#2064 『Manfred Krug, Uschi Bruning, Klaus Lenz Band – 1971 Live im Deutschen Hygiene-Museum Dresden (2CD)』国内盤:BSMF-7627 『マンフレート・クルーク、ウッシー・ブリューニング、クラウス・レンツ・バンド / 1971 ライブ・イン・ドイツ・ハイジーン・ミュージアム・ドレスデン (2CD)』

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text by Ring Okazaki 岡崎凛

Klaus Lenz –Trumpet
Friedhelm Schönfeld –Alto Saxophone, Flute
Rudolf Ulbricht –Tenor Saxophone, Flute
Sieghard Schubert –Trombone
Dieter Pampel – Guitar
Mario Peters – Organ, Piano
Jörg Dobarsch –Bass Guitar
Frank Endrik Moll –Drums

Recorded in 1971 in Hygienemuseum Dresden
Sound Engineer – Eberhard Brettschneider, Jürgen Krasser
Recorded By – Berliner Rundfunk
Produced By – Soundstudio Berlin
Vocals – Manfred Krug, Uschi Brüning
Presentation(moderation)* -Werner Sellhorn (music writer)& Manfred Knug

以下、収録曲以外に司会者や出演者のトーク(* presentation)も含まれる
CD 1:
1 *presentation by Werner Sellhorn
2 Sorcery [Klaus Lenz Band] (Music: Keith Jarrett)
3 Hi – De – Ho [Manfred Krug] (Music & lyrics: Carole King und Gerald Goffin)
4 Something [Manfred Krug] (music & lyrics: George Harrison)
5 *presentation by Manfred Krug
6 *presentation by Manfred Krug
7 Lucretia MacEvil [Manfred Krug] (nusic & lyrics: David Clayton Thomas)
8 Neubeginn [Klaus Lenz Band] (music: Sieghart Schubert)
9 *presentation by Werner Sellhorn
10 Higher [Uschi Brüning] (music & lyrics: Sylvester Stewart(Sly Stone))
11 Sometimes in Winter [Uschi Brüning] (music & Lyrics: Steve Katz)
12 Let Me Sing a Song [Uschi Brüning] (music & Lyrics: Traditional )
13 Take Me Down Little Moses [Uschi Brüning] (Music & Lyrics: Traditional)
14 *pesentaion by Werner Sellhorn
15 Sombrero-Sam [Klaus Lenz Band] (music: Charles Lloyd)

CD 2:
1 Moritz I. [Klaus Lenz Band] ( Music: Sieghart Schubert)
2 presentation by Werner Sellhorn
3 Boot nach New York [Manfred Krug] (music: George Gershwin, lyrics: Ira Gershwin, translation: Götz Friedrich & Horst Seeger)
4 *presentation by Manfred Krug
5 *presentation by Werner Sellhorn
6 Manfreds Blues [Manfred Krug] (music: Manfred Krug – Lyrics Walter Kaufmann)
7 33/8-Tanz [Klaus Lenz Band] (Music: Don Ellis)
8 *presentation by Werner Sellhorn
9 Can’t Explain [Uschi Brüning] (music & lyrics: Günther Fischer and Etta Cameron)
10 You’re No Good – I never loved a man (the way I love you) [Uschi Brüning] (music & lyrics: Ronnie Shannon)
11 Son of a Preacherman [Uschi Brüning] (music & lyrics: John David Hurley and Ronnie Stephen Wilkins)
12 God Bless the Child [Manfred Krug] (music & lyrics: Billie Holiday and Arthur Herzog Jr.)
13 Let It Be [Manfred Krug] (music & lyrics: John Lennon and Paul McCartney)

本アルバムの概要
2021年3月26日発売予定の本作は、1970年ごろの東ドイツに、どれほど米国のジャズ、ロック、ソウルが浸透していたかを伝えるライブ盤2枚組である。当時の東ドイツのミュージシャンたちは、米国やイギリスの最新音楽を知り尽くしていたのではないかと思うほどだ。米英でのヒット曲や音楽家が注目するものをしっかり吸収し、独自に発展させている。冷戦下の東西を分断する「壁」をすり抜けるように、魅力ある音楽は「東側」に流れ込んだのだろうか。

男性歌手マンフレート・クルーク、女性歌手ウッシー・ブリューニングの2人をフィーチャーしたこの2枚組は、ポップな歌ものに仕上がっているが、クラウス・レンツ(tp)が率いる8人編成バンドの熱気に満ちた演奏も聴きどころだ。

東ドイツで俳優としても人気のあったマンフレート・クルークと、新人ながら着々と音楽キャリアを重ね始めていたウッシー・ブリューニングが、それぞれ英米のヒットチューンなどを堂々と歌い上げる。その歌声を個性豊かなアレンジで支えるのがトランぺッター、クラウス・レンツのバンドだ。彼らは2人のバックを務めるだけでなく、インスト曲も披露するが、カヴァー曲もオリジナルも野心的で、じつに充実している。のちにクラウス・レンツ・ビッグバンドが結成されるが、このバンドはその前身と言えるものだろう。

本作にはコンサートの案内人である音楽ライターのドイツ語での解説や、人気歌手マンフレート・クルークの幕間トークのようなものも収録されている。曲紹介でpresentationと示した部分で、内容は分からないが、当時の東ドイツのコンサートの雰囲気が伝わってくる。
著名な俳優だったマンフレート・クルークは、マンフレート・クリュグ、クラッグ等の表記でも日本に紹介されている。政治的な事情で1976年に東ドイツから西ドイツに移住した彼は、その後も俳優・歌手として長く活躍したが、2016年に79歳で他界した。

