#2051 『ruth weiss / we are sparks in the universe to our own fire』
『ルース・ワイス / 我らは宇宙の火花であり、我ら自身の炎となる』

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Text by 剛田武  Takeshi Goda

DL/CD : Edgetone EDT4217

Set 1
ruth weiss – poetry
doug lynner – serge synthesizer (the mystery serge)
hal davis – wooden log

Set 2
ruth weiss – poetry
rent romus – alto, soprano saxophones, flutes
doug o’connor – double bass
hal davis – wooden log

1. 90 – set one
2. BYPASS LINZ – set one
3. silly city – set one
4. 18th DAY – set one
5. re: ELECTION — fact or fiction – set one
6. 2018 THE CIRCUS IS IN TOWN – set one
7. looming above its neighbors – set one
8. FORTY – FIRST DAY THE RETURN – set one
9. CHI CHI CHI – set one
10. 90 – set two
11. BYPASS LINZ – set two
12. silly city – set two
13. 18th DAY – set two
14. re: ELECTION — fact or fiction – set two
15. 2018 THE CIRCUS IS IN TOWN – set two
16. looming above its neighbors – set two
17. FORTY – FIRST DAY THE RETURN – set two
18. CHI CHI CHI – set two

executive producer rent romus;
all poems by ruth weiss, music tracks 1-9 by doug lynner, 10-18 by rent romus, doug o’conner, hall davis
recorded by michael zelner november 18, 2018 at simm series outsound presents outsound.org musicians union hall local 6 san francisco
mixed/mastered by john finkbeiner at new, improved recording

‘ruth weiss the beat goddess’ www.ruthweissfilm.com

Edgetone Records Official Site

ビート・ジェネレーションの女神と辺境インプロヴァイザーの出会いが生んだ自由なジャズ・ポエトリー

ジャズとポエトリー・リーディングの組み合わせによるコンサートやレコーディングは現在でもしばしば行われている。両者のコラボレーションがポピュラーになったのは50年代半ばのアメリカのビート・ジェネレーションの影響だと言われる。そんなオリジネーターの一人が1928年6月24日生まれのビート詩人、ルース・ワイス(小文字でruth weissと綴る)である。1949年にシカゴのアーティスト・コミュニティ・ハウスに住んで詩作に励んでいたワイスは、ある日友人の誘いで階下で行われていたジャズ・セッションに参加することになり、実験的にポエトリーとジャズのコラボレーションを始めた。1952年にサンフランシスコへ移り、ストリート・ミュージシャンと共演したり、毎週水曜日にザ・セラーというクラブでジャズとポエトリーのジャム・セッションを開催するなどして、ジャック・ケルアックやニール・キャサディ等と共にサンフランシスコのビート・カルチャーの中心的存在となる。それ以来21世紀に至るまで、詩作だけでなく脚本家、パフォーマー、アーティストとしてウェストコーストのアート・シーンで活動を続けてきた。トレードマークの鮮やかな髪は1948年の反戦映画『緑色の髪の少年 (The Boy with Green Hair)』へのトリビュートだという。彼女のユニークな生涯は2020年にドキュメンタリー映画『ruth weiss, the beat goddess』として公開されている。

レント・ロムスは2013年に開催されたアーサー・ブライス・ベネフィット・コンサートでジョージ・ラッセルの紹介で初めてルース・ワイスに会った。彼女がビート・ジェネレーションの創始者の一人であり、アンダーグラウンド・カルチャーのイノベーターであることを知り、2014年にサンフランシスコでワイスとエレクトロニクス奏者ダグ・リナーの共演コンサートを企画した。2015年にワイスの誘いでロムスも彼女のレギュラー・カルテットに参加して、2020年3月までステージを共にすることになった。即興音楽の現在進行形を追求するだけでなく、自分のルーツであるフィンランドの血や、アメリカ各地の地下・辺境文化の歴史に敬意を払うレント・ロムスと、アメリカのアンダーグラウンド社会で生きる非遵法者の若者たちを総称するビート世代のオリジネーター、ルース・ワイスの出会いは必然だったと言えるだろう。

本作は2018年11月18日にサンフランシスコでロムスが企画したOutsound presents SIMMシリーズにおけるライヴ・レコーディングである。英語が母国語ではない日本人にとっては、英語のポエトリー・リーディングはハードルが高いと思われるかもしれないが、音楽が伴うと表情が格段に豊かになり、例えばラップと同様にひとつの音楽表現として自然に楽しめる。また、ワイスのポエトリーは中学生でもわかりそうな平易な単語・表現が多く、明朗で訛りのない語り口のおかげもあって、英語の歌に馴染んだリスナーなら多少は聞きとれると思う。だから詩全体の意味が分からなくてもイメージを広げることができる。CDのカバーカードにワイスがお気に入りのタイプライター(ジャケット写真参照)で綴った詩の原文が掲載されているので、読みながら聴くのもいいかもしれない。ワイスの詩には、既存の価値に異を唱えるビート精神が息づいている。拙い訳ではあるが、例えばこんな感じである:

re: ELECTION — fact or fiction
dump trump
his platform rotting wood
his band plays on
while the timbers crash

選挙について—事実か虚構か
捨て台詞*を吐く
朽木の演壇で
彼のバンドが演奏する
倒木の随(まにま)に

*trump:”切り札”と前大統領名をかけている

ワイスの提案で、コンサートは、同じ詩をふたつの異なる編成で披露する2部構成のプログラムとなった。“シンセサイザーマン”の異名を取るダグ・リナーのエレクトロニクスと、ハル・デイヴィスのくり抜いた丸太のパーカッションが荒涼とした音風景を描く前半(set one)は、時代を一人で生き抜いてきたワイスの心の中の孤独を強く感じさせる。レント・ロムスのサックス、ダグ・オコーナーのウッド・ベース、そしてハル・デイヴィスのパーカッションがレトロな味わいの即興ジャズを奏でる後半(set two)は、50年代にサンフランシスコのコーヒーショップで繰り広げられたビート詩人とジャズメンのジャム・セッションを彷彿とさせ、仲間と共に自由な表現を追求しながら90年の人生を歩んできたワイスの歓びに満ちている。1938年のヨーロッパ旅行の話から2018年アメリカ合衆国中間選挙まで、伝説のビート詩人ルース・ワイスの遍歴と思想を綴ったポエトリーが、ロムスたちのインプロヴィゼーションと見事に絡み合い、二つの異なる視点からアメリカのカウンターカルチャーの歴史を俯瞰する壮大なオーラル・ストーリーが描かれている。

ワイスは2019年に脳卒中を患ったが、2020年3月、コロナ禍でカリフォルニアがロックダウンされる直前に開催されたシネクエスト映画祭授賞式に出演できるまで回復した。しかし92歳の誕生日の1か月後の2020年7月末に再度脳卒中の発作に襲われて帰らぬ人となってしまった。このアルバムのタイトルは、ワイスが91歳の誕生日に書いた最後の詩の最後の行から取ったという。ワイスが本作の完成を見るまで生きられなかったことは残念だが、彼女のスピリットは燃える炎となって音楽の中に生き続けている。(2021年2月4日記)

剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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