#2062 『Liudas Mockūnas / Arvydas Kazlauskas / PURVS』
『リューダス・モクツーナス、アルヴィーダス・カズラウスカス / 湿地』

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Text by 剛田武 Takeshi Goda

LP/DL : Jersika Records  JRD 003

Liudas Mockūnas – sopranino, soprano, tenor, bass and keyless overtone saxophones.
Arvydas Kazlauskas – soprano, alto and baritone saxophones.

A
1. Atavaras(オープニング)
2. Gilluwā(深さ)
3. Taka(小道)
4. Madla(祈り)

B
1. Urwan(洞窟)
2. Duobe(穴)
3. Deja(踊り)
4. Drugys(蛾、蝶)

C
1. Turbs(泥炭)
2. Šmekla(霊)
3. Zilās Sūnas(青い苔)

D
1. Strāuwa(流れ)
2. Gyvatyne(蛇の中)
3. Kupsts(ショック)

All music composed and performed by Liudas Mockūnas and Arvydas Kazlauskas.
Track D1 starts with a fragment from composition “Hydro”, composed by Liudas Mockūnas. Track C2 ends with a melody of composition “Ghost Saga” composed by Liudas Mockūnas.
Recorded on September 15. – 16. 2020 at Drabiņi bog and Peat Amphitheater Solstice, Valgunde parish, Jelgava region, Latvia.
Recording Engineer: Mārtiņš Krastiņš
Lacquers cut at MY45 by Arne Albrecht
Produced by Mareks Ameriks.

bandcamp

音楽の精霊を呼び起こす祈りの即興デュオ演奏

ポーランド、ドイツ、ロシアという大国に囲まれ古代から侵略と独立を繰り返してきたバルト三国には太古の記憶を留める土地がいくつもある。そのひとつがPURVSと呼ばれる湿地帯である。新型コロナのパンデミックの直後2020年9月に二人のミュージシャンが湿地帯を訪れ、泥炭で造られた円形劇場に集まった限られた観客の前で野外コンサートを行った。リトアニア出身のリューダス・モクツーナスとラトビア出身のアルヴィーダス・カズラウスカス。どちらもバルト三国だけでなくヨーロッパを代表する即興リード奏者である。それぞれ数種類のサクソフォーンを使っての二人だけの演奏は、時に慈しむようにやさしく、時に騎馬の嘶きのように勇ましく、沼地の風に乗って宇宙へ拡がっていく。二つの音の重なりに、その場に立ち会ったもの全員が想起したのは、過去・現在・未来を繋ぐ悠久の時の流れだったという。

前半(LP1 )がドラビニ湿地帯、後半(LP2)が泥炭の円形劇場 “Solstice “でのライヴ録音。曲名はラトビア語、リトアニア語、旧プロイセン語(現在は使われていない古語)というバルトの三つの言語で名付けられた。

貪欲なほどの実験精神を誰憚ることなく発揮し、音で魔法をかけあうような陶酔感に満ちた音世界は、音楽演奏というよりある種のトライバルな儀式のように聴こえるときもある。演奏テクニックのスリルや、即興演奏のシンパシーを求めると肩透かしを食らうほど濃厚なトランス感に満ちている。しかし頭の中に広大な草原や湿地をイメージして聴くと、豊潤な自然の恵みに似た祝福の音楽であることが分かる。ジャケット写真は泥炭円形劇場の航空写真だが、古代ローマのコロシアムや天照大神の天岩戸を思わせないだろうか。そもそも音楽演奏のはじまりはシャーマニズム信仰の儀式に付随する歌謡や舞踊にあったと言われている。二人の即興サックス奏者による、古代の記憶と眠れる精霊を呼び覚ますデュオ演奏は、音楽の原初の形を取り戻す試みに違いないのである。(2021年3月1日記)

 

剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰

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