50年前の東ドイツの音楽シーンの熱気に触れ、60~70年代に日本でも流行した英米のヒット曲を聴くのは、長く洋楽ファンを続ける者には楽しい体験だった。

CD1
最初に音楽ライターのヴェルナー・セルホーン(Werner Sellhorn)がドイツ語で語るのは、メンバー紹介のようだ。観客の拍手に続いて聴こえてきたのは、チャールズ・ロイド『Forest Flower(1967)』の〈Sorcery〉。東独のコンサートの1曲目にこの曲が出てくるとは予想できず、かなり驚いた。

クラウス・レンツ・バンドのインスト曲に続いて、東独の人気ヴォーカリスト、マンフレート・クルークが登場する。彼が歌う〈Hi‐De‐Ho〉は、キャロル・キングがソロ・デビュー前に参加したアルバム『Now That Everything’s Been Said(1968)』の収録曲。これにジョージ・ハリスンの〈Something〉が続く。その後はクルークのトークタイムを挟んで、ブラッド・スウェット&ティアーズの1970年ヒット曲〈Lucretia MacEvil〉がソウルフルに歌い上げられる。バックではクラウス・レンツ・バンドの4本のホーンが高らかに鳴っている。

その後、バックバンドがオリジナル曲を演奏し、東独ジャズロックの濃厚な味わいに触れた後、いよいよ若手女性ヴォーカリストが登場する。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの〈Fire〉でソウルフルでキレのいい歌を聴かせる一方で、ブラッド・スウェット&ティアーズの1968年曲〈Sometimes In Winter〉では、スローな曲をしっとりと歌い上げる。ゴスペル曲〈Take Me Down Little Moses〉での迫力ある歌声に、エラ・フィッツジェラルドや米国のソウル系シンガーを連想した。

CD1の最後は、クラウス・レンツ・バンドがチャールズ・ロイド曲〈Sombrero-Sam〉を演奏する。当時流行していたサイケデリック音楽の影響が感じられ、ジャズ、ファンクとフリーインプロが織り混ざった先鋭的な演奏だ。ファンキーなカッティングギターの乾いた音に、フルートやオルガン激しく絡む展開の後、次第に静かな演奏になっていく。フルートとドラムの長いソロに観客が拍手を送り、最後にテーマに戻る。

CD2
1曲目はクラウス・レンツ・バンドのオリジナル曲に始まり、マンフレート・クルークが登場してドイツ語でガーシュウィン曲を歌う。その後トークを挟み、自身が作曲したブルースを、軽やかなスキャットを交えて披露する。

7曲目で再びクラウス・レンツ・バンドの演奏となる。この曲は〈33/8-Tanz〉というタイトルから考えても明らかに変拍子曲だが、その作曲家と記されるドン・エリスのアルバムを調べてもこの曲名は出てこなかった。(ドン・エリスは変拍子曲を得意とするバンドリーダーとされている)東欧フォークロアの舞踊曲を思わせるメロディが面白い曲だ。CD2を聴き始めて、クラウス・レンツは変拍子曲が好きなのだろうと思った。

9曲目でウッシーが再登場し、〈Can’t Explain〉を歌う。東独のサックス奏者で作曲家のギュンター・フィッシャーによるオリジナル曲だ。低い歌声に始まってドラマチックに展開する複雑な曲を、彼女もバックバンドもみごとに盛り上げていく。

アルバム終盤に向かうとまたヒット曲カヴァーが並び、ウッシーがアレサ・フランクリンの〈I never loved a man (the way I love you) 〉、ダスティ・スプリングフィールドの〈Son of a Preacherman〉を歌う。
アルバム最後の2曲はマンフレート・クルークが歌うビリー・ホリデイの〈God Bless the Child〉、ビートルズの〈Let It Be〉で、いずれもゴスペル・テイストたっぷりだ。そこに凝ったアレンジが施され、独特のソウルミュージックが生まれている。
〈God Bless the Child〉はバックバンドによるソウル色の濃厚なアレンジとマンフレート・クルークの歌唱力がみごとに融合し、素晴らしい1曲に仕上がっている。この曲から〈Let It Be〉への流れも素晴らしく、アルバムのフィナーレを飾っている。

その後結成されたクラウス・レンツ・ビッグバンド
本作の中心人物であるクラウス、マンフレート、ウッシーは、当時の米国のジャズ、ジャズロック、英米ポップスなどのエッセンスを吸収し、時代の旬を楽しむかのようにカヴァー曲を作り上げているように思う。彼らはどんな風にキャロル・キングやチャールズ・ロイドを知ったのだろうか? レコードだろうか、ラジオだろうか? 残念ながらその過程を知る資料はなかなか見つからない。

マンフレート・クルークは70年代後半に西独に移ったが、ウッシー・ブリューニングとクラウス・レンツはその後も東独のジャズ界で活躍した。
2人はその後もアルバムをリリースしているが、中でも興味深いのはクラウス・レンツ・ビッグバンドによる1976作の『Aufbruch』だ。国営レーベルAmiga在籍最後のアルバムとなったが、本作で炸裂したレンツらしいジャズロックを踏襲した作品だと思う。(本作の音源は公開されていないので、こちらの動画を紹介しておきます)

 

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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