#2057 『沖至・ラスト・メッセージ・ウィズ・佐藤允彦』
『Itaru Oki Last Message with Masahiko Sato』

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text by Takeo Suetomi 末冨健夫

『Itaru Oki/Last Message with Masahiko Satoh』
Super Fuji Discs/DiskUnion FJSP422 ¥2,500+税

沖至 (trumpet, native American flute)
佐藤允彦 (piano)

1.メッセージ 1
2.メッセージ 2
3.メッセージ 3
4.メッセージ 4
5.メッセージ 5
6.メッセージ 6
7.メッセージ 7

2018年10月1日 渋谷公園通りクラシックス「邂逅/佐藤允彦・沖至DUO」より
録音・編集:佐藤允彦


2018年9月4日 私は、1996年1月2日以来の久しぶりの沖至さんのライヴを防府で開催した。96年のライヴは当時経営していたcafé Amores/カフェ・アモレスで行った、沖さん、井野信義さん、そしてスペシャル・ゲストでわざわざこの日の為だけに来日してもらった崔善培さんとのトリオ・ライヴだった。この日の録音は、No Business Chap Chap Seriesから『紙ふうせん』としてCD&LPでリリースされ、なかなかの好評を得ることになる。

2018年のライヴは、防府天満宮を下った場所にあるcafé Opus。ピアノが置いてある瀟洒な店だ。この日は、沖さん、川下直広さんと波多江崇行さんとのトリオ・ライヴ。久しぶりに会う沖さんは、相変わらずの異国情緒?を漂わせる強いオーラを纏ったままだった。演奏はというと、噂だけは聞いていた自作のユニークな形をしたトランペットや、民俗楽器の笛を操ってのフリーからスタンダード・ナンバーまで、沖節と言えそうな沖さんしか演奏しえない個性を持った演奏を堪能させていただいた。

このライヴの後に、東京では沖さんと佐藤允彦さんとの久しぶりの共演があると知り、胸が躍ったのだった。沖さんと佐藤さんは、富樫さん、高木さんを含めた日本のフリージャズ史の最初期を飾る伝説の(幻のと言ってもいいかも。なにしろ音源が残っていないのだ。あるいは発掘されていないのか?)Experimental sound space group (ESSG) のメンバーだった。だが、それ以降は、1985年と1993年の佐藤さんの欧州ツアーでの共演くらいという数少ないもので、2018年10月7日公園通りクラシックスでのライヴは実に25年ぶりというものだった。これは、沖さんからの「是非トーサとDUOをやりたいんです。」と、たっての願いが実現したライヴ。我々ファンとしても是非是非聞きたいDuo Liveではないか。これを知った時は、東京まで飛んで行きたかったが、残念ながらそれは叶わなかった。

だが、ライヴの音源(佐藤さんが録音していたもの)が、こうしてCDと言う形になって、我々の耳にも届くことになった。私は、まだCDが発売前にこれを書いているのだが、佐藤さんから送られて来たデータ・ファイルをCD-Rに焼いて(古い人間ですから)聴いていたのでした。実は、早くから佐藤さんに「ちゃぷちゃぷレコードから出さない?」との打診があったのだけど、色々と事情がありまして?断念したという経緯もあったりしています。

さて、発売されるCDでは、お互いのソロが2曲。デュオが5曲の合計7曲。曲名は「Message1~7」と書かれている。佐藤さん自身が編集されたもの。

ライヴの始まりは、まずは沖さんの無伴奏ソロ・トランペットが10分くらい続く。佐藤さんは、沖さんの気持ちを乱すのを恐れてその間一音も弾かれなかった。25年ぶりの沖さんのトランペットの音を聴衆も含めて一番堪能していたのは佐藤さんだっただろう。佐藤さんの頭の中を走馬灯のように、沖さんとの懐かしい想い出の光景が浮かび上がっていたのではなかっただろうか。10分くらいたって、ここぞという場所に佐藤さんの打鍵が振り下ろされる。低音の一撃だった。瞬時に空間が緊張するのが分かる。沖さんのトランペットの音も一気に緊張をはらむ。しばらくDuoが続き、その後佐藤さんのピアノのソロになる。この演奏が凄まじい!色々なピアノ・ソロを聴く機会が多いが、近年まれにみる壮絶なソロなのだ。言っては悪いが、「1941年生まれですよね?」と聞きたくなる。パワーもスピードもあふれ出るアイデアも、とめどもなく奔流となって聴き手に襲い掛かる。無尽蔵のアイデアとパワーに圧倒されるのみ。続いて二人によるLush Lifeをモチーフとした演奏が始まる。壮絶な嵐の後の日の当たる海を感じるもので、一旦こちらの耳もリセットされる。そして、「待ってました!」と思うのは私しかいないかもしれないが、沖さんの民俗楽器の笛の演奏だ。シンプルな笛だけで、ここまで豊かな表情を見せるのは、あとはドン・チェリーとワダダ・レオ・スミス以外にはいない。素朴な音が沁みる演奏。これに見事に合わせられる佐藤さんのピアノもさすが。その後もデュオが続くが、この日の〆はシャンソンの名曲「バラ色の人生」だった。沖さんのトラペットの音がよく似合う。ドラマチックな25年ぶりの邂逅の〆にふさわしい演出だった。

全部で70分あまりの演奏だが、25年ぶりの邂逅とはいえ、おそらく「次はどうする?」といった事前の会話は一切なされていなかっただろう。これがインプロヴァイザーたる所以であり特権であり、我々もそこから湧き出て来る他では味わえないスリルを共有するのだ。沖さんの色彩感溢れる音色と変幻自在の演奏がもうライヴで聴けないのは残念だが、こうして残されたアルバムで後50年、100年と聴き続けられるのだ。佐藤さんには、まだまだ20年はこのままのエネルギーで突っ走ってもらいたいなあ。それだけ、凄い演奏でした。また、沖さんのトランペットのような肌触りの演奏を出来る者は本当に少なくなっている。これも時代の流れかもしれないが淋しい気がする。

兎にも角にもCD化実現に感謝!(ChapChap Recordsオーナー/プロデューサー)


末冨健夫(すえとみたけお)
1959年生まれ。山口県防府市在住。1989年、市内で喫茶店「カフェ・アモレス」をオープン。翌年から店内及び市内外のホール等で、内外のインプロヴァイザーを中心にライヴを企画。94年ちゃぷちゃぷレコードを立ち上げ、CD『姜泰煥』を発売。95年に閉店し、以前の仕事(貨物船の船長)に戻る。2013年に廃業。現在「ちゃぷちゃぷミュージック」でライヴの企画、子供の合唱団の運営等を、「ちゃぷちゃぷレコード」でCD/LP等の制作をしている。リトアニア NoBusiness Recordsと提携、当時の記録を中心としたChapChap seriesをスタート、第1期10タイトルに続き、2020年秋から第2期がスタートした。

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