#2043 『.es (Takayuki Hashimoto & sara) / Vessel of Catastrophe』
『ドットエス(橋本孝之&サラ)/ カタストロフの器』

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text by 剛田武 Takeshi Goda

レーベル:Nomart Editions
品番: NOMART-119

.es(ドットエス)
Takayuki Hashimoto 橋本孝之
– Alto Saxophone, Harmonica, Guitar
sara
– Piano, Percussion

01 Catastrophe #1
02 Catastrophe #2

Recorded live at Gallery Nomart, Osaka, 2020.9.12
The solo exhibition “Vessel of Catastrophe” by Nana Kuromiya
黒宮菜菜個展 “カタストロフの器” 会場にて
Art direction & Produce: 林聡 Satoshi Hayashi
Art work: 黒宮菜菜 Nana Kuromiya
Text: sara
Translation: 茨木千尋 Chihiro Ibaraki
Design: 冨安彩梨咲 Arisa Tomiyasu

 

崩壊の先にある”行為としての即興音楽”

イギリス、ロンドンのテムズ川沿いにある現代美術館テート・モダーンの常設展に「The Disappearing Figure : Art After Catastrophe(消失する形象:カタストロフの後の芸術)」と名付けられた展示室がある。第二次世界大戦という壊滅的な出来事の後、いかにして作品を作り続けるか、という20世紀半ばの芸術家にとって最大の問題に取り組んだ作品を集めた展示である。欧米そして日本中心の社会的・政治的な秩序が崩壊し、すべての価値観の大変革を経験した世界に於いて、ある者は非西欧的文化を参照し、ある者は作為を排除し自然発生的な手法を取り入れ、ある者は特殊な素材を使って実験し、芸術の大変革を推し進めた。メインの展示のひとつにアメリカのジャクソン・ポロックの「Number 14」(1951)がある。床に置いたキャンバスに塗料を滴らせる”ドリッピング(Dripping)”と呼ばれる手法でカラフルな抽象絵画を発表していたポロックが、黒の塗料を棒や注射器で注ぐ”ポーリング(Pouring)”という手法で描いた白黒の作品である。これは1951年から1954年の間に制作されたBlack Pouringsと呼ばれるシリーズのひとつで、成功のプレッシャーでアルコール依存症に陥り1956年に自動車事故で44歳の生涯を閉じるポロックの最後の傑作と言われている。

新型コロナウィルスという災禍がもたらしたカタストロフ(崩壊)と再生への希望をテーマにしたアート展 「カタストロフの器」最終日での演奏で、橋本はエレクトリックギターの爆音ノイズとハーモニカのディレイ効果で、saraはエレクトリックとアコースティックのピアノ演奏で、ギャラリー・ノマルの空間をこれまでになく厚い音の壁で塗りつぶそうとしている。四方を囲む壁に飾られた黒宮菜菜の絵画(ジャケット参照)は、手法は異なるかもしれないが、ポロックの抽象絵画を思わせる混迷と激情を感じさせる。

以前橋本は自分の演奏メソッドをジャクソン・ポロックを引き合いに出して語ったことがある。”即興演奏はその場のエモーションから生まれるが、そこに感じる自分と考える自分がいる。そこにあるあらゆる感覚を使って受け取ったものに、蓄積した経験や感情が反応した時に音が生まれる。ポロック同様、無為と有為のスパークだ”(2019年7月27日(土)東京・国分寺gieeでのソロ公演での配布プリントより)。

音楽とアート、無形と有形、抽象と具象、無意識と有意識、無為と有為、消失と出現、Catastrophe(崩壊)とCreation(創造)。聴き手の感覚を音でスパークさせるドットエスの表現行為は、ジャクソン・ポロックの「アクション・ペインティング」に倣って「アクション・インプロヴァイジング・ミュージック(行為としての即興音楽)」と呼ぶのが相応しい。(2020年12月31日記)

剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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