#2050 『Hermon Mehari : A Change For The Dreamlike』
『ハーモン・メハリ/ア・チェンジ・フォー・ザ・ドリームライク』

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text by Keiichi Konishi 小西啓一

MiRR,01062020CFTD/MiRR2

Hermon Mehari (tp)
Tony Tixier (p)
Jeff Hil l (ds)
Tesfai Tsehaile (vo)
Per Schlamb (p, vib)
Karl Mccomaz- Reichel (b)
Hugo Lx (ds, production)
Kae Dilla (rhodes, synth)
Deandre Manning (b)
Zack Morrow (ds, production)
Ryan J. Lee (ds)

1.Shenandoah
2.Let’s Try This Again
3.A Conversation With My Uncle
4.Eritrea
5.All Alone
6.I Cry For Our People
7.Dreamscapes

Produced , mixed, and mastered by Hermon Mehari in France, 2020
https://www.mirr.fr/label/


カンザス・シティ出身の俊英トランぺッター、ハーモン・メハリの最新作は、ここ数年活動拠点にしているフランスで録音されたもの。気持ち良くペットを唄わせるオープニングのソロ・ナンバーで有名なトラッド・ソングの<シェナンドー河>から、ラストの優し気な音色も快適な<ドリームスケープス>まで、全7曲25分弱のミニ・アルバムといった体裁だが、プロデュースからミキシング、マスタリングまですべて自身で手掛けた注目の自主製作盤である。パリを拠点に欧州各地で活動を展開している、この俊才の現在の心象をダイレクトに活写し、小振りながらもなかなかに印象深い佳品と言える。

敬愛する同郷の先輩、ローガン・リチャードソン(as)や注目の逸材アーロン・パークス(p)などを伴った『BLEU』。自身の3作目にして実質上のデビューとも言えるこの作品によって、一躍その多様な音楽性や卓越した技巧を、多くのファンに認識させたメハリ。朗々とした豊かな音量でエッジの効いたダイナミックなプレーを身上とする、この『BLEU』での意気盛んな若々しい雄姿。この新作ではそんな張り詰めたような表情とはひと味異なった、深い悲しみをその底辺に湛えながら<アイ・クライ・フォー・ザ・ピープル>ではその感情が噴出するが…、悠々とリラックスして嫋(たお)やかにペットを響かせる、余裕ある大人メハリといった趣きで、聴くものを魅せる。

ところで今、ジャズの新たな注目スポット、イギリスのロンドン周辺からは、シャバカ・ハッチングスなどの逸材がシーンに数多く輩出されている。アフリカやカリブ諸国からの流民も数多く、新たなメルティング・スポットとしてのロンドン界隈のジャズ。それはジャズ、アフリカ音楽、ラテン、カリブなどの音楽要素が混在化した、“パン・アトランティック・ジャズ”とでも呼べそうな魅力的側面を有している訳だが、そのロンドンと海峡を挟んだ文化都市パリ、そこでも似たような、ある意味通底したワクワクとした音楽状況が起きているのでは…と想像したくなる。メハリもその渦中にあって、いたく刺激を受けていることは想像に難くない。ここでのライアン J. リー(ds)などのカンザス・シティー・ミュージシャンと、パリ拠点のアフリカ系ミュージシャン、カリビアン(トニー・ティクシール)、フランス人(ヒューゴ・ルックス)が混在したこの作品も、ジャズの一拠点としてのカンザス・シティーとアフリカ、そしてカリブ諸国を結ぶ、“トランス・アトランティック・ジャズ”といった感触をどことなく漂わせており、そこら辺りもこの作品の興味深いところだと言える。実際彼の一族の出自とも言える<エリトリア>が、このアルバムの一つのキー・ポイントでもあるし、アフリカ風住居の前で寛ぐ彼のジャケ写真も、その一証座とも思える

この魅力充分な俊才が、これからどんな活動を展開していくのかはしかとはしないが、なかなかに愉しみなところでもある。

*関連記事
ハーモン・メハリ:インタヴュー
https://jazztokyo.org/interviews/post-15105/
『ハーモン・メハリ/ブルー』CDレヴュー
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-16735/

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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