていただき、支援していただければ幸いだ。

【参考】 Birth / 佐藤浩一(p) & 福盛進也(ds)
2019年1月5日 公園通りクラシックス

【参考】 悲しくてやりきれない / 福盛進也トリオ
Matthieu Bordenave (sax/cl)、Walter Lang (p), Shinya Fukumori (ds)
Recorded and mixed by Jan Erik Kongshaug at Rainbow Studio on April 17, 2015

【参考】 Flight of a Black Kite / 藤本一馬クインテット
藤本一馬(g)、林正樹(p)、西嶋徹(b)、福盛進也(ds)
Live recording from Motion Blue Yokohama on July 9, 2019

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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